銀河間空間の難破宇宙船団 その十 (最終話)
ようやく最終話です、唐突ですが(笑)
さて、次は少々時間をいただき、じっくりと・・・え?今でも時間かかってるだろうって?(汗)
帝国議会が機能しなくなっているうちに、そろりそろりと忍び足でやってくるかのように辺境からの影響は中央部にも浸透していった。
いつの間にか、流行でもあるかのように中央にも、ファッションの一部でもあるかのように見える形でRENZを装着した「一般市民に見えるものたち」が増えていく。
最初は何も社会に影響しない程度の力しか発揮しない、そのRENZ集団は徐々に、しかし限定的に、その高い能力をちらつかせつつ地域の支配層に近づき、また、その能力を買われてか選挙で地域の統括主任、更に上の統括官へと推挙されるものまで現れていく。
そのRENZ装着者たちの集団は何も(表向きは)繋がりがないように思えて、その地域の諜報組織に注目されるような事件や特異なことが起きることはない。
しかし……
「ちょっと、これ見てくれ。首都の地域ブロックごとの生活安全度グラフなんだがな……少し変なところがある」
銀河中央情報部の課長が部下に意見を求めてきた。
「何です、課長?このところ辺境も周辺部も、それどころか中央部も平和じゃないですか。何が問題なんですか?」
聞かれた部下は、このところ事件らしい事件が起きていないせいか、すっかりだらけているように見える。
「いや、平和なのは良いんだ。しかし……これを見てくれ。このグラフは、こともあろうに首都に存在するスラム街の治安度と生活安全度のグラフなんだ……ちなみに、こいつが同地域の2年前のグラフな」
課長が示した2つのグラフは、とても同一地域のものとは思えない。
2年前のグラフでは治安度も生活安全度も最低レベル。
飲料水でさえスラム街では安いものは信用するなと言われるほどだったのが……
現在のグラフでは、ほぼ100%に近いくらいに高まっている。
「え?これ本当にスラム街のグラフですか?どっかの開拓星とかじゃなくて?」
部下も呆れるほどに、そのグラフの地域が同じだと思えない。
「この原因、何だと思う?」
課長、何か不穏な空気を感じたのか?
しかし、部下は、こう返答する。
「RENZってブランドの装飾品を身に着けたグループがいましてね。そいつら何かの宗教団体か、それとも反政府集団じゃないかということで我々も数年前に徹底的に、その集団を洗ってみたんですよ。課長も、その時に捜査班の一つの主任でしたよね。どうなったかというと……」
「知ってるよ。装飾品を身に着けてるってことだけ共通で、そいつらに何の繋がりも発見できなかった。しかし共通する事項はあったんだよな」
「そうです……超の付くほど優秀で、そして地域トラブルの解決が素早くて確実。トラブルの相手同士に遺恨さえ残さぬ始末の良さ!そういう人間たちが何処からか入ってきて、ついには首都の汚物溜めとまで言われた厄介なスラム街までキレイにしちゃったということですよね」
課長は部下の報告に異常なものを感じ取る。
「ちょっと待て。集団で首都に転居してきたんじゃないのか?そのRENZ装着集団は」
「いえ、個人で、あっちこっちからやってきてるんですよ。まあ同一星系ですと個人移動は自由ですけど違う星からは大型の貨客船か、あるいは軍の移民船に乗るしか無いので集団移動にはなりますが。でも、そいつらに何も繋がりがないのは事実なんですよね。いや、一部だけ共通点があった集団が」
課長は、それに縋る。
「な、何だ?その一部の者たちの共通点ってのは」
「GK重軽工業って会社の社員です。まあでも、あんな超大企業、周辺企業まで入れたら、ほとんど姉妹会社か提携企業なんで何の不思議もないんですけどね」
「おい。それは軍の重要な取引先だろうが。はあ、そんな大企業までRENZの装飾品を付けるのが流行ってるのか……世も末だね」
「ですからね、課長。これは帝国の一般市民が円熟して社会が成長した証じゃないかと……課長?どしたんです?」
部下のように社会が成長したとは、とても思えない課長だった。
しかし、そう考えるような者は、そうそう出るはずもなく。
いつの間にか平和になった社会と宇宙に対し、議会は沈黙。
何もしなくても社会と宇宙が平和になるのなら、これ以上の手出しは無用とばかりに、いつもの既得権益と他人の利益を少しでも貪ろうとする腐敗議会に戻ってしまう。
皇帝と、その周辺も自分たちに不利益がない限り、焦って動かないよとばかりに議会と社会を無視する生活を続けていく……
それから数十年後……
「これより、帝国議会を開催する!主たる議題は……帝国制の廃止と、自由主義を主とした共和制への移行である!」
いつの間にか議会はRENZを持つ者たちで全ての席が埋められていた。
議長も定年制で新しい議長となり、その議長の腕にはRENZが光っている。
皇帝は、それまでの自堕落な生活が祟ったか、その逞しかった全身から覇気も筋肉も全て失われて久しい。
それまで議会に顔すら出すことの無かった皇帝が久々に議会に出席すると唐突に、この議題だ。
怒り心頭に来た皇帝は発言しようとしたが自堕落な生活は若年性認知症を発症させていて、数秒後には自分が何に怒っているのか分からなくなる。
怒りに我を忘れて何かを喚いている皇帝を無視し、帝国議会は議題を粛々と成立させていく。
数時間後、もはや帝国ではない「連邦共和国議会」で、元皇帝の居場所はなかった。
皇帝の直轄領だった中央星系の一部だけが元皇帝の所領となり、皇帝はボケた頭脳が判断を鈍らせている間に議会から追放されて所領星への宇宙船に乗せられて、中央部でも端っこの星系へと送られる。
連邦共和国議会の議長は郷と楠見に何度も頭を下げた。
「どんな礼をしたら良いか分からん!あなた達、ガルガンチュアクルーには、とても返しきれぬ恩が出来た。できることなら、この銀河に留まって今しばらくで良いので我々を導いてほしいのだが……無理だろうな」
「議長、あなた達の陰の努力ですよ、これは。完全な無血革命、それも完全な成功を収めた非常にまれな例ですね」
「師匠の言う通りです。ガルガンチュアが何をやったって、あなた達の不断の努力が無けりゃ、いつか社会革命は潰えてしまう。成功を遂げたのは、あなた達の力です」
今では宇宙軍すら球形艦ばかりとなった元銀河帝国、今は銀河連邦共和国では国、いや、銀河を上げての壮行会が開かれる。
いつもは固辞して、そのままスタコラサッサとばかりに銀河を去るガルガンチュアだが今回は敢えて壮行会を受ける。
「いやー、議長ら元の漂流船団乗員たちは、なんのかんので100年以上、俺達とともに働いてたからなぁ……同僚主催のパーティにゃ出席しなきゃいかんだろ」
とは未だサラリーマン根性の抜けない楠見の言である。
なんのかんので一ヶ月以上の壮行会となった星系と銀河に別れを言い、ガルガンチュアは次のトラブルを求めて宇宙を征く。