ガルガンチュア、完成?! その五
信長が、どうやって天界(楠見)がいなくなった後に、文明を発達させていったのか?
その回答の切れ端です(笑)
住居のほうが決まったということで、リニューアルが終了するまでホテル暮らしを続けることとなった楠見たちガルガンチュアクルー一行。
引き払ったホテルへ戻り、スイートを一ヶ月分、借りられるように交渉。
景気の悪い時期だったのでホテル側も二つ返事で了承し、朝食や夕食は無い代わりにスイートを格安の価格で一ヶ月借りられる事となった。
「では、お住まいへの入居が叶うまでということで、一ヶ月ですが、ご自由に」
クローク担当が、えらく金払いの良い楠見に対して、ニッコニコの笑顔で言ってくる。
「そうだね、少し長いけれど、これからしばらく、ご厄介になるよ」
楠見一行は、次の日、ホテルを出て、クロークの方から案内された、過去の偉人「天界」なる人物の記念館やら史跡の観光へ。
楠見以外はワクワクものだが、楠見自身は何やら複雑なようで。
「師匠?何でそんな、複雑な顔してるんですか?偉人とは言っても過去にいた、ほとんど伝説上の人物じゃないですか。まあ、それにしては、天界ノートなんて残してるのが、少し師匠っぽいですけどね。でも、此の銀河そのものが初めてきた銀河でしょ?よく似た人物が、此の星の過去にいたんですね」
一番最初は、天界なる人物の存在した証拠とも言われる「天界ノート」(コピーだが。本物は星系政府庁舎のビルの最下層にある、警戒厳重な大金庫に入れて、劣化しないように大切に保管されているとのこと)の展示してある記念館へ。
「あー、やっぱりだった。あれは俺の字で間違いない。俺は数万年前にだけど、此の星にきてるんだよ。一人でな」
記念館内部で発言することは躊躇われたため、記念館を出て入ったカフェで、楠見は他の5人に白状する。
「え?キャプテン、そんな昔に、此の星にきてるんですか?いえでも、それって、まだ銀河団渡る前ですよね?」
「んーっと……その頃ですと、多分、銀河団渡る少し前。数百年の誤差はあるかも知れませんけど」
ライムとエッタの推測は、ほとんど当たっていた。
「ライム、エッタ、大当たり。正直言うと、俺だけ管理者の「試し」を受けた。その時に、試しの場として与えられた星が、ここだ。その時には、此の星は小さな国家に分かれていて、此の国はそれこそ群雄割拠の時代。地域ごとの英雄やら代表が、覇権争いの真っ只中だった。その中の英雄の一人、織田信長って人のもとに跳ばされた俺は、織田信長を国家代表にするために死ぬ気で頑張ったということさ」
「我が主、質問があります。そうなると、えらく長いこと、此の星にいた事になりますが、私のメモリーにも我が主が、そんなに長い期間、消えていた事実はありません。その点は?」
「ああ、そうか、プロフェッサーは憶えてるのか。管理者の「試し」ってのは、いつも急でね。それも巧妙で、戻す時には消えた直後になってる。此の星では、数年間、いたんだけど」
マリーが、いぶかしげに、
「楠見さん、そうすると、あなたは何回も管理者に呼ばれたり、会ったりしてるわけよね。でも、それって変じゃない?人を超える能力や権限を持っているのが管理者と呼ばれる存在でしょ?なんで普通の人間……とは呼べないかも知れないけれど……の楠見さんが、何回も管理者に呼ばれるわけ?これが大昔いたっていう始祖種族なら分からないでもないけど、いくら超絶性能持つ宇宙船に乗ってるとはいえ、楠見さん自身は人間、人類種族でしょ?」
楠見は、苦笑しながらも、
「マリーさんの疑問はもっともだ。俺も、何故に、そこまで管理者が俺という個人に関心があるのか聞いたことがある。答えを聞きたい?」
「聞きたいわ。神の如き管理者が、一人の人間、楠見糺に、何故そこまで興味を持つのか」
楠見は、一息入れてコーヒーを飲み、語り始める。
「要は、管理者と言えども、力の行使には制限が掛けられてるってことらしい。俺達が今までやってきたことで大きいことの代表と言えば「銀河の衝突」の回避だろうが、これは管理者には許されていないんだそうだ。俺達は、自分たちの手で星系そのものを動かして、此の問題を解決したが、管理者の能力としては、もっと大きなレベルで回避できると、ほのめかされたことがある。しかし、それをやると、銀河のバランスが狂ってしまう恐れが大きくなり、その解決方法は禁止されているんだと。あとは、銀河の覇権争いを止めるとか、そういうのも「やればできるが、禁止されている事項」の一つらしい。要は、生きてる存在、肉体を持つ存在なら、ほとんど、どんなことでもやれるんだが、精神存在とかのレベルになると禁止事項になることが多すぎるんだとさ。ちなみに「試し」で放り込まれた俺だけど、それからは、死者を出さない戦いや、作戦だけで敵を降伏させるような戦ばかりやっててな。信長の天下人への上奏は成功し、那古野幕府も立ち上げ間近ってところまでで、俺の役はおしまい。ガルガンチュアへ戻されたということ」
天界ノートは何のために?
という郷の質問には、
「ああ、あれはコンピュータすら製造できない文明だったんで、ノートに書いて、文明発達の後推しになればと言うくらいさ。まさか今でもあのノートを参考にしてるとは思わなかった……」
「師匠、たかがノートという割に、あのノートって、ずいぶん厚みありましたよね。全数巻とかの話じゃないですか」
「そうだよ、郷。だって文明の発展段階が、トランジスタどころか真空管すら発明されてない時代だぞ。文明を発達させるには、どうすれば良いのか?どうしたら、人々が幸せに、安全になるのか?そして、目指すものが大宇宙の中で堂々と生きていく精神の成熟も必要だと説明するんだぞ?どうしたって下手な辞書よりも大きくて分厚くなっちゃうだろう?残せるのはデータじゃなくて紙媒体!こうなるのは当然なんだよ」
「ああ、だから、記念館のは「抜粋」になってたのね……って、あれだって、手に持って殴ったら凶器になるレベルよ。本物って、どんだけ凄いのよ」
「説明しよう……本物は全百巻。一冊が1000ページほど。紙の質が後に発明される酸性紙じゃなくてよかったよ。とは言うものの数万年も健在とは保管も手を尽くしたんだろうが」
楠見以外の視線が呆れ果てている。
「ま、まあ、そこまで行けば未来への教科書にはなるでしょうね。で?どこまで書いたんです?師匠。もしかして「跳躍理論」や、それを実現する新型反応炉も書いちゃったとか?」
「そこまで詳細には書かないよ。ただ、真空管やトランジスタの原理は詳しく記述した。これがないと技術文明として発達しないからな。ただし、宇宙文明への足がかりとなるように、ヒントは散りばめたよ。宇宙ヨットや光子帆船、それよりは遅いが、亜光速まで出るエンジン理論とか。ヒントを元に研究すれば、比較的楽に宇宙へは出られるようにしたつもりだ」
「で?楠見さんのことだから、おせっかいは、それ以上なのよね?さあ、何をやったのか白状しなさい!」
詰め寄られる楠見。
仕方ないなぁと、ため息をつきながら、
「個人的に、だけど。俺と一緒に信長の側近を務めていた木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉に、個人的に教えたことがある」
「何?やっぱりやってたのね。さあ、キリキリ吐けい!」
「近い近い、マリーさん、顔が近いって!言うよ、秀吉に教えたのは信長の操縦法だ」
「え?ご主人様、人を操れる方法ですか?」
「違う違う、エッタ。信長は瞬間湯沸かし機みたいな性格でね。すぐに激昂し、手が付けられなくなる。俺はサイコキネシスで信長を押さえて動けなくし、言葉とテレパシーで道理を説いた。だけど秀吉は普通の人間で、超常能力なんて何もない。だから信長の性格と、激昂する兆候をマニュアル化して、どうすればよいかという指南書を作ったんだよ」
「ははぁ……それで、怒りモードの信長も、秀吉の力量で押さえられるようになったと……そのマニュアルって残ってないんですかね?」
「さぁ?秀吉個人に書いたものなんで、残ってるとは思えないけどなぁ……相手が信長個人だし」
「ちなみに師匠?そのマニュアルって、どのくらい?」
「うーん……よくは憶えてないが確か500ページは超えてたと……信長個人の性格プロフィールを詳細に書いたものだったしなぁ……」
マリー以下、それを憶えさせられる秀吉の苦労を察すると、心の中で涙が出てくるのだった。