大マゼラン雲 その後の事
迷いましたが、やはり災害でもないとフロンティアが手助けに来るような事はないかな?
と判断したので、このようなストーリーになりました。
似非宗教組織を叩き潰したので、これで大マゼラン雲での役目は終わったか?
と思ったんだが……
中央部でなかったのが、せめてもの幸いだったと思いたいが……
宇宙震の勃発である。
フロンティアが今この瞬間に、この大マゼラン雲内にいるのが運命なんだろう。
ということで何も考えずに緊急出動!
およそ2000光年近くを30分未満の時間で跳び、大被害を被った星系を俺達の使えるだけの力を使って最大限に救助する。
もう隠れてなんかいられるわけがない。
目前の惨状を何とかしたい一心で、搭載艇全てを使い、俺の持てる全ての能力も、クルー(俺以外の2名とロボット2体)にも、全ての能力を使い救助に当たれと明言する。
それからは、仕事が速かった……
土砂崩れや土石流の被害者達は、テレパシーとサイコキネシスで居場所の確認と救助、呼吸停止や心停止直後くらいなら、超強力テレパシーとサイコキネシスで心臓や血流を無理やりにでも動かし、蘇生させる。
生き埋めになってる人たちについては搭載艇のトラクタービームや斥力ビームをあちこちで使用し、土砂も建物も浮かせて救助する。
高層建築物倒壊に関しては、倒れている物には搭載艇群を派遣、救助。倒壊寸前の物に対しては俺かロボット組を派遣し、可能な限り救助していく。
(サイコキネシスやロボット組の怪力で救助される人たちは、生きていることも不思議だろうが、目の前で起きていることも不思議だったろう)
少女クルー組について俺は全く心配しない。
不定形生命体の実力も、精神生命体の生体端末能力も理解していたから。
救助者達のケアや怪我の治療、そして後から来る救助組織への橋渡しを着実にこなしていく。
星系の半分以上が宇宙震の被害に遭ったのだが、俺達の神速とも言える素早い救助作業により、驚くほどの少ない死傷者数であった。
(それでも、救えなかった人々の多かったこと)
災害発生より30時間以上経って、ようやく隣の星系や中央星系を含めた救助隊が到着した。
その時には、もう生存者は99、9%以上、救いだしてたんだけどね。
ちなみに、救助困難だと思われる地点から重点的にやってたから、あとは簡単に救助できるところしか残ってない。
俺達の引き継ぎ報告を受けて、救助隊は無言……災害現場じゃなくて、綺麗に片付いてる地点も多いから、救助作業に支障は出ないはずだよ、と言ったら、
「これは宇宙震災害現場じゃない。これでは救助訓練現場ではないか?!」
とか言われた。
その後、中央星系より災害現場視察と言うことで、官僚や軍、施政組織の長達が来た。
あまりに整然とする災害現場に、ここは違う現場ではないか?
とか言う声が上がる。
救助隊の隊長たちは、救助作業の進捗状況を聞かれて、口ごもる。
「我々が到着した時点で、もう救助作業はほとんど終了しておりました!」
大隊長が、我々は引き継ぎを受けただけです!
と、正直に報告。そして、俺達が紹介される。
「この方たちが、我々よりも先に救助に来て、全ての主要な救助と瓦礫の撤廃を完遂させていたのであります!我々は、やることがありませんでした!」
大隊長、泣いてた。
この後、俺達の素性を公開する。
相手にとっちゃ、驚きどころの話じゃない。
しかし、施政担当者の一人から、質問が出る。
「もしや、あなた方ではありませんか?地方星系から中央星系にまではびこっていた似非宗教集団を壊滅に追い込んだのは。教祖、というより、元教皇を名乗っていた犯罪者の手記に、神の使いに近い、この宇宙の外から来た者によって破滅させられたと書いてありました。半信半疑だったのですが、これで確信しました」
「ええ、その通りです。宇宙を旅してて、あまりに見苦しい似非宗教組織だったので、これが大宇宙に拡散していくことは有害だと判断し、壊滅させました。本当なら、それで大マゼラン雲を去るはずだったのですが、この宇宙震災害。もう何も考えずに駆けつけましたよ」
それから、今回の救助作業に関しての礼を、という話になったので、
「ああ、それなら瓦礫をいただきます。我々の宇宙船、まだまだ小さいので」
とだけ。
あとは全て、表彰も礼状も、全て断る。
そして、今回のような緊急出動を可能とする宇宙救助隊の設立を提案する。
一度、銀河系で設立と指導まで立ち会った宇宙救助隊である、俺にとっては手慣れたもの。
必要な設備や装備は銀河系の宇宙救助隊の物と同じ設計図があるので、それをコピーしてあげる。
ちなみに、こういった激甚災害には巨大救助母船も必要だが、本当に必要なのは救助作業機器を小型艇に積み込んだものが最適なのだと話す。
この大マゼラン雲内では、大規模な宇宙船の運用は普通に行われているが、超小型や小型宇宙艇のような汎用搭載艇は運用されていないとのこと。
目から鱗がボロボロ落ちましたと言われ、俺も嬉しい。
ともかく、この大マゼラン雲でも宇宙救助隊の設立は確定事項となった。
半年後、無事に設立された「大マゼラン雲宇宙救助隊」の建物を目にして、俺は満足している。
あっちこっち、施政者や軍関係者、財政責任者との面談を重ね、汎用救助組織の設立が緊急課題だと説き伏せる。
証拠は、あの宇宙震の災害救助現場のビデオチップ。これを見せてやると、ぐうの音も出ない担当者達。
金銭面に関しても、俺の設計図やアイデアに関する料金は一切、要らないと明言してやると、さすがに相手も折れる。
災害救助に関して、一刻も早く現地へ向かうために、宇宙空港に隣接する区画に宇宙救助隊の本部を設立。
そして、設計図から汎用救助艇の本格生産ができるまで、そこで訓練に次ぐ訓練!
どんな災害現場だろうが、クルーと現場のコンビネーションを切らさぬようにする。
救助機器に関しても、慣れてもらう以外に道はない。
どんなデザインでも用途によって最適化されている物もあるため、迷うこと無く的確な使い方をせねばならない。
まあ、そんなこんなで今日は救助隊が正式に発足する日。
そして、発足式が終わればフロンティアは大マゼラン雲を去る。
次の宇宙が俺を待っているのだよ!
巨大宇宙船フロンティアが、大マゼラン雲を去ってから、およそ一世紀あまり。
今では伝説となった宇宙船フロンティアと、そのクルー。
とりもなおさず、船長である伝説の地球人。
夜になると、星の中に銀河系を見上げて、憧れに近い感情を持つ人も多かった。
そこへ、緊急通報に近い一報がもたらされることとなる。
「緊急通報!緊急通報!隣の小マゼラン雲より、大型の宇宙船が接近中!太古に、マゼラン星雲内の支配権力闘争に敗れたメタン・水素呼吸生命体の宇宙船と思われる。敵対意思は今のところ感じられないが、特別警戒態勢に入る。宇宙救助隊も、出動要請に備えて待機されたし!」
宇宙戦争の再来?!
と、緊急出動体制に備える宇宙救助隊の面々。
ちなみに、この時点では大マゼラン雲内に宇宙救助隊の支部が無数に存在し、ここ中央司令部では汎用救助艇を無数に搭載した巨大救助船も鎮座している。
しばらくして……
「特別警戒警報、解除!特別警戒警報、解除!小マゼラン雲からの宇宙船は友好の使者を運ぶ物だった。どうやら、小マゼラン雲も伝説の船、フロンティアに助けられたらしい」
助けられた者どうし、というのも変だが、もともとは1つの銀河だった大小のマゼラン雲に住む生命体。
ある程度の相互理解はある。
しかし、今回の小マゼラン雲からの使者は驚きも連れてきた。
銀河系からの使者まで同行していたからだ。
夢にまで見ていた銀河系からの使者と、その提案。
銀河系をモデルにした氾宇宙救助組織の設立と、その航路設定のための技術支援、そして、平和な宇宙を作り出すための支援組織の設立と、その大マゼラン雲内での行動許可。
その後、一挙に数100年は技術が進んだと言われる「奇跡の10年」が、大マゼラン雲に訪れる。
銀河系・小マゼラン雲・大マゼラン雲を1つに結ぶ「銀河を結ぶ橋」の建設と、その技術協力。
これが完成すれば、大マゼラン雲からも小マゼラン雲からも、銀河系へ通常航行で一ヶ月かからずに到着できる。
激甚災害時には、制約を取っ払うために、実質、3つの銀河を1日かからずに踏破できる状況になる。
こうなると困るのが通信の問題。
重力場通信・光通信、電波や有線を使っても、あまりに時間がかかりすぎる。
で、持ちだされたのが、銀河系で実用化された「転送技術」
これは、実は銀河系内だけなら危険は無いが、銀河を超える距離だと、そのデータの受け渡しにエラーが出る率が高くなりすぎて、生命体は送れない。
ただし、このデータを送る物は、どんな搬送波でも良いので、何も意味を持たない超空間の波動を利用して、データだけを送る。
送信側で送りたいデータを意味のないデータに変換し、受け手側で意味のないデータを意味のあるデータに変換し直す。
エラー率が高くても、超空間波動なら再送でも時間はかからずに送れる。
ネットワークには組み込みづらいが、ファクシミリのような通信には、もってこいだった……
銀河から銀河へ、書類一枚送るのに、60秒!
そんな宣伝文句で、銀河間通信に使えるFAXは地味に売上を伸ばしていくのだった。
今日も宇宙は平和である。




