楠見を探して 6
楠見の暴走(?)が始まるよー(笑)
楠見は、ガルガンチュアから救助を待ちながら、気休め程度に生活をエンジョイしていた。
「いやー、宇宙文明前の星、世界とは言え、結構、暮らせるもんだね。俺が暮らしてた頃の太陽系文明とまでは行かないが、それなりに暮らしやすくなってきたじゃないの。うん、文明発展は正義だ!」
(株)楠見インダストリーズの総会長(色々な事業に手を出しているため、総合的な会長職という立場にある楠見だった)として、それなりに忙しく、また、優雅な日々をおくっている楠見だが、ESPは全盛期並みには回復していない。
一度、宇宙の管理者たちへ連絡をとろうとして、思考の次元を上げられないことに気がついてからは、こちらでもようやく実用化した教育機械(楠見特化バージョン)でエスパーとして訓練を欠かさず行っている……
しかし、焦れったくなるくらいにジワジワとしかESP能力は戻っていかない。
「問題は、今の俺の状態だとガルガンチュアの搭載艇が捜索に来てもセンサーが反応しない恐れがあるってことだな。まあ、それは今の状況では心配しても、どうしようもないことなんだが」
何か吹っ切れたような気分で、この星での生活を送る楠見である。
ちなみに、女性と付き合う予定も、結婚する予定もない。
「だってねー、特定の女性と良い仲になっても、俺はこの星に骨を埋める気はないからねー。家庭も、妻も、子供なんてもってのほかだ。俺が、この星に残してやれるのは、星へと至る文明への足がかりと、そして、この星の人間たちの意識のレベルアップだけ……とは言うものの、この国は随分マシなだけで、他の国では未だに奴隷制度があったりするしなぁ……これでは星系統一政府どころか、星の統一政府すら、まだまだ遠い……」
(株)楠見インダストリーズの自社ビル最高階のフロアを丸々専用フロアにして、楠見は一角にある会長室にいる。
世界中の様々な情報がリアルタイムで入ってくる、まるでどこかの情報部のような機器や通信機に囲まれた部屋で、楠見は、この世界の未来を思い描いている。
「とりあえず、環境破壊の原因となっていた化石燃料や原子力関係なんかは撤廃できたな。こっちの手が届かない一部の最貧国家は別に手を回して、国際援助という形でうちの新型エネルギー炉への転換作業が進むようにしているんで、まあ、あと10年はかからずとも、この星の酷い環境破壊は救えたわけだ。しかし、問題は山積みだぞ……どうやって一企業の立場で国家乱立状態から統合政府へと進化させようか……」
考えている楠見の目に飛び込んで来る映像……
「あっちゃー……内乱から戦争……原因は、宗教問題とね……くぁー!なんで宗教が、神様や仏様が殺人を許容するって考えるんだ?!人を救うのが宗教だろうが!人を殺せなんていうのは、邪神だろ!」
リアルでの殺し合い映像を見ながら、楠見は沸々と怒りに燃える。
ガルガンチュアで指揮や計画を練っている場合は、そこまで悲惨な場面を見ないし、ガルガンチュアの攻撃手段は非殺傷がほとんどだから、そこまで楠見の感情を刺激することはない。
しかし、何処ともわからぬ銀河、何処ともわからぬ星に一人で放り出され、それでも星に住む者たちのために自分の持つ知恵と知識を出して進化へ導いている最中。
楠見とっては、肌の色、瞳の色、髪の色、言葉も人種も男女も老若も関係ない(楠見とは、超銀河団の段階で違っている生命体)
自分では、この星全ての命が愛する対象である(ちなみに、人類だけじゃない。愛する対象は動物も植物も含む)そう、この星そのものも。
「大切な生命だというのに互いに殺し合うとは、なんと生命軽視も甚だしい愚かしさ……ガルガンチュアなら搭載艇群放出で力技でも平和にできるがなぁ……あいにく、ここにいるのはオレ一人で仲間もない、と……」
この時点で、ESPレベルが元に戻っていない事を、この星の生命体は神に感謝すべきだろう。
いつもの楠見であれば、怒りのあまりこの星の衛星くらい、サイコキネシスで潰しかねないくらいに怒っている。
「ちょっと待てよ……教育機械でESP能力や超天才の発現を見せた者たちは、今現在、うちの関連会社がブレーンや特殊能力開発部門で雇ってるんだっけ……ふふ、いいこと思いついたぞぉ……世界平和へ、これから一直線だ!」
小人閑居して不善をなす……
いやいや、楠見の場合は小人では無いが、なにか良くない事(政治的には)を企んでいる黒い笑みがこぼれている。
この瞬間から、この星での「戦争」という言葉の意味が違ってくるのだった……