エスパーたちの銀河 15
もう少しで終わると思います(長かった……)
「ご主人様、聖女としての役目は果たしてきました……いつまで続けるんですか?」
そうなんだよなぁ、ガルガンチュア教団なんて御大層な名前を付けちゃったから、民衆の癒やしと救いを実現して継続しないとダメなんだよなぁ……
どうしようか?
俺達は、そのうち、この銀河を離れることが決定だし、そうすりゃ、郷もエッタも教団を離れることとなる。
俺?
聖典とやらを読んでみたが、俺の役目は宇宙全体を平和で安全なものにすること(そのへんは誇張も嘘もなく書いてくれたらしい)なんで、俺が銀河を旅立っても聖典の予言通り。
何の違いもないことになるので、これは実行したほうが世のため人のため。
とりあえず、聖女候補として頑張ってる方々へ、ご褒美のナノマシン投与。
「これで、君たちが触れる人々は癒やされることとなる。ちなみに、君たち自身も、これから数千年単位で生きることとなるので、そのつもりで」
エッタが嬉しそうだ。
一人で対応できる人数じゃなかったぞ、あの行列。
よくもまぁ、あの数を一人で癒やすことなどできたもんだ。
「エッタ、今までご苦労さま。これで一人聖女は解任だ。これからは多数の聖女がエッタの代わりとなる」
ホッとして、思わず表情を緩めるエッタ。
はいはい、よくやったよ。
俺はエッタをナデナデしてやる。
ほらそこのライムさん、後で君にもやったげるから、そんな顔しないの。
「それじゃ、教皇様に報告してから、郷のところへ行くか」
報告後、郷のいる辺境へ行こうとすると、反対意見を教皇様が。
「ちょっと待って下さい!神の使いが来てるってのに、大々的に公表しないんですか?!」
教皇様?
俺が人前に出て、大音量でシュプレヒコールを叫ぶとでも?
そういうのが嫌いなんで、裏工作ばっかりしてきたんですけどね、多数の銀河で。
「それでも、教団も教会も、その聖典に載っている本人が姿を消すのを良しとするわけがないでしょうが!よしんば代役を立てるとしても、誰にするんですか?!」
あ、それね。
郷が懇意にしてる高能力のエスパーたちがいるらしいので、郷に連絡取ってもらって、そのへんは解決するよ。
郷と話し合うんで、ちょっと失礼するね。
《ガルガンチュア、俺達4人を、郷のところまで転送してくれ。距離的に遠いけれど、主転送機なら可能だよな?》
答えよりも早く、俺達は郷のところへ。
「だから、事前連絡くださいって。思ったより時間かかりましたね」
「あのな、郷。事前説明で辺境から中央教会へ行く時間を教えろよ、えらい目にあったぞ。帰りも同様ってのは避けたかったんで、ガルガンチュアの転送で送ってもらった」
「まあ、たまには苦労を感じてもらったほうが師匠のためになるかと。だって、やろうと思えば肉体一つで星すら砕けるんですから。その星や銀河に住まう人々の苦労ってやつを身にしみて感じてもらう必要があると思うんですよね、師匠には」
「えらく疲れたよ、精神的に。この銀河は、俺達の銀河系並に、転送機の普及を考えたほうが良いかもな」
郷が、あわてて否定してくる。
そこまで平和じゃないらしい、この銀河。
「ところで郷、この前言ってたミラー防御って技術は?何か面白そうじゃないか」
「あ、そうでしたね。エッタのニコニコ顔と師匠の平常顔で忘れてました……こういうもので、相手の力を跳ね返したり無効化したりする技術です。どうです?」
郷が、サイコキネシスで亜空間のような平面世界を作り、その中へ自分ごと入る。
それを俺の力で攻撃してみるが……
言うだけのことはある。
郷の全力どころか半分の力くらいで防御は貫けて、鏡のような面が割れるが。
郷の全力の半分ってのは凄い。
防御として、通常のESP能力ならほぼ貫通や破壊不能じゃないか。
「ふむ……面白いな、このミラー防御って。ん?思いついたことがあるんだが……これは生身で異空間へ収容されてるってことだよな……その空間内では安定して、攻撃の影響も受けない状況……郷。思いついたことがある。ちょいと実験してみたいんで、付き合ってくれるか」
数日後。
俺と郷の乗る小型搭載艇は、銀河の縁から少し離れた宇宙空間にあった。
「じゃあ、俺は軽宇宙服で船外へ出る。異常を感じたら、収容してくれ」
「大丈夫なんでしょうね?危険なことはないと師匠自身が保証してましたが」
「ああ。これが成功すれば、伝説のテレポート能力と同様のことが可能になるはずだ」
「はい?!生身でテレポートなんかやった日には、生物として存在できないって師匠が以前に言ってたじゃないですか!無茶な実験、止めましょうよ」
「危険はないと思うぞ。宇宙船の跳躍航法と似たものを、生身の保護でミラー防御しながらやるってことだ」
「そんな説明されてもですね、理解できませんよ」
《じゃあ、見てれば分かる。まずは、自分をミラー状の亜空間で保護して……》
〈師匠?!途中でテレパシーが消えましたが!ミラーすら消えてますよ、師匠!〉
一瞬後、楠見からのテレパシーが復活。
《実験成功だ。ESPの新たな世界を切り開いた日となるだろう。擬似的テレポートの成功だ》
数秒後、楠見のものと思われるミラー状の平面が搭載艇の近くに出現。
「完全に制御可能と分かった。凄いぞ、ある一定以上のサイコキネシス能力保有者は擬似的にミラーを応用したテレポートが可能となる」
その後のフロンティアやガレリア、その他のクルーも交えた会議の中でも、この技術は話題となる。
「ふむふむ……肉体を保護する平面バリアのような亜空間を作り、その亜空間ごと超空間へ放り込む……宇宙船の跳躍航法に似ていますが、必要な最低速度が違いすぎますね。もしかして亜空間そのものを超空間が拒否するのかもしれません。超空間では一切の物質やエネルギーが存在できないので宇宙船はエネルギー保存則のまま跳ね返されて跳躍航法が実現しますが、亜空間のような空間そのものを超空間が拒否するのなら、この疑似テレポートと呼ぶ現象も理解できます」
フロンティアすら最初は理解不能だったが、話し合ううちに疑似テレポート現象の原理が解明されていった(実際に楠見の行った実験のデータもある)
「総じて疑似テレポートは可能だと理論的にも技術的にも解明されたわけか。しかし……生身で擬似テレポートが可能と分かっても、これはハードルが高いな」
「そうですね、我が主。まず、ミラー防御の亜空間を作れるほどのレベルを持つエスパーが限られること。加えて、その上で超空間への入口を開けることのできる余力のあるサイコネシスの力の持ち主など、まず、この銀河内でも数人いるかいないかのレベルです」
そうなんだよ、あまりに疑似テレポートに必要なサイコキネシスの必要力が高すぎる。
これは一般的な技術としては公開できそうもないよなぁ……
「師匠、そのことについてはご心配なく。俺に心当たりがあります」
ん?
郷、何を企んでるんだ?




