楠見を探して 11
終盤です。
あと一話か二話で終了です。
「み、見つけたぁ!ついに見つけたぞ、師匠ぉー!」
郷の叫びが轟き渡るフロンティア船内。
「良かったですね、ゴウ。私も、これで百年ぶりにマスターに会えるというものです」
「ああ、長かったよな、フロンティア。しかし、ついに師匠の居場所を掴んだぞ。探し出した搭載艇には何か褒美をやりたいくらいだよ」
「まあ、我々に褒美とか意味がないですからね。しかし、ここまで跳ばされるとは……もう肉体を持つ生命体の限界を超えてますな、マスターは」
「まあな、俺もそう思う。大体の捜索範囲は決まってたとは言うものの、まさか捜索範囲の最大距離にある銀河で見つかるとは……銀河団2つ半と言うことで、その球体ラインから最小は銀河団2つ、最大で銀河団3つ分と誤差範囲設けてて大正解だった。誤差を少なくしてたら未だに見つからない可能性もあったな。まさか銀河団3つ分に近い、誤差範囲の最大距離にある銀河で見つかるとは……我が師匠ながら、あのお人は、どこまで行くのやら……俺としては生きてる身で宇宙の管理者とやらになってたとしても不思議じゃないと思うんだけどね」
「ゴウ、その可能性はガルガンチュアの時に、いつも話題になるのですよ。果たして、マスターの全能力を本当に活かせるのは、このガルガンチュアなのか?と。マスターが管理者となり精神体となったほうが、よりマスターの能力を発揮できるのではないかと、しょっちゅう船内会議の話題となるのです……あ、これはマスターには秘密で。ガルガンチュアを構成する4隻のデータ交換時に空き時間を利用して行われる数秒単位の会議ですから。あなた達、肉体を持つ生命体には参加不可能な会議です」
郷、少々驚く。
フロンティアの発言は、自分たちの能力では楠見の全能力を発揮できていないのではないかと白状したようなもの。
郷はフロンティアだけでも自分なら持て余す高性能さだと思っているのに、それが4隻合体してガルガンチュアになっても楠見個人をサポートしきれなくなる可能性があると考えているとは……
「そうなると、師匠をサポートするためには今の4隻合体より増やすとか?確か兄弟船として合計10隻造られたんだっけ」
「そうですね……こういう事案が起きてしまった以上、最大合体を目指して行くのも可能性の一つかと。もちろん、4隻合体のまま性能を上げていくことも怠りませんが」
郷には正直、ガルガンチュアが10隻合体版になるというイメージが全く掴めなかった……
「ははは、ともかく俺が言えるのは、頑張ってくれという言葉だけだ。この、想像を超えたような超巨大宇宙船さえ人間「楠見」を超えられない可能性があるなんてのは何か悪い冗談というか何というか……本音を言わせてもらうと対象が俺じゃ無くてよかったと心から思う。師匠の捜索を担当して身にしみたがフロンティアのみでも俺には荷が重い。大体、防御も攻撃も、その他の装備も想像を超えてる。こんな代物、人間が管理できるものだとは思えない……俺は師匠がガルガンチュアのマスターとして登録されたことが運命としか思えない。フロンティア、正直に言ってくれ。マスターが代わったとして師匠のようにガルガンチュアを使いこなせる存在はいると思うか?」
少し考えたフロンティア、
「ふむ、正確に言いましょうか。マスター楠見の他に今の私、拡大版フロンティア一隻でも100%使いこなせる存在がいるとは思えません。4隻合体したガルガンチュアなど論外ですね。普通の生命体に、ここまでの力と性能を使いこなすことは無理でしょう。郷、あなたでも無理です。今は仮マスターとして登録されていますが、これは非常事態ゆえ。ちなみに、他の3名も同じですが各船の主砲は使用できません。これは、その人物に資格がないということです。厳しいようですが、それだけ制約をかけないと、我々が主砲を撃つとき、あちこちへの影響がありすぎますので」
郷、正直な意見だと思う。
自分がフロンティアの時空間凍結砲など担当したら、あまりのプレッシャーに気絶するだろう。
ガレリアのプロミネンス砲も他の2隻でも同じ。
大体、銀河団調査船などという馬鹿げた代物に生命体のマスターが必要な意味が理解できない(楠見は十分に理解しているようだが)
楠見が、このところ頻繁に利用している時空間凍結砲の理論のみ使用した、星系や銀河を丸ごと時空凍結して持ち運ぶという、郷にとってはトンデモ利用法でしかないと思うような方法も自分では絶対に思いつかないし思いついても実行しようと思わないものだ。
郷は楠見という個人が一種の鬼子、突然変異だと確信する。
始祖種族の先祖返り?
そんなレベルじゃないだろう、師匠の行動力と知力、そして未知のものに対する好奇心。
始祖種族が師匠のレベルに達していたとすれば、それは始祖種族が全員、宇宙の管理者へとステップアップしていなければおかしい。
今までの管理者たちの言動を師匠から聞かされた範囲で考えてみると、始祖種族で管理者としてステップアップした存在もあるとは思うが、それは、ごく少数。
ほとんどが今の宇宙へ散らばっていった末に銀河団や超銀河団レベルで始祖種族の子孫が繁栄していることを見れば、これが正解だろう。
では師匠、楠見という存在は偶然の産物なのか?
郷は怪しいと思う。
太古に造られて偶然に太陽系は木星に埋まっていた巨大宇宙船が、これも偶然にジャンクヤードで見つけた人工頭脳が勝手に睡眠教育したおかげで一種の超人となった一個人に出会い、それからは宇宙のあらゆるトラブルに対処するために、あっちの銀河、こっちの銀河団、向こうの超銀河団と巡っているって?!
「これは絶対に何かの存在が関わっていないと不可能な偶然ばかり。俺なんかの一生命体が関わることじゃないかも知れんが、何か、未来に途轍もないことが待っているような気がするぞ……ま、こんなことは師匠なら当然に推測しているんだろうが……」
郷は、それ以上考えることは止めて、楠見の救出へ向かうようにとフロンティアへ全船、目標銀河へ集合せよと発信するように言うのだった。