ガルガンチュア、クルー募集 其の二
楠見が迎えに行く前の、楠見太二くんの現在です。
さて、トラブルに巻き込まれてる(突っ込んでいってるのか?)太二くんは、無事に楠見父と会えるのであろうか?(笑)
楠見がガルガンチュアより消える数年前……
ここは、かつてガルガンチュアが訪れ、奇しくも楠見が……義理ではあるが……息子を育て上げた星のある銀河。
そこには、きな臭い戦争の兆候があった。
「第一銀河統制官へ、こちらクスミ。大企業の元会長という立場で現場の視察へ来たが……こりゃ、この星の統制官は捕まって、どこかに幽閉されているようだな。まあ、統制官を幽閉するような政治体制を取るような国家など、ろくなもんじゃないのは当然だろうが。統制官代理という人物と話したが、あれは権力欲の塊だな。とりあえず、私の権限で、我社の生産・管理している宇宙船の跳躍エンジンと跳躍航法装置は凍結している。もう少しで隣の星系へ侵略部隊を送り込むところだったので、相手も焦りまくっとったぞ」
あいも変わらず、銀河から消えた父の跡をついで、自分の銀河内ではあるがトラブルシューターとなり、あっちの星系、こっちの星と走り回っている太二くん。
今回は、火消し役のようである。
5百年ほど前に、ようやく銀河が統一政府となり、其の頃すでに隠居して未開惑星に引きこもっていた太二くんであったが、統一政府の慢性人員不足が原因で、あっちからもこっちからも反統一政府運動が起きてしまう。
その原因?
お隣の星系に統一政府のお偉い方から援助が入ったが、うちらの星には援助も視察も来ない……
こんな馬鹿な政府に従えるか!
という、お決まりの我田引水理論である(別の言葉で、我儘なガキ)
とは言え、一つや二つの星で反乱運動の兆候が見られるというくらいで統一宇宙軍を派遣していたのでは軍の艦艇も人員も何もかも足りなくなる。
そこで、もう隠居生活には入っていたが、銀河統一前からの最大功労者であり未だ衰えることのない精神と肉体を保持しているという、もう半分伝説になっていた楠見太二その人に再び光が当たる。
第一統制官から土下座で頼みこまれてしまい、断るに断れない状況で、じゃあ、きな臭い星や星系にクスミグループの元会長権限で視察に行き、経済的な反目ならその場で解決し、政治的なイデオロギーの違いなら政府介入という線引き役を買って出た太二くん。
まだ、この星だけの反乱ではあるが、これを放置しておいては星系全て巻き込むことにもなりかねんと、急ぎ第一統制官に連絡する太二くんだが、その前に軍用も民間用も全ての宇宙船の跳躍エンジンと跳躍航法装置にブロックかけることは忘れないのが素早い。
まあ、こんな事ができるのはクスミグループが全ての宇宙船(軍用、民間用問わず)を造っているから。
当然、宇宙船を動かす総合コンピュータシステムは自我を持ち(通常は使用者には気づかれないようにしている)その総合コンピュータに機能ブロック命令などできるのは、この銀河の中では、ただ一人。
「宇宙船及び、その関係の、この星系全ての統合コンピュータへ最優先命令!全ての宇宙船の跳躍航法装置及び、跳躍エンジン制御装置をブロック・機能停止しろ。以後、私が命令するまでブロック解除は禁止する」
この一言を星系向けのオープンチャンネルで太二くんが発信し、今の状況につながる。
あわてて、統制官代理とかいう、見るからに腹に一物ありそうな悪者顔の政治家が、太二くんのいるホテルに、すっ飛んできた。
いかにも全速力で走ってきたかのように汗だくで、息も絶え絶えになっているようだが、
「勝手に、我が星系軍と民間宇宙船の全ての跳躍航法が使えなくするとは!儂の許可も取らずに、一民間企業の、それも隠居した元会長が、なんということをしてくれたのかね!」
そう言うと、汗だくの統制官代理はホテルのボーイに持ってこさせた水を今ではコップじゃ足りないとピッチャーから直接飲んでいる。
太二くんとしては何を今更という風に、
「私の権限で、ここの争いを他星系へと伝播させないようにしただけです。ちなみに、怒りのあまり私を、この場で撃ち殺したとすれば、もう二度と、この星系内で光より早く跳べる宇宙船は造れないし、この情報が広まれば他星系からの宇宙船は1隻も来なくなります。この星系自体、宙域封鎖対象となりますので」
あっけらかんとした発言である。
宇宙船どころか他との星系同士の貿易すら不可能となると認識した、その汗だくな政治家は、これ以上は相手に何も出来ない、手を出したが最後、星系自体が終了すると腰砕けになる……
「残念でしたねー、代理さんとやら。もうすぐ統一政府から派遣されたエスパー部隊が到着しますので、それまでに言い訳考えておいたほうが良いと思いますけど?あ、幽閉してる本来の統制官は、もうすぐ救出されるようなんで、もう無理かもね」
にこやかに相手の破滅宣言をする大二くん。
そりゃもう、にこやかに。
遥かな過去に、もしも生きていた人たちが今に生きているなら、その笑う表情は本当に伝説の域にある、太二くんの父親にそっくりじゃないかと思うことだろう。
ちなみに、この人物が確保される時に悪あがきとでも言うかのように一見弱そうに見える(スーツを着たりすると太二くんは細く見える。実は筋肉質なんだが)民間企業の元会長と名乗る人物を拉致して逃げ延びようと思ったようなんだが……
「お、俺が撃たれるより速く、こいつの腹に穴が開くぞ……ほれほれ、道を開けろ!逃走用の車の用意も忘れるなよ!」
元会長としては護衛の空きを突かれた格好になったが、
「お?君は本当に私を人質にできると思っているのかね?」
太二くん、一言。
これが最終ポイントになるとは露ほどにも思っていない犯人、嫌な汗とは気づかず大量の汗を流しながらも、
「う、うるさい!人質が何を勝手に喋ってるんだ?!黙ってついてこないと、このナイフが刺さる……」
そこまで言って、こいつは太二くんの腹に当てているはずのナイフが、いつの間にか手の感触と共に無くなっているのに気づく。
「あ、あれ?」
ナイフを持っているはずの右手を持ち上げようとして、初めて右腕が手首から折れ曲がっていることに気づいた。
「うっぎゃー!いててて、いてー!手首が折れてやがる!」
叫びながらも左でナイフを拾おうとする犯人に、自由になった太二くんの、もはや鮮やかとも言うべき正拳が入る。
ごワシャ……
変な音と共に顔があらぬ方向に曲がる。
「死ぬほどまでには力は込めてない。まあ、一生、病院ぐらしで済ましてやる」
あくまで、にこやかに言う太二くん。
父である、遥かな過去には格闘技界世界一と言われた人物を彷彿させる正拳の一撃であったが、
「はぁ……鈍ったなー、技のキレも力も瞬発力も……もう一度、どっかの未開拓星にでも単独で行って、三年ぐらい武者修行するかー」
この一言である。
軍や官憲の集団が駆けつけてきたときには、もう現場にいた数人の警官たちに首謀者であり半身不随になっている犯人を引き渡した後だった。
「さて、これで大丈夫かな?跳躍エンジンや制御回路のブロックを、元に戻さねば!」
ひと仕事終えても、まだまだ視察も次の仕事も残っている太二くんであった……