ガルガンチュア、完成?! その十二
ようやく、宇宙時代の幕開け……の前段階です(笑)
楠見たちの話に戻る。
ここは楠見たちが降りた惑星の近傍空間(宇宙とは言え、まだまだ惑星の引力が強い。いわば、大気のない超高空である)
数年前まで使用していた衛星やテスト用ロケットの残骸(燃料がなくなり、後は引力に引かれて落ちるのを待つ状況)など、いわゆる「デブリ」がそこいら中にある。
楠見たちは、さまざまなメディア記者たちを引き連れて、今、この空間にいる。
「楠見会長、今回のデモンストレーションは何でしょう?宇宙船としての性能は、さっきまで嫌ってほど堪能させてもらいましたけど」
メディア記者の一人から質問が出る。
宇宙船の性能試験として体験乗船した記者たちは、なかなか地上へ戻らない楠見たちに、まだ何かあるのか、という疑問が湧いたらしい。
楠見ではなく、郷がそれに答える。
「えー、皆さん。今から行うのは宇宙の大掃除です。今まで何処の国も、宇宙ロケットを打ち上げていますが、それ以上は何もせず、後は引力にまかせて落ちるだけの状態となっております。うちの社長は、それでは今後、デブリ、つまり宇宙ゴミが多くなりすぎて、宇宙での活動に支障をきたす恐れがあると思い、この大掃除を行うこととなりました。まずは目の前の状況をご覧ください」
郷は傍にあった青い小さなボタンを押す。
数秒は何も起こらない……
しかし、その後、この球形宇宙船の超小型版のような小さな球体が、ワラワラとあちこちにある小さな穴から飛び出す光景が。
「大掃除とは言え今回はテストです。とりあえず、この宇宙船周辺にあるミリ単位以上のデブリや廃棄宇宙船の回収を行います。では清掃作業、開始!」
郷は小さな球体が出揃ったところで、次に赤いボタンを押す。
小さな球体群は、あちこちへ飛び回り、様々な物を回収してくる。
「とりあえず今回の清掃作業では、この船の倉庫スペースに入るものだけ収集します。それより大きなサイズのものも回収可能ですが地上へ帰還する場合にエラーの元となりかねないので、今回は放置します」
一時間ほどで倉庫スペースが一杯になったと船内システムからアラートが出る。
一つのスペースが一杯になっても、この船には二つの倉庫スペースがあるため、郷はシステムにもう一つのスペースを使えと指示する。
もう一つのスペースが満杯になったのは、それから30分ほど。
倉庫のスペースが満杯になったことを確認すると、郷は楠見に確認をとり、宇宙船を地上に下ろす。
地上に着いて、ようやく下船した記者たちは、ここで新しい業種の誕生を目撃したと実感する。
地上で様々な仕事の業種があるが、これからは宇宙にも、その仕事範囲が伸びていくことを実感すると飛び立つ勢いで社に戻り、その感動と驚き、新職種への期待と、何よりも楠見たちの持つ先進技術の凄さを宣伝してくれる。
「はぁ……これだからねぇ……我社の宣伝費は今まで一円も使ってないのに、いつの間にか超有名企業……宣伝費の使い途ができるのは、いつのことやら……税金のことを考えると頭が痛いのよねぇ……」
マリーが愚痴る。
現在、グループをまとめるコングロマリットの総合会長秘書長を務めるマリーは、総務部が総合企業としての減税に努めたくとも宣伝費や交際費が少なすぎることに不満を漏らしている。
その横でウンウンとうなずくのは総合社長秘書長を務めるライム。
グループで開発専門の会社の開発部担当重役プロフェッサーと、開発部をまとめる常務という立場のエッタは、今、この場にいない。
今、二人が中心となって開発中なのは、このデブリ清掃実験が成功した場合に必要となる宇宙空間での作業用アタッチメントの数々。
その中には、作業用超小型宇宙船に取り付けるものだけじゃなく、それを指揮する人間にも必要となりそうな各種アタッチメントを作っている。
メディアが成功と報じたため、開発会社からも、数年後には必ず必要となるだろう資材やアタッチメントを大々的に公開する。
数年後、見事に揃った数10隻の中型(直径300m)球形船と、大型デブリ収納用の特別製清掃船(倉庫に推進装置をつけたような、前後が半球形の宇宙船)が数隻。
清掃作業用の超小型ロボット船は、最初のテスト時よりデブリ清掃作業に特化され、ごくごく小さなデブリすらも捕らえられるようになっている。
宇宙港は未だに設置も整備もされていないため、作業用の臨時宇宙港という形で楠見らの会社が合同で持っている、かなり広いスペースの物品置き場(広場のバカでかいもの)を整理して使っている。
「さて、これから君たちは最初の宇宙清掃業者として飛び立つわけだが……期待している!数年間の技能実習が無駄ではなかったと証明してこい!出発!」
楠見の出発祝いに送られ、次々と作業用宇宙船が飛び立っていく。
小さい船が全て飛び立ったら、倉庫のような形の特別清掃船も、ゆらりという感じで浮き、飛び立っていく。
「師匠、これで清掃作業が軌道に乗れば、この星の宇宙時代の本格的な幕開けですね!」
郷は、また一歩進んだ宇宙への道筋に期待をしていた。
楠見や郷は、数年もあれば惑星周辺のデブリ清掃は大半が完了すると思っていたが、甘かった。
当然ながら、楠見たちの会社以外、宇宙空間の清掃など考える会社も国家も無かったからである。
楠見たちのデモンストレーション清掃映像を見て、宇宙がゴミで埋まりつつあると考えられる想像力を持つ政治など、ごくごく僅かだったのも影響しているだろう。
そのため、楠見の想像を裏切り、惑星周辺の空間がキレイになり、試験用衛星や廃棄ロケット、爆発して粉々に吹き飛んだロケットの残骸などの小さな物も回収されたのは、数年どころではなく数十年後となった……
「はぁ……ようやく宇宙空間がキレイになって、不意の衝突事故などが起きなくなったか……ここからが、宇宙へ出る本格的な挑戦が始まるわけだが……長かったなぁ……」
宇宙船と宇宙に関する最新テクノロジーを持つ会社ということで、各国から絶大な信頼と予算を獲得した楠見たちの会社組織(もう、あっちこっちの会社と太く短く結びついているため、楠見たちの会社と縁のない会社を探すほうが難しいとまで言われている)
今日も今日とて、臨時から正式な宇宙港となって、舗装や整備までしっかり行われている元・グラウンドからは、清掃業者から「宇宙のなんでも屋」と名称を変えた宇宙作業者たちを乗せた船団が飛び立っていく。
そして、宇宙から持ち帰られたデブリや小惑星、彗星のコア部分など貴重な研究対象を受け取りに、飛行機能を備えた大型トラックが宇宙港へ何台も出入りする光景も。
「師匠、次は惑星統一ですよ。こんな小国家乱立状態じゃ、宇宙文明になりませんからね」
「ああ、そうだよなぁ……まったく、まだまだこの星の人類たちは、宇宙に生命体がウジャウジャいるってことに気づいてもいないんだから」
郷と楠見は、揃ってため息をつくのだった。