エスパーたちの銀河 6
おかしな日常がはじまる。
エスパーとは言え、病気や怪我はしますから、これは(笑)
ロックフォール調査官の格好が、いつもと違う。
ロックフォール司祭として今日はゴウ枢機卿のお供だ。
「ゴウ枢機卿、お聞きしたいことが。この大教会のある街は大都市と言っても良いくらいの規模なのにスラムも無ければ孤児や薄汚れた住人たちも全く見ませんね。どうやったんですか?」
久々に大神殿の外へ出たロックフォール司祭(調査官であることも忘れてない)は、この大都市が活気あふれる街なのが気になる。
ここは本来、銀河辺境部でも縁にある星系。
夜ともなれば夜空の半分は真っ暗に近い(半分は銀河中央部を向いた形になるので、こちらは明るい)ものとなり、通常はよほど貴重な鉱石や資源がない限り、こんなド辺境に人口が集中するわけもなし。
「ああ、それは簡単なこと。将来、ガルガンチュアが、この銀河に到来したときに、この星系の近くに逗留してもらうつもりだからだよ。銀河辺境が発展していれば、中央部との情報連絡や物資のやりとりも楽になるってことで、銀河連邦政府とは別に、我々ガルガンチュア教で辺境部を開拓、発展させてるわけだ」
さらっと重要なことを言う、ゴウ枢機卿。
「辺境部に連邦の予算が投入されてないというのは僕も聞いたことがあります。それでも中央部が様々なテロや内乱で大変なことになってるのに、辺境部のほうが実質的に安定して発展しているのが不思議だと、政府内部でも不思議だったんですが……そうですか、ようやく謎が解けました。でも、宗教組織が、なぜこんな大規模開拓や都市化するような大事業を成し遂げるんです?予算は……ああ、それで教育機械なんですね」
ロックフォール司祭が自分で納得しかけたところ、ゴウ枢機卿が答えを。
「そう、今の現状では、最先端のテクノロジーや知識は、こちら辺境部にあると言っても良いだろう。だから、政府に頼らずとも自分たちで計画して都市も作るし惑星開拓もする。ちなみに教会が金を作り出しているのは事実だが、何も違法なことはしてないぞ。主として、こちらから輸出しているのは、薬だな……おっと!違法な薬じゃない。君もお世話になったことがあるかと思うが、そこいらのドラッグストアで売られている、名称が「万能薬」って薬、知ってるか?」
ロックフォール司祭は、ああ、と思い出したように、
「万能薬ですね、あれは凄いです。重病以外のものなら、どんな傷や病気でも投薬だけで治ってしまうというは凄い効能です。ここで作られていたんですか」
「まあ、こっちの地元で売られている物と比べると、遠くまで輸出する分、効能が落ちるのが欠点だな。ちなみに、同じ名称で、こちらでも万能薬が売られているが、こちらでは死人以外は生き返らせる薬として通ってるぞ」
ロックフォール司祭は呆れる。
「違法な成分は入ってないんですよね。合法薬で、そこまでの効能って信じられないんですが」
「まあ、君らの文明レベルでは、もう少し経たないと実現しそうもないテクノロジーは入ってるが。教育機械で覚えたろ?ナノマシン技術だ。万能薬とは言うが、実質的には様々な自然由来成分に、ナノマシンを振りかけてるわけだ。ナノマシンの寿命って命題があるために、地元で売ってる万能薬と、同じものだけど中央のドラッグストアで売ってる万能薬の効き目が違うんだ」
ああ、実質的にナノマシンの含有量が違うんですねと、ロックフォール司祭は納得する。
「他にも、家庭用の万能調理器とか、個人用の超小型防護フィールド発生装置とか。中央の大企業で作られていると皆さん思ってるようだが、ところがどっこい。ガワ以外は辺境部で大量生産されてるのさ。ちなみに、あっちこっちの企業ロゴつけて売られてるけど、元々が同じものなんで部品は共通化されてるぞ……デザインが全く違っているんで、同じものだとは思えないんだろうが。以前、中央で売られてる商品比較テストを主とした雑誌を手に入れて読ませてもらったが……いや爆笑したね。同じものでガワだけ違うだけってことが理解されてないんで、どの企業も研究開発でしのぎを削っているのだろうか、ほとんど同性能だと書いてあったよ」
「あははは……内部事情を知ってる人が読む雑誌じゃないと知ってますよね、ゴウ枢機卿……宗教家なのに、なんで世の中のことに、こんな詳しいのやら」
本人から、その答えが。
「師匠からの教えだよ。下々のことを知らなければ、国や政府、宇宙のトラブルなど解決できるものか!ってね」
心からの笑顔が、誰かへの嫌味とは思わないロックフォール司祭だった。