楠見を探して 8
楠見の暗躍、ここに極まれり!
の回(笑)
巨大テーマパークのようなセットの中で、参加者たちが崩折れていた……
心をへし折られたもの、肉体が精神についていけず老いを実感させられてしまい引退を覚悟したもの、宗教団体の長だったばかりにその嘘の歴史と誤魔化しの積み重ねを番組にて暴露されてしまい情けなくも宗教的情熱が失せてしまったもの、果ては、一国の独裁者たるものが国の独立から何から全てが嘘で塗り固められた事情だったと資料を用いて証明されてしまい、もうやってられんと統治する気すら失せてしまうものまでいる。
「ああ、我が国の拠って立つ基盤たる宗教、**教そのものが嘘と誤魔化しで塗り固められていたとは……もう、生きていく理由すらなくなるな、これは」
表情が全て抜け落ちたようなような顔で呟く一人の老人。
これでも数時間前は宗教熱情熱に溢れた顔をしていた……
大なり小なり、宗教そのものが宇宙へ出る段階の文明には、不要どころか害悪でしか無いという事実が頭に叩き込まれたところで、この番組の収録は終わり、収録後は全ての参加者に対し豪華な料理と、これも豪華な個室スイートルームが用意され、数日後には、それぞれの国に丁重に送り返された。
普通なら国際問題になるような大事件のはずなのに、拉致誘拐に近い形で招待された多数の要人たちは何も文句を言わなかった。
なぜなら、自分たちのやってきた戦争、テロ行為、スパイ行為そのものが、いかに世界を統一するのに邪魔になっていたのか十分に理解していたから。
この番組に対し文句をつけようものなら、それは赤ん坊が駄々をこねて泣きじゃくるようなもの。
いい年をした大人が、そんな事をすればどうなるか?
それが分からないほどには全員が幼稚ではなかった。
ちなみに、この番組は特別番組として世界中に放送された。
スポンサーは秘密とされたが、ある程度の推理を働かせば誰にでも分かる。
これだけの事をなせる超国家企業など、楠見インダストリーズ以外にあるわけがないということだ。
全世界が、この番組に対して妨害や番組放送停止などの手段をとること無く、全ての人間が、いかにして宗教や独裁者、特定のメディアに騙されていたかが白日の下にさらされたわけ。
国連の理事長という立場であろうと、この事実暴露からは逃れられず、某国からの賄賂漬けであったことが明らかになる。
もう、政治家という職業、宗教家という職業は金と権力、嘘にまみれた者たちばかりだと誰もが知ってしまう。
とある国では独裁者に対し反乱が起き、独裁者の一族郎党は追放や死刑。
一国家どころか、広い範囲で数国に渡り、それまで国家すら縛っていた特定宗教が邪教と認定され、その最高指導者や指導者層、軍事部門まで握るほどの権力は剥奪され、落ちぶれてしまうこととなる。
「ふぅ……これで邪魔な障害は取り除けたか……後は、宇宙文明へ到達できるかどうか、それは、この星の人間たち次第か……ガルガンチュアが探しに来るまでの間、見守るというのも一興かな?」
楠見は呟く。
その表情に暗いものはない。
ようやく、この星の人類、始祖文明の子孫たちが今一度、宇宙へ飛び出す基礎を作り上げた確信があるから。
一時の混乱が収まると、ようやく、この星にも多国家状態では不味いのじゃないかという気運が上がり始める。
楠見のところにも、様々な方面から、統一国家となるためのアドバイスを求める声が届く。
そういう時、楠見は決まって、この言葉を送ることにしている。
「本当に統一国家を求めるなら、どこにも縛られない人を選ぶべきだ。そういう人が統一国家となった星を率いる時、ようやく、ここの星の人類が宇宙へステップアップする準備が整った時だと思うよ」
楠見本人に、統一国家の首長にと望む者も一定数いたが、楠見は固辞する。
「俺は一つの星を率いる人間じゃない。この会社、楠見インダストリーズを率いるだけでも苦労しているのに、そんな地位に就けると思うか?」
笑顔でそう言う楠見に、それ以上言える者は、さすがにいなかったという。
「しかし、その人が決まったら、俺に真っ先に知らせてくれ。バックアップと暗躍は、俺の得意技だからね」
その言葉を変わらぬ笑顔で言う楠見……
こりゃ、星を率いる代表者より上だと、一部の人間は確認したと言われる……