楠見を探して 9
また、ガルガンチュア側です。
こちら、郷達ガルガンチュアの面々。
もう、楠見の捜索に船体を分離してから数十年あまり。
未だ楠見の跳ばされてしまった先の手がかりすら見つけられない。
「これは、考え方を変えねばならないかもな」
定期報告会(超光速の無線ネットワークにて会議中)にて、郷が宣言する。
「今まで俺達は、師匠が今までの膨大な力を持っていると仮定して捜索してきた。だけど、その前提を変えたほうが良いかも知れない」
「はい?では、どのようにしてご主人様を探すと?例えば、辺境の未開惑星に跳ばされていたとして、今までのような力を持っていない状態で、どうやって探せば良いのでしょうか?」
エッタが発言。
すぐに発言したのはライム。
「通常の生命体とキャプテンを明確に分ける印は、その超常現象そのもののようなESP能力でしょう。郷さんも、最初は、あんなサイキックパワーの塊みたいな生命体は、キャプテンしか存在しないと思うからこそ、短時間で見つかると予想してたんじゃないんですか?」
「ああ、そうだった。俺の予想じゃ、十年以内に見つからなきゃおかしいと思ってた。しかし、捜索し始めてから現在で25年が過ぎて、それでも大まかな位置すら掴めないときてる。俺はね……師匠のESP能力が減衰したんじゃないかと思うんだ」
プロフェッサーが、その言葉を捉える。
「郷、我が主のサイキックパワーが弱くなったと?それなら、今まで探しても見つからないのは当然ですが……ただし、それが原因だとすれば、今まで捜索した星系や銀河、もう一度、今度は詳しく、時間をかけて精査しなきゃダメですよ」
「そうだ。そこで、もう一度、師匠がテストした3回の疑似テレポート実験、記録を精査してみようと思う。トリスタン、そっちで詳細記録は保管してたよな。一回目と二回目、そして最後となった三回目の疑似テレポート実験の記録を、隅々まで精査してくれないか」
それを受けたトリスタン。
「はい、記録の精査は準備中……完了しました。郷さん、何を重視しますか?」
「ありがとう。それじゃ、特に全ての回における、サイキックミラーに注ぎ込まれたエネルギー量を重視して、その比較をしてみてくれ」
トリスタンが、実験データを精査する。
数時間後、
「郷さん、おおよそですが、疑似テレポート実験で最終的に使われたエネルギー量は中型恒星の全エネルギー量と等しいと思われます。初回と二回目のデータは跳躍距離まで残っているので、それとの比較で、最終実験で跳ばされた距離の計算結果が出ました……それがですね……」
「トリスタン、言いよどむ理由は?計算結果は明確に出てるんだろ?公表してくれ」
「いえ、私も知的人工頭脳ですので、あまりの結果に回路が混乱しまして……跳躍距離の計算結果は、およそ信じられない距離です。銀河単位じゃありません、銀河団単位で2つ半。とてもじゃないけど、タンパク質生命体が自分一人だけの力で移動できる距離じゃありません。我々、銀河団探査船でも、単独で銀河団2つ半なんて長距離、一気に移動する気になりませんよ。ガルガンチュアになってるんでエネルギー的に膨大な余裕がありますから超銀河団すら渡ることが出来るんで、本来は一気に跳ぶ距離なんて最大数万光年が普通ですからね」
「いや、説明までやってもらってすまなかったね、トリスタン。まあ、とてつもない超常能力だってのは知ってたが、それが目に見える結果となったということなんだろうな。さて、そうなると、今やってる捜索は中止となる」
「え?なんでですか、郷さん」
すかさずエッタの疑問が。
「だってさ、エッタ、考えても見ろよ。あの師匠が、計算結果より少ない距離で跳ぶわけがない。ということは、跳んだポイントを中心として、半径は銀河団を2つ半。その球体の縁を基準として、そこに含まれる銀河を捜索する。生物の本能として、何もない空間を出現地点に選ぶことはないと判断するから。ということで、フロンティア。改正した捜索プランで、さっそく師匠の捜索開始だ」
「了解です、郷。なんだか、マスターとしての貫禄がついてきましたね」
「よせやい、フロンティア。俺なんか、まだまだだよ。師匠だったら今頃は一人で、跳んだ先の星で人助けと文明進化やってたりしてな」
半分冗談で言った郷。
まさか、それが実現しているとは考えなかった……