楠見を探して 3
どっか行っちゃった楠見は、どうなってるの?
って回です。
その頃、跳ばされた楠見は……
「う……ここ、銀河の星系だ?俺は何処まで跳ばされた?ミラーは……消えてるな。どうやら、何処かの銀河の、何処かの星に到着してるようだが。あ、ガルガンチュアは……ふむ、テレパシーは弱くなっているようだ。この分じゃ……やっぱりか。サイコキネシスも弱体化してるな。大気中の金属分子を集めるのに数十秒もかかるとはなぁ」
楠見のESPは確かに弱体化している。
あまりにミラーを強化するために力を注いだための一時的な弱体化だったりするが、自分では分からない。
いつまで弱体化するのか、ずっと弱くなったままなのか、それも自分では分からない。
「実験前に着てた軽宇宙服は、どこも損傷なしか。まあ、これで半裸とか言う事態は勘弁してほしかったが、それだけは回避できたわけか」
楠見は以前に訪れた魔法の使える星で元地球人の使っていた魔法の再現、と言うか他の生命体を検知するレーダー魔法をサイコキネシスとテレパシーで再現しようとする。
「あれは、どうやるんだったっけか?確か、ごく薄くした魔法力を自分を中心とした円状に広げてたんだっけ……テレパシーは、薄く広くという形には出来ないからな。サイコキネシスを、俺の使える最大範囲で最小のエネルギーを充満させるように……そこへテレパシーを重ねるようにして……おっ!成功した。ここから少し遠いが、そこなら生命体が密集しているな。テレパシーの受信感覚では、ちょっとした町らしいが……文明程度は、とても自星系から飛び立てるような文明じゃなさそうだが。まあ。仕方がないか。そちらへ向かおう」
弱体化したとはいえ星を砕くレベルじゃなくなっただけであり、普通のESPレベルと、かけ離れてるとは毛筋ほども思わない勘違い中年は町へ向かう。
深い森の中へ出現した楠見が、その森を出るまでに数週間かかった。
まあ、楠見以外は生きて出られるような森ではなかったのだが(肉食獣やら、毒を持つ虫や肉食草花がウヨウヨいる禁忌の森と呼ばれるポイント)楠見には何の問題もない。
サイキックフィールドは無意識に展開されるので、楠見を害するようなもの(猛獣はいざ知らず、毒虫や食肉草花まで)は一切、その身を傷つけることはない。
「少し腹が減ったな……こういう時は、確か、宇宙服の隠しポケットの中に……あったあった。携行タイプの宇宙食だ。あまり美味くないけれど空腹を満たすには、もってこいだな」
宇宙食を齧りながら、近くを流れている小川より、水をサイコキネシスで運んでくる。
もちろん、徹底的に小川の水はサイコキネシスで濾過している(疑似錬金術の要領で、水の中の不純物分子を徹底的に除去している)ので、ほとんど純水に近くなっている飲料水だ。
深い森を抜け出ると、町が見えてくる。
とは言え、まだまだ遠い。
「空飛ぶわけにはいかないから、厄介だね、こりゃ。はぁ……最低でも俺のいた頃の太陽系は地球の文明程度だったらなぁ……愚痴を言っても始まらないから、仕方がない。サイコキネシスを軽く使って、この星の重力を半分くらいにしてみるとするか……おお、こりゃ速い。このまま町へ向かうとするか」
なお、自分じゃ気づかないようだが、この時の楠見の出している速度は、およそ時速50km超え。
昔の地球で言う原付自転車(50cc)の最大速に近い、常識はずれの速さだということを理解していない。
数時間後、楠見は町の門へ到着する。
門番が立っていて、町へ入る者たちをチェックしているようだ。
「町へ入るのに、何か条件があるのかな?まあいい、条件が分かれば何とかなるだろう……言葉も理解できないが、まあ数時間もあれば会話が可能になるだろう。まずは、入門を待つ人たちの会話を聞きながら、会話くらいはできるレベルにならないと」
二時間くらいかかったが、楠見の入門チェックとなる。
その時点では、もう楠見は、この星の地域言語が会話レベルで可能となっていた。
「おや?身一つなのか?追い剥ぎや盗賊にでも出会ったか?見慣れぬ服装をしているが、もしかして貴族様か?」
門番は、何も所持しているような風に見えない楠見に質問する。
「ええ、向こうの森で盗賊に襲われましてね。おまけに逃げた方向が奥へ奥へと……纏ってた武器も防具も、帰りにはボロボロで捨ててしまいました。残ってたのは、数粒の金くらいですよ」
と言いながら、楠見は最初に作り出した金の粒、数十粒を見せる。
「あ、あんた、苦労したな。しかし、この財産だけは守ったということか。町へ入る時に入町税として銀一枚を徴収するが……一番小さな粒をもらおうか。こちらが銀10枚と交換して、税金で銀一枚をもらう。さて、血糊もないし、犯罪者でもなさそうなんで、ここまでだ。ようこそ、モリノの町へ」
楠見は、守衛たちに、この町の全体像を教えてもらう。
彼らいわく、皇都や王都のような巨大都市ではないが、それなりに地方都市としては大きな町らしい。
楠見の出てきた森は、禁忌の森と言われ、猛獣や毒虫、肉食の草花がそこいらじゅうに存在する超危険地帯だという。
しかし、ここで採れる薬草や毒草、毒虫の毒腺など、高級な薬の原料となるために採取に入る者たちは多いとのこと。
「あんたも、手っ取り早く稼ぐなら禁忌の森へ採取作業へ行くと良いぞ。ただし、何かあったらすぐに森から出られるように、ごくごく浅い地域しか入らないようにギルドから指導されるがな」
ありがとうと礼を良い、楠見は教えられた宿屋へ向かう。
楠見の持っている金の粒は価値で言うと、この町で一年は贅沢に暮らせるほどの金額らしい。
財産を金に替えて旅をするなんて、あんた賢いな、と守衛に褒められる楠見だった。
「さて、と。この星で暮らしながら、ゆっくりと養生するか。どうせ、ミラーに全てのESP能力を注ぎ込んだが故の暴走事故なんだろうが、ガルガンチュアに連絡とろうにも俺の力が戻らないと話にならんわな。とりあえずの目標としては、ここの暮らしに慣れることと、もとの力を取り戻すことだ。ゆっくりと行こう、ゆっくりと。疑似テレポート暴走事故のように、焦って結果を出そうとすると、ろくなことがない」
自分に帰ってくる言葉だと分からないのが救いか。
楠見は、とりあえず今の状況で生き抜くことを最優先させるのだった。