ガルガンチュア、完成?! その八
いつものごとく、楠見は小規模な会社を作ろうとして失敗し、大企業になってしまうというお話(笑)
元手や原材料費が無料だからできる芸当ですよね(笑)
そんなことや、あんなことが起きつつ、楠見たちは街の生活に溶け込んでいく。
エッタやライム、マリーは様々な店での買い物に。
楠見や郷、プロフェッサーは、買い取った店をどうするかという話に。
「でね、師匠。俺なら、この店を思いっきり改造して、様々な彫刻や美術品を扱うって店にしますね」
「我が主、私ならば、毎日の疲労を回復する癒やしの店にしたいかと。エッタやライムもいますので、メイドカフェにするのも良いかと」
斬新ではあるが、あまりと言えばあまりの提案に、楠見は頭を抱える。
「お前たちなぁ……いくら店の改造予算が上限なしだと言っても、あまりにあまりな……とりあえず、手っ取り早いということで、金属加工業の店にするか。これなら、金銀プラチナが店や倉庫にあっても不思議じゃないからね。まあ、どっから仕入れてるのかという事は業務上最高機密になるだろうが(笑)」
ということで、書類上も店の名前も、金属加工業「(株)楠見金属加工」となり、店舗では様々な加工が施された金や銀、プラチナが並ぶことになる。
金属加工の腕自慢のようなものばかりなので素っ気ないものが最初は多かったのだが、時を経るにつれて宝石がついた指輪や腕輪、ブレスレットなども見本ケースに並ぶようになる。
最初は口コミだけで客もまばらだった(同業社が参考のためにと見学兼ねた商談に来るくらい)
が、しかし、この店が売りだしている宝飾品(楠見たちは、あくまで自社製品の質を示すためのサンプル展示であり、これで手広く商売するなどとは考えていなかった)の質の高さが、あちこちのセレブさんたちの間で評判となり、小さい店にも関わらず毎日のようにオリジナルの宝飾品を創ってほしいとの依頼が来るようになった。
「困ったなぁ……これはサンプルだって言うのに。これじゃ、金属加工じゃなくて宝飾業者だよ」
楠見が愚痴を漏らす。
「まあまあ、師匠。単価が違いすぎるから、こっちは儲かるんですよ。金属加工ですと、トン単位での取引が普通ですけど、宝飾品ってグラム単位、いえ、コンマ何グラムって単位ですから」
郷が慰めるが、
「いや、それが困るんだよ。俺や郷が一日で生産できる金や銀のインゴットがどれくらいだと思うんだ?二人合わせりゃトン単位だぞ。こんなの宝飾品じゃ消費できないだろうが。それとな……人気が出たら出たで困ることがあるんだ」
「我が主、それではこうしましょうか。郷のほうで宝飾品加工部門を受け持ち、我が主は金属加工の大量注文を担当するということで」
デザイン能力は郷のほうが高いため、楠見は不承不承、承諾。
しかし、これが数日後には大問題となる。
郷のデザインしたサンプルが評判となり、とあるメディアが店に取材に来たのだ。
そのメディアは、地元で高い技術を持ちながらも客の少ない、隠れた名店を探す番組らしく、このサンプルを並べている金属加工の店の技術の高さに舌を巻くMCや、自費で買いたいという出演者の絶賛を得てしまい、その翌日からとてつもない数の客の列ができることとなる。
「師匠ぉ〜、どうしましょうかね?オレ一人じゃ、コレはさばけないですよ〜」
郷の泣きが入る。
楠見は即刻、エッタとライム、マリーを呼び出して顧客対応を頼むことに。
3人は快く引き受けてくれて、次々と長い列を消化させていく。
「ふぃー……ようやく終わったぁー。ようやく理解しましたよ、師匠の言葉。これが嫌だったから宝飾品加工の仕事を拡大するのに渋ってたんですね。あらかじめ教えてくれれば良かったのに」
郷が、ぶーたれているがマリーは当然でしょと、
「楠見さんと郷さん、二人が本気出して芸術品作ろうとしたら、こうなるに決まってるでしょ。予想しないほうがおかしいのよ」
郷にグサリとトドメの一言を。
郷は精神的に来たらしく、
「師匠が言ってた、人気が出たら出たで困ること。まあ、予想はできても現実にこうならないと実感できないのは確かだよなぁ、とほほ……」
マリーが、郷の愚痴は無視して、
「それにしても楠見さん、どうするの?金属加工も順調だけど、それ以上に宝飾品加工に人気が出ちゃってるから、これはもう会社大きくして、大勢の人員雇わないと仕事にならないわよ」
楠見は苦い顔をしながらも、
「そうなんだよなぁ……二人体制じゃ、受付や注文すらも受けられない事態にまで発展してるなぁ……これはもう、いっそのこと、大規模会社にしてしまったほうが手っ取り早いよなぁ……」
それから半年後。
楠見の発言が現実になっている。
「あたしも暴言だと思ってたけど、楠見さんの本気って怖いわね。家内制手工業に近い金属加工会社が、半年後に巨大企業よ……まあ、その裏には原材料費がほとんどかかってないというトンデモない事実があったりするんだけど。疑似って言ってるけど、ここまで来ると本当の錬金術じゃないの?」
マリーの目の先には、数秒で金塊を作り出す楠見と、分単位ではあるが金塊を作り出す郷の姿があった……
今では、広い倉庫の中は金銀プラチナ、ごく少数だがダイヤモンドの粒(爪の先サイズのものから、握りこぶし大のものまで様々)まで、その棚の半分以上が専有されている。
「加工じゃなくて、インゴットのまま売っても相当に高く売れるんだけどね〜、これを加工したり宝飾品にしたりとか、楠見さんと郷さん、二人がかりで圧倒的に価値を上げてるのよね〜。もう、あれよね。宇宙の片隅で語られる神話みたい。手に触れる物すべてが金に変わるって賢者だったか王様だったかの話みたいね」
「おいおい、マリーさん。俺達は空中の微細金属を集めて固めてるだけ。あっちの話は純粋に錬金術で、生き物から食べ物まで全て金に変わるって話でしょ。食べ物が金に変わったら餓死するよ」
さすがに楠見も反論する。
とは言いつつ、加工原料となる金インゴットは、その楠見の手の先数cmで見る間に一本二本と出現している。




