銀河団探査船、5隻目登場! 十四話目
ついにシモンと、ガルガンチュアクルーが再会します。
さて、時間は少し遡り、シモンが中央教会へ向かうことになる時期。
詳細を書いてみよう。
こちら、シモン枢機卿。
ビクビクしながらも目的銀河に到着し、当該銀河の教団本部へ連絡を取ると、事前に知らされていたのか丁重に中央本部教会のある星系へ案内される。
「丁重に扱われるのは良いんだが、これは……やりすぎだ」
本音の感想である。
跳躍航行のうち、シモン枢機卿が通る予定の航路を横切ったり、並走したりする予定の宇宙船が航行禁止とされる。
ここまでやるとは思っていなかったシモン、
通信で本部へ連絡を入れて、跳躍航行禁止はやりすぎだ!
と解除を申し入れるが、本部関係者としては、
「申し訳ありませんが、本家銀河の本部付き枢機卿がご訪問されたということで、最大の警戒と警備をという指示が、上の方から出ておりまして……」
ということで、シモンが目的星の宇宙港へ到着するまで、この体制を維持することとなっているらしい。
こりゃ何を言っても無駄だと思ったシモンは、警備艦隊へ指示して航行速度を上げさせる。
「こうなりゃ、俺が一刻も早く目的地へ着くのが最善策だ」
ということで、シモンの快速船一隻に対する警備艦隊50隻を最大艦隊速度で跳ばす事にするシモン。
シモンの思惑通り、これにより跳躍航行の禁止時間は大幅に短縮された。
それでも数時間かかって、ようやく目的星の宇宙港指示ポイントへ着陸する。
「やれやれ。これも行き過ぎた人類種至上主義のおかげか……一刻も早く是正しないと、ガルガンチュア本体のお出ましとなるのが必然になりそうだな。ああ、思い出すだけで寒気が走る……」
これでも実はガルガンチュア本体を実際に見ているのはロックフォールのみ。
シモンもロックフォールから聞いただけだが、なにしろスケールが違いすぎて、登場したら星系が終わりそうなくらいのものだということは実感している。
「なんにせよ、俺が頑張るしかないわけだ、今回は。とほほ……ここに、ロックフォールとジャストがいてくれれば少しは安心できるんだがなぁ……」
シモンは、ここで大きな勘違いをしていることに気づいていない。
ガルガンチュア本体は、別の任務(5隻目の銀河団探索船の捜索)で、ここには来られないが、郷とエッタは、こっちのガルガンチュア教団に、もう潜り込んでいるということを知らない。
まさか、ガルガンチュアクルーが、あっちからこっちから、内部と外部から干渉し始めていることなど全く知らなかった……
「さて、と。まずは、こっちの上級枢機卿たちと、それから、こっちの銀河の最高権威者(教皇代理)への挨拶だな。まあ、実質的な地位は、遥かに俺のほうが上だったりするんだが」
本家本元の中央教会に属する枢機卿のうち、実質ナンバー2のシモンに逆らえる者は、いるはずがない。
しかし、シモンは妙に嫌な感覚に捕らわれる。
「これ、はるか昔に、どっかで味わったような気が……気のせいかな?別の銀河ってことで、気持ちが昂ぶってるんだな」
惜しい!
シモンが向かう先に、シゴキに近い特訓を行った張本人がいるからだとは、さすがに読めなかった。
「ここが、中央教会か。俺達からすると出張所のような扱いになるんだが……さすがに、そりゃカワイソウだな。本家本元を参考にしたらしいが、さすがに、この銀河でのガルガンチュア教団の権威の象徴、けっこうな建築物じゃないか」
そんな感想を抱いたシモンは、警備陣を引き連れて、中央教会へと進んでいく。
入口では、この銀河で枢機卿や司教の地位を与えられた者たちが、大歓迎という顔をしてシモンを迎える。
シモンは軽く団体規模で思考をざっと読んでいくが……
「ふーん……さすがに教団の教えに反するような思考は持ってないか、それとも深層意識に隠しているのか……まぁ、これから暴いてやるんだけどね」
シモンもエスパーとして高位ではあるが、人類至上主義を掲げる者たちも一筋縄ではいかない。
シモンは、そっと呟くと、たちまち表情を崩し、
「大歓迎、いたみいる。私は、ここへ重要な任務できたものですから、皆様とは長いお付き合いはできそうにありませんが、向こうへ戻っても教皇様や、大枢機卿のロックフォール様へは、よろしく言っておきますよ」
と、こちらも顔と心は正反対。
シモンは、彼らと分かれて中央教会へ入り、教皇代理と会う。
さっそく、重要な問題が発生しているということで、教皇代理には特別に時間をとってもらい、二人だけの会議を開きたいと要求。
「歓迎式典を用意しておりますが……それは少し開会を引き伸ばして、少々、お話しましょうか」
シモンの真剣な表情を見て、こりゃ厄介事だなと確信した教皇代理。
30分ほど、歓迎式典の開会を延期すると周りに通告し、二人だけで奥の会議室へ。
「さて、ここならば盗聴も、テレパシーも遮断しておりますゆえ、深刻な問題も協議できます。此度は、どんなトラブルが?」
教皇代理の発言は、ズバリ核心を突く。
シモンも、教皇代理が問題の本質に関わっていないことに安堵しつつ、
「そうですか……実は、ですね……」
それから30分後。
会議室から出てきた二人は、表情はにこやかなものの、心の中は暗いものが渦巻いていた。
「さて、今日は、お隣の銀河からガルガンチュア教団の本家本元の中央教会本部から、枢機卿として第二席という実質的に実務の最高となるシモン枢機卿が来られた祝いとして、この歓迎会を執り行う。今日ばかりは、司教も枢機卿も、聖女・聖女見習いも地位に関係なく、飲食と歓談を楽しんで欲しい!」
教皇代理の宣言で、シモンの歓迎会が開催される。
しかし、教皇代理もシモンも、心の中は問題ありまくりという、顔と心が全く違っている状況。
そこへ、意外な……
いや、シモンには見知った顔が現れたのだが、当人は意外も意外。
「ゴ、ゴウ枢機卿?!いったい、なぜこんなところ……」
〈シモン?あまり喋るな。俺は今、ガルガンチュアクルーの一員として、ここに潜入捜査してる。聖女として、エッタも来てるぞ。ちなみに師匠は、外部の運送業者の社長として教団に関わってる〉
郷は、にっこりと笑いながら、テレパシーでシモンに語りかける。
と同時に音声でも、
「シモン枢機卿、お初にお目にかかります。この度、中央教会に異動になりました、ゴウ枢機卿と言います。なにぶんにも、中央に来てから短いものですから、右も左も分かりませんが、本家の中央教会本部の方にお目にかかれるなど、幸運の極みです」
エッタも、ここぞとばかり、
「私は、聖女に新しく任じられましたエッタと申します。本家ガルガンチュア教団の高位枢機卿様にお会いできるなど、もう生まれてきて今日が一番の幸せですわ」
と挨拶。
さすがにエッタは、同時にテレパシーを送るなどは、しない。
マナーとして、エスパーの間では、喋ることとテレパシーを同時に行うことは失礼とされているからだ。
しかし、シモンは一瞬、顔色を変える。
厄介な事態だと思い知った。
ガルガンチュア本体は動かずとも、もうクルーは動いている。
そして、シモンやロックフォールの読みよりも素早く、問題の根幹に迫っているらしい。
シモンは、冷や汗を流しながらも、笑顔に戻り、ゴウにもエッタにも、そして、シモンを取り巻く挨拶の波にも対処していくのだった。




