楠見を探して 5
今回は、また一人で頑張る楠見の話です。
楠見のESP力は未だ完全に戻りきっていなかった。
とは言え、元に戻りつつあるのは確かに自分でも確認できていたので当人としては焦る気持ちはなかった。
「まあ、この星で数十年か百年くらい過ごせばガルガンチュアで見つけてくれるだろう。焦っても仕方がないな……俺は俺で、ここで百年以上生きていける地固めをするか」
楠見は、この時点で普通じゃない思考をしているが、これが楠見らガルガンチュアクルーの普通であるため、ごくごく通常思考だと思っている。
「さーてと。まずは軍資金……とは言え、今ある手持ちの貴金属で数年は遊んで暮らせるくらいあるんだがなぁ……企業作るなら、もう少し頑張ろうか、俺」
手持ちの貴金属の塊を換金して買ったマンションビルの一室には、そこら中に貴金属のインゴットが散らばっている。
通常なら楠見の言う企業作りには、この散らばってる貴金属インゴットの半分もあれば中規模の、特殊工作機を使うオーダーメイド専門の電子機器及び特殊金属加工会社が簡単に出来る。
数時間後、中規模が大規模に出来るくらいの貴金属インゴットが出来上がっていた……
「さて、これでいいか。後は、特許と実用新案をいくつか取って、特殊金属を扱える加工装置を買って……まあ、残りは事務所含めた会社の敷地を買う為に使うか」
数年後、都市部より少し山奥へ入った、だだっ広い敷地の中に、でかい工場と、それに付随する事務所、寮、研究棟など、ほぼクローズドで社会生活が営めそうな企業が爆誕する。
社会貢献ということで小中高大専門の各学校からの見学者は引き受けるが、一般見学は指定された日以外は受け付けない。
「あのー……社会見学や企業訪問の学生は受け付けるのに、なぜに他企業からの見学とかは、こんなに制限されるんですか?」
引率の先生が聞いてくる。
案外役の女性と男性のコンビは、こう答えるように教育されている。
「はい、産業スパイ排除のためです。ここは、企業秘密の塊のような部署もありますし、見学から外れているルートの中には危険を伴う作業をしている部署もあります。そういう、引き受けなくとも良いトラブル排除のためですね」
はあ、そんなもんですか……
などと通常はそれでお終いとなる。
「はーい!課長さん、質問!ここは、どんなものを作っているんですか?」
無邪気な小学生高学年の集団から、ちょっと目を輝かせた子供が質問する。
「はいはい、ここは、君たちの未来を明るくするためのものが作られています。難しいかな?エネルギー炉って知ってる?ああ、原子力ね。たしかにあれもエネルギーを生み出す原子炉ではありますが、ここで作ってる部品は今までのものとは全く違う、素晴らしいものなんです。原子炉みたいに爆発もしない、危険な放射能撒き散らすこともない、そして後数年もすれば君らが大人になった頃には車やバイク、飛行機や宇宙船まで、このタイプのエネルギー炉が載ることになるだろうね。ああ、そうそう、エンジンのようなものです。よく知ってるねぇ、君。大きいものだと原子炉の大きさ以上のものも作れるけれど、それは、やれるってだけのこと。実際には、小さなものなら手のひらに載る物、大きなものでも船のエンジン部くらいの大きさまでですね。それ以上は、この工場の大きさでは部品が作れませんので……」
そう、この工場では、超小型と小型、中型と、大中型と言われる、大型より一回り小さなエネルギー炉の部品しか作られていない。
大型、超大型と言われる物は、ここでは課長の説明した通り、部品すら大きすぎて違う工場で作って運搬するしか無い。
しかし、この工場で作られる部品すら、どこかへ運ばれている。
産業スパイや企業探偵、産業系新聞やスッパ抜きを好む三流モノ系雑誌の者たちは、この部品が運ばれていく先を突き止めようと躍起になっている。
しかし、ある程度までは追跡しても、それ以降、どんなに手を尽くしても、部品の届け先が分からない。
いつの間にか、産業界の不思議ということで噂になっていく。
「今日も噂の検証とやらで、向こう見ずな一般人が大型輸送便に混じって運転手として付いてこようとしていました。幸い、うちの輸送トラックは全て無人化、及び、高度な人工頭脳が組み込まれたロボットトラックのため、積み込み時に発見されて排除されましたが。組み立てと実働試験は工場と離しているってのが、危険を伴うからだと推測できないんですかね?子供でもちょいと考えりゃ分かりそうなもんでしょうが」
輸送部主任が気難しい顔をしている。
このところ部品の発送日はランダムに決めているが、どこで嗅ぎつけてくるのやら、大型トラックの集団に紛れて、何とか潜り込めないかと、このような奴らが少しづつ増えてきている。
「まあまあ、抑えてくれ、主任。もう少しで空輸体制に切り替えられそうなんだ。空輸になれば、そうそう潜り込みのチャンスもないだろう」
フラグを立てたわけじゃないんだろうが後に大規模空輸体制に切り替わっても、潜り込み取材とスパイしようという輩は途切れることはなかったという……
「まずは、クリーンなエネルギー炉に全ての機械動力を切り替えて……お次は電力の切り替え、そしてそして、ようやく宇宙船の開発と……時間があるからゆっくりやってるが、通常なら数年で宇宙船開発までやらせるんだがなぁ……データは俺の頭の中に全て入ってるが、やっぱ、ガルガンチュアって万能工場が無いと不便だよなぁ……」
超巨大宇宙船すら万能工場扱いの楠見であった……