エスパーたちの銀河 16 最終話
ようやく終了です、この話。
それから数日後のこと。
郷の姿は銀河辺境を離れ、こともあろうに中央星系の銀河連邦情報省は情報部の長官室にあった。
「……ってことで、いかがです?情報部の皆さんの所属が変わるだけで、やってる仕事は同じですよ」
郷の提案に頷きかけて、あわてて否定する長官。
「魅力的ではありますな……選りにも選って、この銀河連邦情報部ごとガルガンチュア教団へ引っ越しですか。やる仕事は同じで更に給与は倍増。表の役割は違ってきますが情報収集と、その対応作業は変わらないと……で、その引越し費用や個人、家族の住宅事業に至るまで、まるっと教団が引き受けますってか……更に特典として……」
「はい、我が教団で新たなサイコキネシスの技術開発がありまして。その「疑似テレポート」の技術を、そちらへもお教えしましょう。ただし、こればかりは教団へ来るという確約がなければ無理ですがね。秘中の秘になりますので。まあ教えても何人が使えるようになるのか?は、そちらのESP能力の高さによりますが。私の目測ですが少なくとも3名は使えるようになると思いますよ……長官も……うーん……将来は使えるようになるかも、というレベルですね。あなた自身は、どっちかというと実戦。それも格闘戦向きでしょ?」
郷の提案を改めて考える長官。
「分かりますか、やはり……私のESP能力は、というのか何というのか変身能力なんですよ。昔で言う「狼人間」ってやつで変身後にはスピードと腕力が数倍になりますね」
「その力、桁が一つ上がるとは思いますよ、うちの教育機械に半月もかかればパワードスーツを着た強化歩兵くらいは捻れるようになると思います。サイコキネシスが使えるようになるかどうか教育機械のレッスン終了後の訓練次第になると思われますが。ちなみに希望する方々のみになりますが寿命の方も相当に伸びることになると思います」
長官、思わずイエスと言ってしまいそうになる。
うますぎる話だ……
なにか裏があるに違いない……
「そ、それは魅力的ですね。それで、ですね。ぶっちゃけ伺いますが、そこまでしてくれるのなら我々が負担するべきものは?あまりに、そちらから譲渡される権力と金額、おまけにサイコキネシス技術に寿命の長命化までなんて大きすぎる。我々の魂が欲しいとか言われても喜んで差し出す者がいますよ」
郷の返事は素っ気ない。
「ああ、それが心配でしたか。何、裏の仕事としては何も変わらないんですが、表の仕事として情報部の皆さんには、ガルガンチュア教団で上位の役に付いてほしいということですよ。それが絶対条件……ぶっちゃけますとですね。うちの聖典にある「神の使い」の代役をお願いしたいってことです、ここの誰か一人に」
長官室から素っ頓狂な叫び声が上がった……
それから数年後。
ガルガンチュア教団には枢機卿会議室という名の建物ができている。
ここに入れるのは少なくとも司祭以上。
ここの室長として豪華な肘掛け椅子に座り、書類の山と格闘しているのは……
「ああ、銀河連邦にいたときと同じ状況じゃないか!郷さんも言ってた通り何も変わらん!……とは言うものの俺も部下たちも、かなりパワーアップしたし、特に、あの3人に至っては……」
元、情報局情報部長官、サンダーと呼ばれた人物は今じゃガルガンチュア教団の情報局長という裏の仕事が主。
表の仕事は枢機卿会議室の室長という立場で、教団の様々な援助先の選定と、その担当者を決める作業をしている。
ちなみに、ロックフォール。
今じゃ大枢機卿という肩書を持ち、教皇直属の身。
裏では様々な超のつく大規模トラブルや大規模星間犯罪の抑止と解消を担う。
シモンは肩書を司祭長と。
裏ではロックフォールのような大規模な案件ではなく、もう少し規模の小さい中規模クラスのトラブルと星間犯罪を扱う。
ジャストの方は上級司祭の肩書。
裏では小規模から中規模までのトラブルと星間犯罪を通常は担当し、時にはロックフォールやシモンの補助を行う。
この3名は距離と規模の差こそあれ疑似テレポートが使える。
ご想像の通り、ロックフォール>シモン>ジャストの順で疑似テレポート能力に差がある。
ロックフォールが動く場合は通常の連邦軍や連邦情報局(ガルガンチュア教団の大量引き抜き後、どうしても必要だということで連邦情報局が新たな人員で設置されることとなった)が対応しきれなくなった時か、あるいは過激な武装侵略を目的とした未熟な初期宇宙文明の星系の対処を依頼された場合だ。
通常、ロックフォールは中央教会にて教皇の隣に立ち、その威厳を示す。
しかし、業務終了後、ジャストやシモンたちとの会食時には……
「……ごくっ……っかぁーっ!美味い!立ちっぱなしで姿勢が少しでも乱れると教皇様のジト目視線が飛んできて、あわててシャキ!とするって毎日だからねぇ……あーあ、大規模トラブル、どっかで起きないかなぁ……武装反乱勢力でも良いけどな!」
「ろ、ロックフォール先輩……ここは防音フィールド張ってるんで大丈夫とは言うものの、人目というものを気にして下さい!まったく……聖典にある「神の使い」役が台無しですよ!台無し!」
「ぬぁんだってぇ?ジャスト。僕はなぁ……望んで教団の表の顔になんてなりたくなかったんだよ!郷さんと、あの伝説のクスミさん……あの人たちに懇願されなきゃ、君らみたいに実戦主体の裏舞台に立ちたかったさ!だけどなぁ……どこの誰がクスミさんの代わりができるってんだ?!あぁ?!無理だって!そりゃ、僕のサイキック能力は、この銀河で一番だと思うよ、自分でもさ。だけど、だけどなぁ……あんな、人間の形をしたサイキックエネルギーの塊が存在してるのは宇宙の奇跡だろ!あんな力でなきゃ銀河や銀河団、超銀河団が渡れないってんならガルガンチュアクルーが増えないのも当然だって!あの人の前に立つだけで本能的に跳躍航法船で逃げたくなる。今なら疑似テレポートだがな。まあ、無理だろうけど……ちょいと念ずるだけで惑星を砕けるってのも、あれなら当然だと思う……そんな人の代役なんざ務まると思うか?!いーや、無理だね。今すぐにでも大枢機卿の肩書なんざドブへ捨てて宇宙戦争へ生身で飛び込んだほうがマシだ!」
「ロックフォール……代わってやることもできない立場だからなぁ、こればかりは。まあ、憂さ晴らしは会食の時にやれば良いさ……俺達だけは、お前の味方だよ。何度酔いつぶれたって俺達はお前を見捨てないぞ……ほら、ジャスト、肩を貸せ。大枢機卿専用寝所まで運ぶぞ……よっこらせ、と」
「いつものことながら中央教会のESP無効化フィールドは優秀ですよねぇ……本当なら、こんな事せずにすむんですけど……よいしょ!酔っ払いは重いなぁ……」
ガルガンチュアと楠見、郷、エッタの去った銀河には、それでもガルガンチュア教団が残り、この銀河の平和を維持、発展させていく……
数人の不満は、このさい仕方ないと諦めてもらおう……
あー!終わったぁ!
書いてて分かったけど、未だに作者のチャレンジするネタではありませんでした。
実力不足を実感しましたよ……