エスパーたちの銀河 11
そろそろ終幕です。
連邦が、反抗する勢力に対して武力で押さえつける事をやめてから数年が過ぎる。
ロックフォールも、ジャストも、シモンすら武力を用いることが無駄と分かり、徐々に反乱勢力との交渉と職業斡旋に力を注ぐようになると、それにつれて反乱勢力そのものの規模が縮小していった。
ちなみに、ロックフォール、現在は司祭ではない。
ゴウの許可を得て、仮の司祭職から開放され、それに加えてガルガンチュア教団からも籍を抜く。
「はぁ……辞めてしまうと今更ながら、ガルガンチュア教団の居心地の良さが思い出されるなぁ……ゴウさんとの手合わせは厳しかったけれど、それでも僕の力は数倍になったんだから、あれは必要な修行だったとは言えるんだよな。それ以外は、信者や信者でない者たちの区別なくトラブルや困りごとを解決するのが日常という、ともかく変わった教団というのが、ガルガンチュア教団を言い表す言葉だった……」
その呟きにジャストが一言。
「いやいや、ロックフォール先輩。ゴウさんクラスのエスパーだからこそ、あんな無茶苦茶な日常を送れるんですからね!貧困を解決しようとするのに問答無用で、その時点での借金を精算し生活費を数年分援助するとか、DV家族から避難させるのに惑星単位で引っ越しさせるなんて無茶、誰もできないですよ……それもこれも、全て無償ですからね。政府関係でも福祉予算ってのがあるのに、その年間予算の数十倍を一日で消費してて、それで教団が傾く兆候すらないという……どれだけの財産があるのやら、こっちの情報部の徹底調査でも全て把握できなかったという馬鹿げたものなんですから」
シモンが付け加える。
「いや、ジャスト。超のつくエスパーだからと言っても、金銭の問題は関係ないだろ。それとも、昔の錬金術だったか?を会得しているのかも知れんぞ」
シモンさん、正解に近づく発言をしているとは自分でも思ってない。
ゴウのサイコキネシスは、数百年前のクスミと同レベルまで高まっているので、今では大気中にある貴金属成分を集めて金塊やら銀塊など作り出すことが可能となっている。
ちなみにクスミが同じことをやると、瞬時に金塊や銀塊が手の中に出現するが、ゴウでは塊にするのに時間がかかる(ダイヤモンドも、今の時点では作り出せない。もう少しサイコキネシス能力が強くなり、それに集中力が追いつけば可能だろうが)
「そうですかね……錬金術もサイコキネシスやテレキネシスの超強力版で可能になるんじゃないかと僕は思ってるんですが……ロックフォール先輩クラスだと、実は錬金術も可能になったりして」
ジャストの発言に、ロックフォールが答えて、
「いやいや、空気中の貴金属粒子だけを集めて凝縮させるなんて芸当、まだまだ僕には無理だ。ガルガンチュア教団での修行で、随分とESPそのものは底上げされたと思うけれど、まだまだ。だいだい、特定の貴金属粒子だけ選択して集めるなんて、そんじょそこいらのレベルのエスパーにできるだけないだろうが」
「あ、やり方は理解してるんですね、それでも。まあ、僕らレベルじゃ、やり方を理解してたとしても無理なんでしょうけど」
ジャストが、もうヤケ気味で言う。
「まあまあ、ジャスト。次元の違うレベルのESP能力者に対して妬いても無駄だ。そうだな、今の君の状態は、ガルガンチュアに属する彼らから見ると、駄々っ子の赤ん坊がイヤイヤしながら泣きじゃくってるのと同じじゃないかな?まあ、処置なしという点では同じだろ」
「無茶苦茶言いますね、シモン先輩。自分でも分かってますよ、そのくらい。僕はね、どう足掻こうと、肩を並べることも、その力の片鱗にすら届かない自分に腹がたってるんですよ。言いがかり、逆ギレに近いと自分でも思ってるんです……なんで、あんなESPの力の塊みたいなのが肉体を持って存在してるんでしょうね?もう、宇宙のパワーが集まって肉体を構成しててもおかしくないレベルですよね」
それを聞いて、ロックフォールが、
「ジャストの言いたいことは理解できるよ。僕も、ゴウさんのレベルでさえ、現実に肉体を纏ってるのが不思議だと思う。ちなみに、僕の過去の経験では、ゴウさんの半分にも達しないESPレベルでさえ、自分の力を制御できずに破滅していった人間を何人も見てきている。一瞬、僕も敵わない力を見せても、その数分後には精神も肉体も崩壊するのが普通なんだよ。ゴウさん、そして、ゴウさんの師匠と呼ばれるクスミ氏……どんなESPの化け物なのやら。軽く星を砕けると言うゴウさんの言うことが真実だとするなら、その人が目の前に出現するだけで、ESPを持つ人間は耐えられないだろうな、多分。漏れ出る僅かなESPだけで、気を失えれば良いほうだろう……狂う、死ぬ、どっちもありうると思うぞ」
「おー、天下に轟くロックフォールが口にする言葉じゃないな。この三人が敵わないなら、この銀河にガルガンチュアを阻むものはいないんじゃないか?」
「まあ、そうだろうね。ちなみに、シモン。エネルギースピアやミラー化を全てゴウさんに防がれ、破壊された時、どう思った?」
「そうだなぁ……打つ手がないとは思ったよ。それに、ゴウさんの様子を見る限り、あの力には、まだ奥があると感じたね。あれに加えて、まだ攻撃や防御手段があるなら、もはや俺の、どんな攻撃も防御も意味がないだろうな」
「ふふ、君ほどのエスパーでも、そう感じたか。ちなみにゴウさんの言うことにゃ、師匠には到底敵わない、だそうだ」
嘘だ、まさか、本当だよ、などとおしゃべりは尽きない。
それを横目で見ながら、長官(彼は肉体派のエスパーである。肉体細胞が変質して、無敵の闘士と化す、つまり変身能力という稀有なESPの持ち主)は、本当かね?と、未だに信じられない気持ちでいる。
そこへ、長官を除く全員に向けたテレパシーが届く。
〈ガルガンチュア教団の関係者の皆へ。喜ばしいニュースだ。ついに、ついにガルガンチュアが、この銀河へやって来ることになった。老若男女、善人も悪人も、教会へ来なさい。きっと良いことがあるだろう。これは予想や希望ではない、半ば確定事項だ。現実化するのに必要なのは、皆が来ることだけ。奇跡の具現化を、その目で見届けるが良い〉
「ガルガンチュアが来るって……神か魔王か、それとも異世界からの使者か……」
三人は、そんなことを呟いていた……