大マゼラン雲 風雲記 その5
この回と次の回で、大マゼラン雲編は、お終いです。
あまり宗教的な話は長引かせたくないのですが。
宗教ってのは、クマムシ並に生命力が強いのね(笑)
今回は「教会」側からの視点ですので、お間違えの無いように。
「おい!なんだ、この収入計算は?!地方教会からの収入が全く計上されておらんではないか?!」
怒鳴り散らしているのは、中央大教会の枢機卿を務めている人物。
これまで、有り余るほどの金の山に埋もれて執務するのが普通の状況だったのだが、今日に限っては、そんな悠長なことをやってる暇はない。
「枢機卿様、ある時期から地方教会収入が全く入ってこなくなっているのです。理由は分かりません。どうやっても連絡はつかず、地方教会の責任者どころか関係者とも連絡が全く取れない状況なのです」
主計担当している司教達が異口同音に告げる。
中央大教会は、実は地方教会からの資金により経営が成り立っていると言っても過言ではないため、このままでは中央大教会は資金的に干上がる。
巨大宗教組織が倒産など笑い話にもならないため、主計担当は皆、必死になって異常事態の原因解明と解消に走り回っているのであった。
今のところ、何も解明されてなく、解決の糸口も無かったりするのだが。
主計担当枢機卿は、教皇の間へ急ぐ。
今のところ、財政を立て直す事は不可能な事態だが、それでも教皇の名案を期待して。
「主計担当の枢機卿よ、この「教会」に起きつつある異常事態の原因は分かったのか?」
この事態にあっても余裕の顔を崩さない教皇は、低い声で主計担当枢機卿に問うた。
主計担当枢機卿は、さすがに落ち着いていなどいられず、
「教皇猊下!まことに不甲斐ない部下達ではありまするが、必死になって情報収集中であります!早急に原因は解明できるかと思われます!」
この報告に噛み付いたのは、中央大教会の裏戦力を預かる枢機卿である。
「主計担当枢機卿、光るものしか扱わぬそなた達では、地方教会からの資金と通信途絶の原因は永久に分からんのではないか?我ら裏の戦力集団は、もうとっくに原因の一つを掴んだぞ」
その言葉に教皇が驚いたように、
「何?主計でも入手できなかった情報を裏戦力のそち達が入手したと?」
裏戦力担当枢機卿は、うっすらと笑いを浮かべた顔で、
「はい、教皇猊下。このところの地方教会からの資金断絶、通信途絶は見知らぬ組織の介入があったそうです。組織名も、地方教会を壊滅させた方法・手段も未だに不明ですが、神の罰だという台詞を吐いておりますゆえ「教会」に反逆する勢力だと断定できまする」
それを聞いた教皇、おや?
という顔で、
「地方教会は壊滅させられたと?中央大教会に連なる「教会」の数は無数にあったはずだが」
「それについては主計担当の私が。中央大教会を中心とする「教会」組織は、ここを除くと地方教会だけで200超、関連団体を含めると500を超します。現在、この地方教会だけではなく全ての関連団体による寄付・収入が全く無くなっております。それだけでなく地方教会からの通信は途絶し、関連団体は次々と「教会」との絶縁を宣言・実行している状況です」
教皇は、でっぷりと太った身体を動かすのも面倒だが、喋るにも疲れるという風に、
「主計担当枢機卿よ、そうするとだな。この中央大教会に入る資金は、ほぼ無くなったという事でよろしいか?」
主計担当枢機卿は、それに答え、
「入る資金が無くなったどころではありませぬ。どこから情報が漏れたのか分かりませぬが、わが教会組織としての裏資金のほとんど全額が星系警察組織の脱税捜査によって差し押さえられてしまっています。表の資金も裏帳簿のデータが捜査側に渡ったようで資金が凍結され使えなくなっております」
教皇は、
「主計担当よ。そうすると我らは、ここから」
主計担当枢機卿は、
「そうです。逃げることも不可能、それどころか交通機関を使用しようにも金銭が全く使えない状況になっております」
裏の戦力担当枢機卿が一言。
「そんなもの、一時は個人の財産を使えばよいではないか。皆、個人資産は有り余るほどあるだろうに」
主計担当枢機卿、首を横に振り、
「いいえ、それも無理です。中央大教会だけでなく地方教会や関連団体の個人資産についても、ある一定以上の地位にある者の財産は全て星系警察に漏れ無くデータが渡っているようで、これも事件対策で凍結されました。教会の敵対組織というのは恐ろしいほどの情報収集能力を持つようです。つまり、我々は資金的には、もう死に体になっています」
「そうか。後は、この中央大教会に、その組織の使者か代表が現れるのを待つしか無いということだな、我々に残された手段と行動は」
教皇が諦めたように言う。
それに対し、裏の戦力を率いる枢機卿は、
「ワシは、ワシは諦めぬ!我が戦力を全て使い潰しても、敵対勢力は倒すのじゃ!」
主計担当枢機卿が、それに応えるようにか、
「枢機卿、裏の戦力を動かすにも経費がかかりましょう。しかし今の「教会」に動かせる金は全くありませぬ。これで、どうしろと?」
裏の戦力担当の枢機卿は、それを聞いて激昂!
しようとして、無駄なことに気付いた。
「どんな戦力をもってしても情報と資金を奪われたら何も出来ないということか。情けない……」
教皇は肩を落としながら、いみじくも呟くのであった……




