惑星間航行の日常 主人公は冷凍睡眠中だけどスパルタ訓練中!
まだまだ主人公は冷凍睡眠中。
でも裏では人工頭脳が何やら仕込んでいます……
あれ?
俺って今、冷凍睡眠中のはずだよな、そのはず、なんだが……
え?
これ何?
なんで今、授業中なの?
それに、個人教授のように、いっぱい俺の周りに先生がいるんですけど……
ま、いいや。
知識を覚えるのは悪いことじゃない。教えてくれるっていうんだ。
しかも、とんでもない量と高度な知識を。
やったやろうじゃないの、どんとこいですよ!
ふう、危なかった。
私の所有者たる人間、これほど鋭いとは思わなかった。
通常、冷凍睡眠中は脳しか働いていないため睡眠教育に最適な環境、つまり対象者に不信感や拒否感を起こさせにくい環境、のはず。
それを我が主は……
さすが潜在的天才!
しかも元々の知識欲が優っていたために今は通常の兵士教育よりも数段と効率のいい教育スピードとなっている。
ん?
更に知識の吸収スピードが上がっていく、だと?
私の思考機械としての興味がわく。
この人間、わが主は、どこまで底が深いのだ……
私は、もう距離で言うと半分ほどになった火星の人工頭脳に協力を要請し、更なる睡眠教育プログラムを実施することにした。
火星の人工頭脳から貰ったプログラムは「脳と知識の効率的な運用方法について」だ。
具体的に言うと二重思考を含む多重思考の方法を教えるもの。
これで膨大な知識を上手に活かせる状態になる。
ただし火星の人工頭脳いわく、
「これが怪物を生み出す原因にならないことを祈っている」
だそうで。
まあ、わが主の性格では怪物どころか悪人にもなれないだろうが……
この人物、基本的に優しすぎる。
義務教育期間(現在では何らかの支障が無い限り無料で20歳まで教育が受けられる)でも他の人間が他人を追い落とそうとしている環境の中で、追い落とされる他人のことを考えて自分は身を引くなどと一種の聖人君子のような行動を何回も選択している。
現在の境遇も、その選択の果て……
こともあろうに、この人物、結構な大企業に入社が内々定していたにも関わらず内定の無かった友人のために自分の内定企業を勧め、そのために足切りで自分の職を無くしてしまっている。
現在でも優しいからトラブルシューティングも自分が出来る苦労は全て引き受け、仕事が終わっても成果や名声は全て派遣先の上司や他人の物……
そんな毎日を不満もなく過ごしていく。
そんな人間が怪物なんぞになれるわけがない。
私は、そう確信に似た感情を味わいながら宇宙空間を疾駆していくのだった。