大マゼラン雲 風雲記 その2
宗教的なお話しになると、神の使徒と言いながらも神の愛を無視して自分勝手な正義を押し付けてるバカ野郎ども(中東・アフリカで勢力を増してるバカ組織です)を思い出してしまいますが。
一神教だと歯止めが無くなるのかね?
多神教でもバカやってた例は歴史にいくらでも記述がありますが、一神教での虐殺と迫害は、多神教のそれとは段違いですね。
前話の街よりも、少し都会化されたような街。
そこに、一人の男がやって来た。
男の風体は、何の変哲もない市民と思える。
しかし、その背丈は2m近くにもなり、その纏う雰囲気は、その消えない笑顔とは裏腹に、人とは思えないものを感じさせた。
男は、街にある「教会」を一直線に目指して歩いていた。
強い風が吹くとも、男の歩調は決して乱れず、ある種の格闘技でもやっているかのような着実な一歩々々、しかし、その歩行速度は速く、目の錯覚かと思わせるようなスピードでもあった。
教会の前にたどり着く男。
そして、決して大きくはないが、異様に通る声で語りかける。
「通行中の皆さん、この「教会」には悪人しかおりません。どうか、教会の悪事を暴くために、私に被害程度を教えて下さい」
ぎょっ?!
とする通行人達。
「教会」が悪の巣窟であることは薄々理解しているが、この男のように、悪事を教えてくれ、などと、教会の出入口の前でおおっぴらに聞く人物など、今までにいなかったからだ。
男の、得体の知れない行動に警戒した通行人達は、蜘蛛の子を散らすように通りからいなくなる。
代わって、何事かい?
と、教会・その隣の教会関係団体の事務所からも、ぞろぞろと、見るからに阿呆面して暴力しかコミュニケーションは知りませんという奴らが出てくる。
「おっ?!そこのお兄さん、いい度胸と根性してるね、ああ?教会の目の前で、なんつー事を言い始めるんだよ?!」
と言いつつ、バックハンドで裏拳を男の顔面に叩きつける!
バキッ!
と、見事な音がして……
飛び上がって痛がっているのは、裏拳を叩きつけた暴力の専門家らしき男のほうだった。
「いでーよー、兄貴〜い、いでーよー。折れたかも知れね〜……」
あまりの痛みに気絶することすら出来ず、鼻水と涙と、漏らしてしまったか小便まで垂れ流しながら悶絶寸前まで行っているチンピラ。
兄貴分とおぼしき男、ようやく登場。
「お兄さん、殴ったほうが骨が折れるなんて器用な事、普通の人間なら無理ですな。さぞかし名のある格闘家、あるいは裏の仕事のプロですか?ここは、ワシラの顔を立てて、引き下がってくれません?」
と言いつつ、袖の下らしき通貨(紙幣だ)の束を渡してくる。
それに対し、たった一人で対応している男は、この暴力集団に向かって、未だに一言も発していない。
さっき語りかけていたのは群衆であり、この男には、街のダニやネズミに対して語る言葉は持たないようだ。
と、思いきや……
「お前たち悪の巣窟にいる人間に対し、最後の一言だけ忠告と宣言を今から行う。即刻!今すぐに「教会」とは縁を切れ!暴力や薄汚い小細工に頼らず、額に汗して働け!真っ当に太陽の下を歩ける人間になれ!そうしなければ、今すぐにでも、真なる神の罰が下るぞ」
と、長い台詞を叫んだかと思うと、片手を上げる。
そして、
「神の名を汚した愚か者共よ!神の罰を受けるが良い!」
と男が朗々たる声で叫ぶと、その瞬間、暴力沙汰に慣れているであろう男たちの目前に、得体の知れぬ映像が浮かぶ。
なんだろう?
と思った直後、体中に激しい痛みが走り、片手を上げた男以外、その場に立っているものはいなくなる。
遠巻きに、この騒ぎを隠れて見ていた群衆は、反応が2つに分かれる。
大喝采、よくやった!
と喜ぶ人々と、何が起こったのか分からずに理解不能に陥っている人々。
ともかく、男は暴力のたぐいを一切、振るっていない。
ただ、片手を上げて宣言しただけ。
奇跡?
それともマジック?
ただ一つ分かるのは、これで、この街から「教会」の影響が、金輪際綺麗さっぱり消えたという事だけだ。
ちなみに、おっとり刀で駆けつけてきた街の警察機構も、群衆の証言で、男は倒れている者達に一切の手出しをしていないことは確認している。
それどころか、警察機構の中にも、同時刻に悲鳴を上げて倒れてしまった者達がいた事で「教会」と警察機構の一部の癒着が証明されてしまったのである。
男には罪は無かったが、得体の知れない事件の重要参考人として、事情を聞かれることとなった。
以下、その事情聴取のやりとりの一部である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「名前は?」
「プロフェッサーと呼んで欲しい。正式な名前は、発音不可能だろう」
「じゃあ、とりあえず、プロフェッサーさん。教会へは何をしに?」
「聞くまでもないでしょう、悪の巣窟へ、神の罰が下るぞと最終通告に行っただけです」
「神の罰が下る?あんた、ああなることを予想してたってのかい?」
「私がやったことではない。しかし、ああなることは分かっていた」
「その、神様かい?神様が罰を下したって?」
「言うまでもない、真実だ」
「話が分からないんだが。あんたがやらせたことじゃないんだね?マジックか何かで、タネを仕込んで、あんな大量虐殺を」
「ん?殺してはいないぞ。数日間、麻痺状態にあって身体を動かすことが出来ないだけで、その後は自由に動けるようになる。神は、人と違い、殺すことを喜ばれない」
「ああ?!麻痺してるだけだって?!おい、上長に知らせてこい!死人は出てないそうだ」
「後は、何か質問は?」
「ああ、殺人でなきゃ、あんたを長時間引き止められないからな。あと1つだけ、これからどうなるんだ?」
「ああ、それは簡単に答えられる。このマゼ……この宇宙から「教会」の勢力を全て殲滅するのが神の計画であり、もう決定した予定である」
「この宇宙から!でっかい計画だね、さっすが神様。あんたの出番もあるのかい?」
「神のご意思次第ですな、それは。しかし、死人が出ないことは保証しますよ、警官殿」
と言って、男はドアを開けて出て行った。
ここまでが公式記録として残っている。
しかし、公式記録では記されていない事が1つだけあった。
部屋を出た男の姿は目撃されているが、警察機構を出た姿は、誰も見ていないのである。
裏口も正面口も、見張りの者がいたにも関わらず、誰も出て行く男の姿を見ていないのだ。
あれだけの背丈の大男、見間違えるはずもない……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「プロフェッサー、ご苦労さん。手が足りないんで応援してもらったが、なかなかの役者だね」
俺は、フロンティアに戻ってきたプロフェッサーをねぎらう。
「もう、これで勘弁して下さい、我が主。やはり私は、スターマップの更正作業のほうが性に合ってますって。次は頼まれても、やりませんからね」
「すまんすまん、しかし助かったよ、プロフェッサー。エッタもライムも別任務で同じような事をしてもらってたからね。今回だけは物理的な手が足りなかっただけだ」
「で?我が主の計画としては、順調に進んでおるのですか?」
「ああ、辺境星系の「教会」拠点は、ほとんど制圧できたと思う。次からは、包囲の網を絞っていく段階だな」
「疑問があるのですが、我が主」
「おや、何だい?プロフェッサー」
「こんな、ちまちまして時間と労力ばかりかかる計画じゃなくて、中枢部を急襲してやればよかったのでは?」
「ああ、それも考えた。でもな、それをやって、もし万が一、幹部や中枢部の者が逃走した場合、シラミつぶしで探しまくることになるだろ。それが嫌だから、辺境から、ゆっくりと網を絞っていって、奴らが気付いた時には逃げられる隙間すら無いように着実にな」
「そうでしたか。確かに、逃げ場すら無いように追い込むなら、ソッチのほうが確実かと。しかし、我が主を敵に回すと、これほど理詰めで追い込まれることになるんですね。恐ろしい……」
「俺もね、出来れば、こんなハメ手は使いたくないよ。しかし、今度ばかりは俺も鬼になる。悪しき宗教は宇宙にはびこるガン細胞だからな」
ちなみに、プロフェッサーは警察機構から普通に帰ってきた。
屋上に行って、そこに降りてきた搭載艇に乗って帰ってきたのだが、完全ステルスの搭載艇だったがために、あたかもプロフェッサーが警察機構の建物内部から消えたように見えるだけだ。




