銀河間空間の難破宇宙船団 その一
今回も、厄介な始まりになりました(笑)
さて、どう解決するのやら……
ガルガンチュア、今日も跳ぶ跳ぶ銀河間宇宙。
「マスター、今日はゴウによる擬似テレポート実験を行って詳細データを収集したいと思います」
突然のフロンティアからの申し出。
楠見は少し考えてから、
「許可は出そう。しかし、俺の暴走事故もあったように疑似テレポートは現在、制御不能なんだから十分に注意を払ってくれ」
「承知してます、マスター。とりあえず、マスターの暴走事故の3割ほどの距離までは跳んでしまう恐れがあるとフィーアやトリスタンの計算結果が出ておりますので、そこまでの範囲をカバーするように搭載艇を放ちます」
「それなら良いよ。言っちゃ何だが、俺と郷のサイキックパワーの差は10倍できかない。跳躍距離が3割というのは大げさかも知れんが、効率の差というものを考えるとありだろう」
それから数日後。
郷の疑似テレポート実験が始まる。
「じゃあ、始めに最小出力でやってみますね……えーっと、ミラーを最初に作ってと……これで随分なサイキックエネルギーが必要になるな。師匠、この状態から、どうやったらあんな超々長距離の疑似テレポートをやれたんだろう……では、ミラーに入って」
郷の姿が搭載艇のカメラから消える。
次の瞬間、カメラに写っていた鏡状の、見た目は平面(2次元状の、縦と横の幅はあるが高さがないペラペラ)に見える物質から眩しい光が発せられる。
一瞬の後、ミラーは消えている。
楠見の実験時と同じ状況だ。
しばらく、郷の跳躍先を捜索する搭載艇たち。
数時間後、数光年先で出現したと報告が入る。
「予想通りですね。ゴウでしたら充分なデータが採れる実験が可能です。たとえ暴走する可能性があるとしても銀河団すら超えることはないでしょう」
フロンティアの結論。
ガレリアも、トリスタンも、フィーアも、データを確認しながら頷く。
それ以降、数回の疑似テレポート実験が行われ、最終実験がサイキックエネルギー最大にした場合の跳躍距離計測。
「さすがに郷の力はすごいな。銀河2つ分の距離を跳んだか……俺には届かずとも、やはり正統的に始祖種族の力を受け継いでいるんだろう。これは太古に存在した始祖種族の力の限界を知るにも適したテストケースかも知れないぞ、フロンティア」
「そうですね。計算上の最大距離と思えるものになりましたのは上々です。恐らく、ゴウのサイキックパワーでは最大にしても、マスターのような暴走事故は起きないと思われます。銀河2つ分というのは生命体として驚異の距離ですよ、実際。マスターの力が常識はずれというか、もうタンパク質生命体として考えられないというか、エネルギー単体として存在してても不思議じゃないレベルですからね。我々、アンドロイドレベル、銀河団探査船レベルのエネルギー量と比べてみても比較にならない程のエネルギー量だったと思われます。今回、通常の疑似テレポート実験が成功したことにより、この技術の制御が可能となる可能性も出てきました」
「お、それは嬉しいね。ともかく、ミラーに入ったら最後、何処へ跳ばされるのかは運任せという状況はマズイからな。俺じゃ実験の対象になり難いというのなら、郷に頑張ってもらわないと。帰ってくるのに、もう少しかかりそうなんで帰投したら祝ってやるか、実験の大成功に」
「まあ、マスターの時とは違って制御可能になるという可能性があるってだけなんですが。なにしろ、サイキック工学なんてもの今まで研究も何もされたことのない分野ですから。腰を据えてデータの蓄積を数多くしながら、この新しい分野の派生技術や制御技術を考えていかねばなりません」
「うーん……ガルガンチュアになってる状態でも未知の分野だという疑似テレポートか……これは簡単に制御できると思ってた俺が甘かったかな?」
「当たり前ですよ、マスター。生身で超空間に突入して銀河団すら跳び超えかねないなんて無茶な技術、簡単に使いこなせると思ってたんですか?今までにも薄々、思ってたんですがマスターのポジティブさは呆れるほどですよね。まあ、それくらい突き抜けてる人なんで、今、こんなところで、こんな事やってるんでしょうけど」
フロンティア含めた4名のアンドロイドたちは楠見の考えの陽気さに、改めて呆気にとられる。
ここまでポジティブな思考だからこそ銀河団どころか超銀河団を超えようと思うのだろうし、銀河団探査船を合体させようなんてことも実行するんだろう……
数日後、郷は搭載艇群と共にガルガンチュアに帰還した……
ただし、おみやげとして、難破していた宇宙船団を率いて。