銀河のプロムナード 大団円に向けての伏線
まず、短編で伏線だけ張ります。
次の話は本編になる予定。
ここは、この大宇宙の、どこでもない場所、どこでもない時間の、とあるポイント。
ここでは恒例となった感のある議題についての定例会議が開かれていた。
参加者は肉体を持たない精神生命体や宇宙の管理者たち。
そう、ここは、この三次元宇宙の大きな出来事から、ごくごく小さな個々の生命体に至るまで、大宇宙にとって有益で重要な報告と計画を行う重要な会議場。
定例報告を終えた議場では、例によって、今では定例会議どころか臨時会議にまで議題に上がる、例の議題が上げられている。
ここでは声帯など存在しない。
よってテレパシーが普通なので、あえて通常音声会話と区別しない。
「それでは、もう日常的となりつつある、例の件について。定例報告でも、例の宇宙船グループが頻繁に報告すべき重大点となりつつあるため、これから我々が例の宇宙船、今はガルガンチュアと言ったか、この巨大合体宇宙船と、そのクルー、具体的には6隻もの銀河団渡航巨大宇宙船が合体した超銀河団渡航の超巨大宇宙船ガルガンチュアのマスターであるタダス・クスミだな。これらの、言ってみれば特異点の塊とも言える大宇宙の修理屋集団を、どうするのか?それを議題としたい」
議長らしき存在が発言する。
それに瞬時に対応するかのごとく、
「議長、それについて最新の情報が入りました。特異点となりつつある宇宙船ガルガンチュアは、また改造と改修を重ね、異形の巨大惑星となりました。今までの形式でも内包するエネルギーは中型太陽数個分となっていましたが、改造・改修後の現在は、中型太陽10個分ほどの膨大と言うにも程があるほどのエネルギー量となり、それまでにも増して、あっちやこっちの銀河単位で宇宙震、宇宙台風、銀河衝突まで積極的にトラブルの解決に動き出しております」
議長の顔色が曇る。
「そうか……これでまた、いくつかの銀河で重要案件が解決したわけか……ありがたいことではあるが、我々の仕事が本当に宇宙の管理と監視になってきた感はあるのぅ……あっちもこっちも重大な案件で目が回るような忙しさだった過去が懐かしいほどじゃな。ガルガンチュアとマスタークスミには、いくら感謝してもしきれんのじゃが、あの男に感謝とともに礼をやろうとしても即決で断ってくるのが目に見えておるしのぅ……」
議長の愚痴とも、暇になったことに心よりの感謝と礼すらできない現状を嘆いているような文言に会議の参加者より意見が出る。
「議長、提案があります。もう、ガルガンチュアとマスタークスミらガルガンチュアクルーを、ひとまとめにして、精神生命体や我々のような宇宙の管理者と同等と認めてしまえば良いのでは?肉体を持つ生命体として極限までの力を持ちつつあるマスタークスミなど、もう人類という種から精神生命体に進化させてしまうほうが本人のためにも良いかと考えます。精神生命体となれば宇宙船など不要になりますぞ」
その意見を聞いた他の参加者より、違った意見が出る。
「マスタークスミを知らぬものであれば、そう考えるのが普通よな。しかし厄介なことに議員殿の言われた提案は随分前からマスタークスミに言っておるのじゃ。そのたびごとにマスタークスミは何と言うか、聞きたいかね?」
「ぜひともお聞かせ願いたい。随分前からということであれば、そのたびごとに断っておるのだろうが。肉体を持つ存在が精神生命体や管理者の次元に引き上げられるのを断るとは思えんのだが?」
その言に答えるかのように、
「私は人類として普通の人間として目の前にある危機やトラブルに対処してきただけです。それを栄誉というなら私の他にいくらでも候補はいるでしょう。私など、まだまだタンパク質生命体の小さな一人ですので、その栄誉と特典は、ぜひとも他のふさわしい生命体に。私は超銀河団を渡れる許可を貰うだけでも一番の名誉と褒美だと思っております……これを毎回、固辞の理由としておるのだ」
「本人は、それを真面目に言っておるんじゃろうか?業績と、自分の力の大きさを理解しておらんとしか言いようがないんじゃが?」
何処から、そんな意見が出る。
惑星や星系に縛り付けられている神や悪魔の如き小さなものではない、精神生命体という進化の頂点、それも宇宙の管理者という精神生命体でもエリート種族に引き上げてやるという提案を、まさか固辞する生命体がいるとは、にわかに信じられるものではない。
「確かに、肉体を持つ生命体の中でも弱者に入れられるタンパク質生命体から、一気に精神生命体でもエリート種族となる管理者のレベルになれるというのに、それを断り、何度も提案しても固辞するという、もう頑固一徹という生命体も珍しい、というか、その基本となった始祖種族すら超えた力を持つ個体なのに、肉体を持つという弱点を抱えながら、やっていることは管理者のレベルのトラブルシューティングばかりと……」
議長が、また暗い顔色になり、トーンダウンする。
「さっき疑問に答えてくれた議員殿にお伺いしたい。マスタークスミは、どのような希望や願い、欲を持っておるのだろうか。我々の仕事を知ってか知らずかは別として、行く先々の銀河や銀河団単位で宇宙そのものを平和で安全なものに変えているなどと言う激烈な仕事を、ある意味、好き好んでやっているというのは、どういう心境だろうか?」
議長の問に、さきほど答えた参加者の中から、
「それは、まだマスタークスミが故郷の銀河を出てから少し、故郷銀河の周辺を平和にしていた頃にですね、私の知り合いである管理者の一人が聞いてみたらしいのです。あなたは何故、肉体持つが故に限られた寿命しか無い生命体であるマスタークスミが、はるか上位の管理者たちでも難しい事案やトラブルを、誰も期待してなきゃ救ってほしいとも思ってないのに、自分から首を突っ込んで危険に飛び込んでいくのか?と……」
「そ、それで?!マスタークスミ自身が答えたんじゃな!」
「それがですね……自分が救えるもの、目の前で苦しむものを救うのに理由が必要か?ですと。見知らぬものだろうが、人類ではない全く未知の種族であろうが関係なし、自分の目の前で起きているトラブルや災害から、救えるものは全て救いたいと行動しているだけ。こんなもの、俺と同じ境遇と力があるなら誰でもやることだろうと、そう言っていました。あ、あと、このガルガンチュアも、ガルガンチュアクルーもすべてが俺の家族だと。家族と離れ離れになりたくないので、俺が人類を辞める事はありませんと、きっぱり言い切りっておりました」
議長も、他の参加者も、これを聞いて呆れ返る。
言うならば、マスタークスミは人類の形だけ真似た、膨大な力を持つ「何か」の顕現体ではないか?
行動も異常なら、その思想と願いも常識を超えている(管理者すら)
「それを聞いて、私は議長として、我々より上の権限を持つ上位存在に提言することがあると思い至った。この会議での情報を上位存在に知らせ、ぜひともガルガンチュアとマスタークスミ含むクルーたちの、今より良い境遇と仕事が与えられるよう、提言する」
以上、これはガルガンチュアどころか宇宙の管理者以外には極秘事項となる。
この管理者たちの会議と結論は、未来において、ガルガンチュアと、そのクルーたちに意外な結末をもたらすこととなる。
だがそれは、まだ語られることはない……
まだ、もう少し……