大団円 其の六 ガルガンチュア、銀河系へ帰還す
うーん……ついにガルガンチュアの旅と、楠見の宇宙の冒険が一段落する時が来ました。
「師匠!何処行ってたんですか?!もしかして、贈り物の件ですか?」
郷が聞いてくる。
楠見は、それに答えて、
「ああ、大当たりだ。まあ、皆にも話そうか……」
重力傾斜のど真ん中に、贈り物があったこと。
そして、それが、次の宇宙の誕生に関わる条件を変更・設定できるというトンデモ品だったこと。
「……そしてな……ほとんどの条件は変更しなかったんだが、俺の独断で、宇宙の天災発生率減少と、規制や禁止されていた種族たちの生命体としての発生を許可した。具体的に言うと、エルフやドワーフ、ハーフリングなんてファンタジーの亜人種族や、同じくファンタジー系統の龍族、そして、魔族の種族発生も許可した」
「こ、こりゃまた驚天動地なことを、いとも簡単にやってのけるのがご主人様ですね。確かに、私の記憶にあった前の周期の宇宙には、そんな生命体は存在しませんでした。でもまぁ、それが許される存在って、もう管理者たちより上位になるのではないでしょうか?」
エッタが発言する。
確かに、管理者たちの仕事は生まれた宇宙の管理と維持が主であり、そんな生命体を好き勝手に発生許可とか禁止とかできるわけがない。
「ちょっと待ってください。キャプテンの言葉を直接聞いても、未だに信じられませんが、それが行われて、次の宇宙の誕生時に、その条件が読み込まれるのだとしたら……キャプテンは、管理者とか、その上位存在とか飛び越してませんか?どう考えても、次の宇宙の生みの親に近い存在になりません?」
「僕も、そう思いますね。父さん、あなたの行動は、もう宇宙の創造神の右腕に近いんじゃないかな?もう今の段階でも、この宇宙から飛び出てしまった存在になりますよね」
太二にまで同じ発言をされた楠見は、とうとう秘密を明かすことにした。
「あのな、みんな……実は、俺の寿命は、この宇宙と同じになった……というか、この宇宙にある「次の宇宙の誕生時の条件を変更できる存在」が、俺たった一人なんで、この宇宙が終わるまで死ぬことが許されないようだ」
クルーやガルガンチュア本体まで、この爆弾発言には驚愕した。
どこの世界に、生物として生まれた生命体、肉体を持っている生命体という意味で、精神生命体と同じ寿命(それも、たぶんミニマムで。現宇宙の終了と同時に肉体を捨てて、楠見は精神生命体へと進化するだろう……ただし、今でも管理者たちより大きな潜在エネルギーを内包する楠見が精神生命体になってしまった場合、それは管理者とか、その上位存在とかすら凌駕してしまう、一種の精神エネルギーの怪物、言い換えると「宇宙の創造者」の一人になる可能性すらある)を持つなどという事自体が、本来はあり得ない。
普通は、どれだけ生物進化したとしても、到達点は下位の精神生命体(それでもスゴイ!)
楠見は、今こそ理解した。
「どうやら、始祖種族の最先端研究の成果物みたいだな、俺って存在は……」
楠見は、自分の理解したことを話していく。
* 始祖種族は、科学文明の頂点に達し、それ以上の成長を見込めなくなってしまった
* そして、種族としての進化・成長のブレークスルーとして精神エネルギーの増大と強化の、尽きることなき実験と検証の時代が訪れた
* しかし、数十億年を超える研究と実験も、始祖種族には成功者として超人が生まれることはなく、その研究と実験は、次の宇宙周期に引き継がれた
* 幸いにして始祖種族には、超絶的科学文明があったので、宇宙の終末に対して不安も恐れもなく、種族として次の宇宙発生時にも生き残る
* この宇宙の周期に、始祖種族は、とんでもない実験を思いついた……
「それが様々な人類種の中から、その時代に一番、精神力の強い個体を選び出し、その遺伝子を混ぜ合わせることだ……もう気づいたかも知れないが、それが銀河系、太陽系の地球にて極秘に行われて、その結果を見るはずだった始祖種族は何らかのトラブルで実験継続・管理を放り出して、多分だが、この宇宙とは別の多元宇宙へ種族ごと引っ越したらしい……そしてだ、その放置された地球に残された人類種の中から、先祖返りどころか、始祖種族をも遥かに超える生命体、純粋な人類種ではあるが、精神的には怪物、潜在的な精神エネルギーは創造者にも匹敵するというアンバランスの極みという存在、つまり、俺、楠見糺が生み出されてしまったってわけだ」
クルーもガルガンチュア端末たちも声が出ない……
「どうも、俺がプロフェッサーの脳領域開放実験で目覚めた時に、管理者の上位者たちは気づいていたふしがあるな。そうでなきゃ、都合の良い時に都合よく、フロンティアの沈む木星の海近くに、俺が長期派遣されるなんておかしいことに気づいたんだ。あのころ、まだまだ地球にも火星にも未解決のトラブルはゴマンとあったから、至急対応も何件もあったろう。それを放り投げてまで、わざわざ俺をトラブル解決にと木星に行かせるほうがおかしい……たぶんだが、フロンティアを利用することによって、俺の力の一部でも銀河や銀河団規模で消費させたかったんだろうな……そういうわけで、フロンティアから続くガルガンチュアってのは、俺の力を大宇宙という無限のフィールドで発散させるための道具になるはず……だったんだが、俺の行動が普通の管理者たちにバレてしまい、次々と試練や依頼としてトラブルシューティングが舞い込んでくることとなった……フロンティアもガレリアも、前のマスターの時には退屈な銀河団調査の旅だって言ってたけど、それが普通……俺って特大の特異点を乗せてるから、波乱万丈の宇宙航行となってしまったってことには、俺としては謝るしかない」
「何を言ってるんですか、マスター!我々ガルガンチュアの全ての総意として、あなたを統合マスターに迎えてから、これほど刺激的に宇宙を旅したことはありません!こちらこそ、感謝します。我々を、これほど有意義に使いこなしていただいたマスターは、クスミタダスその人しかいません!今さらですが、シリコン生命体種族のマスターになど戻る気はありません!」
「ありがとう、深く感謝する、フロンティア……いや、ガルガンチュアよ。君らと郷、エッタ、ライム、マリー、太二、プロフェッサーの皆がいてこそのガルガンチュアであり、チーム・家族になれたと思う」
楠見は、そこで一息つき、今度は管理者へ向けてテレパシーを送る。
《聞いてたんだろ、管理者。これからも、俺達ガルガンチュアチームは、要請があれば宇宙のどこでも行くと断言しよう。で、一つ提案したいんだが》
【聞いていた、クスミよ。我々にも驚愕の事実だが、多分、推測の域ではなく、推測から導き出した太古からの歴史の真実だろうな。で、提案とは?】
《俺達の自由気ままな宇宙の旅は、ここで一旦終了としたいんだ。俺達のホームとなる銀河で、俺達チームは休暇を取りたい……それは銀河系、太陽系の地球だが、一つだけ心配なことがある……俺の力が暴走する恐れは、どのくらいあるんだろうか?》
【それなら心配ないぞ、クスミよ。休暇地の指定も、その銀河のすぐ近くの空間ポイントへのガルガンチュア移動も、我々に任せるが良い。で?緊急時には、出動してくれるんじゃな?】
《それは確約する。俺達でなければ実行不可能なトラブル解決法もあるので、そちらの手に余る災害やトラブルが発生したら、すぐに呼んでくれ》
【分かった……では、契約締結ということで、いますぐ送ろう】
その瞬間、ガルガンチュアは奇妙な空間ポイントから消え、次の瞬間、銀河系のすぐそばのポイントに出現していた。
次回、本当に本当の大団円、全ての章と物語の最終話です。