ガルガンチュア、完成?! その十六
良いところで切りましたが、これからが長いからです(笑)
こういう場面、説明文が長い理由が分かりました(笑)
作者としては発言者の心情も理解してほしいんだよねー(笑)
ガルガンチュアは超大型宇宙船(と言って良いのかどうか迷うほどの巨大サイズであるが)ではあるが、保持するエネルギーの桁も通常の銀河内を跳躍航行するような通常宇宙船とは大違い。
発進時の慣性すらも、その独特な船体制御理論のため、本来なら巨大すぎる質量体全て(現在、ガルガンチュアは5隻構成で、小さな星系のような構成になっている)を質量制御しなきゃ到底、動けるようなものではないのだが、その巨大エネルギーを利用して慣性制御を不要にするフィールドで5隻を包み込んで、外部から見れば1隻の巨大宇宙船と見なせるようになる。
そのフィールドを全力展開し、ガルガンチュアは動き出す。
さすがに動き出しそのものは、ゆっくりと見えるが、巨人の一歩は大きい。
見る間に加速し、数分後には光速の10%ほどの速度にも達する。
そこから更に加速し、およそ半光速になると、その巨大な船体(と言うか、小星系?)がカスミのように揺らぎ、消える。
跳躍航法に入ったわけだが、入った瞬間、はるか遠く(数万光年)の宇宙空間へとガルガンチュアの巨体が出現する。
普通の宇宙船と同じ跳躍理論で、同じ超空間へ突入しては弾かれるということで瞬間的に数万光年を移動するように見えているわけだが、その大きさゆえ、ガルガンチュアの跳躍航法を見ても精神生命体以外だとシリコン生命体くらいしか、自分の見たものが信じられない(だから、たまにガルガンチュアを目撃する生命体があっても、宇宙の七不思議・怪奇現象の一つとしか伝わらない)
さすがのガルガンチュアであっても、銀河内部の航行時には速度を落とさねばならない(速度さえ落とせばよいというものではないが)
だから……
「マスター、6隻目のいるポイントまでは、あと数日かかります。6隻目を取り囲むように周囲に小銀河が配置されてまして、そのまま直進は不可能なんですよ」
フロンティアが報告してくる。
「また厄介なポイントに引きこもったもんだな、6隻目。スポット的に空いてたポイントに収まって、まるで将棋の穴熊戦法だ」
楠見が言う。
ちなみに楠見、これでも将棋はアマチュア初段である(そこまでのめり込んだけど楠見はプロになろうとは思わなかった。最適解を探すという点で将棋は楠見の興味を引いたが現実のトラブル解決の面白さには勝てなかったということだ)
一応、フロンティアやガレリア、その他のガルガンチュア構成員とクルーたちにも将棋を教えようとして諦めた(アンドロイドたちは優秀過ぎて勝負にならない。その他のクルーたちには三次元軍人将棋という競技のほうが複雑で面白いと言われ、二次元の競技には全く興味を持たれなかった)過去のある楠見は、ある時こう呟いている。
「まあ、現実のガルガンチュアのほうが一番複雑なトラブル解決やってるから……ゲームじゃ物足りないのかもなぁ……」
身も蓋もない言葉ながら真実なので楠見も後は何も言えない。
それから数日後、ガルガンチュアにいるクルーたちにも6隻目がおぼろげに見えてきた。
まだまだ遠いが、もう跳躍航法では速すぎるのと跳躍距離(ガルガンチュアだから、だが)の点で今は巨大な宇宙船団(と言うか、小星系?)は物理的に亜光速で宇宙空間を突っ走っている。
「ようやくか……厄介な性格してるようだけど、成算はあるのか?フロンティア」
楠見が小声で言うが、
「はい。少なくとも、マスターを連れてきたという点においては、こっちのアドバンテージは揺るがないと考えています」
「あー、つまり、俺頼みだってことね……はいはい、了解ですよ。こっちの言葉を聞く耳持ってりゃ良いんだがなぁ……6隻目」
若干の悪い予感に苛まれながら、楠見はそう返す。
ちら、とマリーを見た楠見は一瞬、予知能力で……
とも思ったが、こんな事案で、貴重なマリーの力を使っちゃダメだろ、と自分に言い聞かす。
半日後、ガルガンチュアは、ようやく見つかった6隻目を目前にしている(百万Km単位で離れているのは、ロシュの限界のため)
「今までの船と違って、我々がここまで来てもなんの反応もないのか。呆れたもんだな」
ガレリアが、とことんまで意地が悪いとの感想を述べる。
「ガレリア、とりあえず電波や光、重力波などで連絡をとってみてくれないか。それでも何も反応がなければ、俺の出番だ」
楠見は、ある意味、こいつはフロンティア以上に俺を待っていたのではないかと思う。
今更、同族宇宙船ごときで反応を返そうとする気もないんだろう。
数十分後、
「主、やはりというか、反応も返信も何もない。ここまで至近距離なんだから、重力波通信などはかなり相手を物理的に揺さぶってるはずなんだがな」
ガレリアが、心底呆れ果てたという感想を返す。
「そうか……では、俺の出番だ」
楠見は、目一杯強度を増したテレパシーを、目の前にある宇宙船に叩き込むイメージで、
《来たぞ。5隻版ガルガンチュアと、マスター含めたクルーも一緒だ。さあ!目を覚ませ!》
待ってましたとばかりに、目の前の宇宙船が目を覚ました(最低のエネルギーで動いていたのが、一気にメインエンジンが動き出したということ)
〈お待ちしておりましたぞ、ガルガンチュアのマスター、楠見殿。予想通りの船とクルー、完全勢ぞろいで迎えに来ていただくのは光栄なのですが……一つだけ条件がございまして〉
そこからテレパシーではなく、電波による通信が。
「テレパシーでは、あまりに心情や感情が含まれすぎますのでな、こちらへ切り替えさせてもらおう。そちらに従属する形となるのは構わないのだが、少しだけ、こちらもテストさせてもらいたい」
6隻目に答えるのは誰にしようかと楠見は考えていたが、中心部となるフロンティアが船団の代表として答えるようだ。
「テストなどマスターに不要だと思うのだが?」
「いやいや、マスター楠見に異論があるはずもない。今でも超銀河団を渡れる性能の宇宙船を持つ、古今東西、大宇宙の中でもたった一人、最初に生身で超銀河団を渡った実績を作った人類の最高峰、精神生命体以外としては、あのシリコン生命体でもなし得なかったことを成し遂げた、まさに生ける神、現人神とは楠見殿のこと。私が不満を持つとするなら、楠見殿が搭乗している船だよ」
はい?
楠見は、何か変な言葉を聞いたような気がする。
「えーっと……誰か教えてくれるかな?俺が、生身で最初に超銀河団を渡った生命体?嘘だよね?シリコン生命体くらいなら、もう成功したと思ってたけど」
何を言ってるんですかという、驚きの目線が楠見に集中する」
「マスター……宇宙船団および、クルーの意見を代表しますね。今更何を言ってるんですか?!」
「い、いやだって……生身で超銀河団を渡るって、銀河団調査船シリーズの次は超銀河団調査船シリーズが建造されてるって思うじゃないか!シリコン生命体の寿命は億年単位だから、超銀河団も渡れて当然と思うんだけどなぁ……」
はぁ……
と溜息つくのはマリー。
「楠見さん、あなたねぇ……自分で言ったわよね、銀河団調査船シリーズは途中から超銀河団航行用に改造とテストしたって。そのときに、全ての船が管理者からダメだし食らって、その計画自体が中止に成ったって!そんな過去を持つシリコン生命体が、超銀河団探査船シリーズなんて建造計画に入れると思う?船は大丈夫でも、超銀河団渡航で管理者たちの許可が出たのは、この宇宙は広大といえど……楠見さん、あなただけなのよ!まあ。やってること、個人の力も生身の人類とは思えないけど、でも楠見糺は、この宇宙に生きる生命体の中で特筆すべきものなの!いつも思ってたけど楠見さんは自己評価が低すぎます!自分のやってることは他人でも簡単にできるよって思っちゃダメ!あなたがやってきたことは他のどんな生命体にも不可能なことなの!たとえ精神生命体でもね」
一気に、今まで楠見に言わなきゃと思って言えなかったことをブチ撒けたマリー。
ハァハァと肩で息をながらも、ついに言ってやったと満足げ。
ライムも、ついでとばかり、
「そうです、キャプテンは自己評価が低すぎるんです!エッタさんも私も、これほどにキャプテンが好きなのに全然相手にしてくれません!」
「あ、いや、それはそうだろう。数万年を一緒に過ごす仲間と言うか家族より濃い絆なのに、そんな気持ちに成ったらダメだろが!」
楠見は、あわてて理由を説明する。
そう言えば、エッタもライムも最初は俺の子供を欲しがってたな……
トラブルシューティングが忙しくなりすぎて、お互いに忘れてた……
楠見は改めて自分に女性問題が起きなかったことに感謝した。
そう言えば地球にいた頃に親に言われて見合いして、婚約一歩手前まで行った彼女は、どうなったのかなぁ……
などと楠見は数万年前に亡くなっているのが確実な女性のことまで思い出していた。
エッタとライム、マリーは女性軍として互いに認め合ったように笑い合っている。
朴念仁の楠見を肴にして今にもカフェタイムでコイバナへと突入しようかという女性たちのようだ。
6隻目は、それを全て聞いていたのか、
「まあ、通信で言い合っても埒が明かないので、半有機アンドロイドである私が、そちらへ乗り込もう。交渉は、それからだろう」
交渉場の設定をどうする?
と話し合ってたガルガンチュア側としても、向こうがこちらへ来てくれるなら問題はない。
まあ、大きさとしても規模としても、向こうとこちらでは違いすぎるが(主砲も力の要素の一つだが、オールドマンのように割り切って主砲は積まないという選択肢もある。もともとの武力や防衛力が、そんじょそこらの宇宙船や銀河艦隊ごときとは比べ物にならない)それより何より、こちらの人数が多いので、向こうへ乗り込むのは準備に時間がかかりすぎる。
船体端末の半有機アンドロイド(半有機ロボットボディとガルガンチュアでは呼んでいるが)が一体で来てくれるなら、こちらでは広めの会議室を用意するだけで終わる。
楠見は、こちらの用意はできているため、いつ来てくれても良いと返事を返し、通信が終了する。
「ん?向こうが来ると言ってたが、こちらの転送装置を使えば搭載艇を使うまでもないだろ。ガレリア、向こうが準備できたら、こちらへ転送するから搭載艇は不要だと言ってやってくれ」
楠見の要請にガレリアは頷き、船体同士の高速データ通信で内容を送ったようだ(ちなみに、ガレリアは無言。船同士の近距離高速通信なので音声よりも速く伝えられる)
数分後、向こうの準備ができたようで、転送で会議室へ送ったとフィーアが報告してきた。
楠見たちガルガンチュア勢も船内転送により、会議室へ到着。
「おお、世にも珍しい銀河探査船集合組織の複合マスター、楠見殿ですな。私は……いや、人類には発音不可能な船体名なので、6隻目と名乗っておきましょうか」
6隻目、かなり煽り気味。
ガルガンチュアの同族宇宙船たちを無視するように、わざわざ宇宙船団のマスターである楠見を名指しで挨拶している。
「では、こちらも6隻目という仮名称で呼ばせてもらうこととしましょう。私はガルガンチュアを構成する中心、フロンティア。こちらがガレリア、その隣がトリスタン、フィーア、オールドマンの五隻構成で、超銀河団を渡りながら、訪れた各銀河を平和と安全に満ちた宇宙とするために活動している」
楠見を除くクルーたちは、6隻目の煽りを理解してから良い印象を持ってない。
楠見は淡々としたもの。
地球でトラブル対応やってた時には、こいつより性悪な上司は、いくらでも居たからなぁ……
などと思い出に耽っている。
「さて、交渉の前に。私は少し前にも言いましたが、マスター楠見の下に集うのは問題なしと考えます。ただ、フロンティア以下の宇宙船の資質が問題ではないかと」
「あ?私やフロンティアと同列に考えてほしくないとでも言うのか?この5隻が集まって今まで解決が不可能だったトラブルなど存在しないんだぞ。まあ、そのマスターや他のクルーの能力もあっての話ではあるが」
腹に据えかねるとでも言いたそうなガレリア。
不満たらたらだが、6隻目を強烈に拒むほどではないので怒り顔も仮面だろう。
「船体の性能や、ここに集まった生命体たちのクルーとしての能力も否定はしませんよ、私は。ただし、以前にも言いました条件、いわゆる「試し」というヤツです。これさえ達成させて貰えば、いつでも仲間になり、マスター楠見から新しい船名をいただきましょう。実は私も、新しい名前は期待しておるのです」
「で?その「試し」って?マスターは問題なしって言ってるからボクら宇宙船への「試し」だよね?」
フィーアが発言する。
それに答えて、
「そうです、5隻構成なので集団でチャレンジしていただいても構いません……が、壁は高いですよ。覚悟してください」
6隻目の表情が変わる。
今までの微笑が消えている。
「聞かせてもらおうか、若いの。試しの条件をな」
オールドマンが、ゆっくりと発言する。
6隻目の発言内容は……