エスパーたちの銀河 7
会話から、ちょっとした模擬戦です。
ロックフォール司祭とゴウ枢機卿は郊外へ来ている。
「これ以上の遠出は、私は許されていない。書類決済が滞るということだそうで、いつでも連絡が付くところにいてくれという。はぁ……こんな立場になるくらいなら教団なんて立ち上げなきゃよかったと思うよ、実際」
ゴウ枢機卿の愚痴が出る。
「ガルガンチュア教団でもトップに近い地位の人が、そんな愚痴言って良いんですか?高い地位には重大な責任が伴うもんですよ。ところで、地位と責任ってことで聞きたいんですが。本物のガルガンチュアにいるクスミって御方、かなりの力と地位にあると思うんですけど。そういう方の責任って?」
ロックフォール司祭が興味を持った風に聞く。
まだ見ぬクスミという存在自身も、とてつもないエスパーであり、その座乗する宇宙船が想像を絶する大きさと力、エネルギーを持つ。
その情報は、いくらあっても多すぎることはない。
「うーん……とてつもない力を持つということは間違いないね、師匠は。責任感は結構あるとは思うが、それが一つの惑星に向けられるものじゃないのは君も想像できると思うが。何しろ活動単位が銀河一つだからね。どうしたって一人の人間とか一つの惑星とかいうのは思考から外れるよね」
「はは、は。ま、まあ仕方がないでしょうね。もしかして、銀河や銀河団が違うから責任持たなくて良いと考えてるとか?」
「いや、そうでもない。生命体や動物が全滅してしまった銀河もあったが、そこから生命体の再生までやってる。自分には全く関係ない死の銀河での話だぞ、これ。多分、生命体とか生命そのものに対する愛……いわゆる、エロスの愛ではなくアガペーの愛、つまり神のような視点での愛なんだろう。そうでもなきゃ、異次元断層を修復するためのアイデアを提供したり銀河の衝突を数百年かけて回避させるなんて芸当、やるという前提からして無謀だと思わないか?」
「ははは……凄すぎて何も言えません……無茶苦茶ですよ、やってることが。僕も言ってみれば、この銀河では歴史の裏で色々やってまして、もう1000年以上生きてます。新しい星を見つけて、あまりに増えすぎた主星系からの移民団を率いたこともありますし、危うく銀河大戦になりかけた連邦と帝国の戦いを小規模で食い止めたこともあります。人工生命体やAIが反乱を起こし人類絶滅になりそうな事件を解決したこともあります。でも、死の銀河の再生?銀河衝突の回避?生命体がやれるプロジェクトの規模じゃありませんよ、それ。僕や他の超優秀クラスのエスパーたちが全員揃ってたとしても、銀河の衝突なんて防げるもんじゃないでしょうに」
やってることのレベルが違いすぎて自分が小さな人間に思えてしまうロックフォール司祭である。
しかし、ゴウ枢機卿は、当然のことと言葉を続けるのだった。
「いや、君も個人として壮大な事案に取り組み、絶大な結果を残していると思うぞ、俺は。まあ、俺達ガルガンチュアクルーの場合は規模と時間のレベルが違うから何とも言えんが。銀河単位のトラブルを数千回経験してみろ、銀河の衝突など軽いトラブルだと感じるぞ」
ロックフォール司祭、もう何をか言わんやと。
「ゴウ枢機卿の年齢で、約一万5000歳を超えているとのことでしたよね。師匠と呼ばれるクスミ氏で、三万歳を少し超えたところ、でしたっけ?宇宙船そのものは、数百万年単位の昔に、クスミ氏とは銀河団も違うシリコン生命体という稀有な種族が造ったとのことと聞き及んでいます。その他のクルーなどクスミ氏より年齢が上?」
「いや、エッタという元精神生命体の生体端末だった少女の場合は、師匠よりも年下だろう……ただし、その精神生命体そのものは、この宇宙の前に存在した宇宙の出身だそうなんで、知識の量としては圧倒的に古いものまで持っているようだ」
「あ、あははは。もう笑うしか無いようなクルーの人選ですよね。もしかして、クルーの選別は厳しいものなんですか?」
「うーむ……そうだなぁ。厳しいと言えば厳しいが、基本的には自由意志だ。候補は何人もいたらしいが、最終的に自分の星や銀河を離れることが嫌で、ガルガンチュアクルーにならなかったものが多いな。師匠の言によると、俺と出会う前に出会った、超強力な予知能力者だったマリーさんという女性は、できればクルーに迎えたかったらしいが。あ、理由は自分や他のクルーが持っていない予知能力だそうだ。恋や愛などという矛盾する本能的なものじゃないとは言ってたが」
予知能力!
話には聞いていたが、別の銀河団には、そんな特殊能力を持つ存在もいるのか。
ロックフォール司祭は、噂だけ聞いたが、実際には予知能力とは言いつつも、詐欺まがいの洗脳集団ばかりだったので、自分では予知能力など無いと思っていた。
「さて、ロックフォール司祭、いや、ロックフォール君。君自身としても、俺のESPがどれほどのものか知りたいだろ?いやいや、自分に嘘ついても無理だよ」
「え?そりゃ、興味はありますよ。僕より強いだろうというのは実感として感じてますが、本気で戦ったわけじゃありませんからね」
「ここ、もう少し行くと荒野地帯になるからね。多少の無茶や無理をしても大丈夫だろ。一度、手合わせしてみるかい?まあ、俺は手加減するけどね」
「うーん……上司から、謎のエスパー集団のトップクラスにある者の実力は、どのくらいのものか?という質問が来てるんですよ。嘘をついても仕方がないので、僕よりも上位者だと回答しておいたんですが、それじゃ不満なようでして。軽くでも良いので、模擬戦闘や手合わせ程度のレポートが欲しいと言ってくるんですよね」
「そうか、そういう理由だったか。表層意識に、時々、どうすればゴウ枢機卿の力の度合いを測れるか?なんてのが出てくるんで、何事かと思ったよ」
「それじゃ、本当に手加減してくださいよ、ゴウ枢機卿。肌感覚では、もう貴方のほうが強力なのは実感してるんですから」
それから、傍目には蹂躙という手合わせが始まる……
「それじゃ、次行くよ。こいつは、前のサイコキネシス強度の二倍だ。そーれ!」
「うわわ!ちょ、ちょっと抑えてください!前の強さでギリギリだってのに、その二倍!……ふぅ……こんな力、僕の中にあったんだなぁ。反らした力の一部で大地がえぐれてるなんて、僕も今まで経験したことがない。では、僕の切り札を使わせてもらいます。位相シールド展開!どうです?どれだけ強いサイコキネシスを放ってきても、次元位相をずらしてるんで、こっちには影響が……え?影響が無い、はず、なの、に!」
「ふっふっふ、次元位相をESPで再現できるとは凄いね。しかし、これは予想済みのことだ。ガルガンチュアでは、次元位相をずらすどころか、多元宇宙へ主砲を届かせることも可能だからね。しかし、俺の能力では、これをやられると半分ほどしか力が使えなくなる。良いアイデアだ、師匠には通用しないだろうが」
「こ、これで半分の力ですか!」
パリン、という音とともに鏡面シールドのような物体が割れると同時に、ロックフォール司祭の姿が現れる。
「もうダメ!降参、降参です。防御として万全だと思ってる手段が通用しないんです、これ以上は僕がダメージ喰らいすぎて、下手すりゃ死んじゃいますよ!」
「残念、良いとこ行ってたと思うんだがな。それにしても、ESPの力だけで次元位相をずらすというやり方、俺にも教えてくれないか?師匠と会った時、自慢したい」
面白いことになった。
教師と生徒役が、逆になった日々が、その後、続けられる。
半月も続かなかったとは、言いたくないが、自分がこの技術を身につける年月を考えた時に落ち込みそうになったロックフォール司祭だった