銀河最終戦争 その四
本編へ行く前に、ちょっとしたガルガンチュアの秘密が匂わされます(ちょっとどころじゃないけど)
お互いがお互いを殲滅し尽くした死の銀河。
最終戦争の成れの果ては、こういうもの……
という最悪の状況の化石のような銀河へ、その巨大な宇宙船は近づいていた。
「しかし、我が主。選りにも選ってですね、近隣銀河の生命体全てから、死神が支配している銀河だから行かないほうが良いと忠告された銀河ですよ。まあ、1万年を越す過去の話ですから信憑性は薄くなっているのでしょうが、あえて火中の栗を拾うような行動に出なくとも、トラブルを抱えながら必死に頑張ってる生命体の棲む銀河は、まだまだあるんですよ。無人となって長い歴史を過ごす銀河に、何の用があるんですか?」
「まあ、そうは言うがな、プロフェッサー。無人になって長いとはいうものの、それまでは活発な生命体や文明があったんだ。生き残りが少しでもいるなら助けてやりたいし、遺伝子バンクが残されていれば活用して生命体を復活させることもできる。ともかく、俺達が出来ることは何かあるはずなんだ。そこに救える命があるのなら、広い銀河にただ一つだったとしても救ってやりたいんだよ」
「救う、助けるで数万年ですか……我が主は、とことんお人好しと言うか何と言うか……考え方が、もう管理者とか神のレベルになってませんか?」
「別に俺自身、何も変わってないと思うけどなぁ……自分にできる範囲の命しか救えないし、目前の銀河だって、一万年ちょっと早く来たら救えた命も多かったとは思うけどな……でも、管理者や神になりたいとは思わないぞ。彼らは彼らの次元で様々な仕事をし、救える文明や世界、宇宙の可能性なんかを修正してるんだろうが、俺は目の前の救える命を救いたいだけなんだ。自分を管理者の次元にまで高めたいとは思わんよ」
「面白いですよね、マスターは。ここまで宇宙の管理者に近いようなことを成し遂げてきて、それでも管理者にはなりたくないと言う。ちなみに、いくら不老になってても、その肉体は、いつか滅びますよ。相対的に不死に近いはずですが、完全な不死じゃありませんから、この宇宙船のクルーは、アンドロイドやロボットクルーを除けば、最長でも100万年の寿命はありません。マスターが望むなら、私の予備ボディに意識構造を移し替えるのは可能ですが、それで出来上がった存在がマスターそのものだと言う結果にはならないと思われます」
「ほぅ……面白い意見だな、フロンティア。俺が意識を完全コピーしたロボットボディを造った場合、それは俺だと認識しないと?」
「はい、肯定します、マスター。その理由ですが、コピーしたものがチューリングテストでマスターと寸分に狂いがないと判断されても、そのボディにはテレパシーやサイコキネシスの能力がないと推察されます。加えて、恐らくですが、マスター特有の第六感や閃きのような直感力も持たないだろうと。私、ガレリアも含め、ガルガンチュアを構成する全てが、そのコピーボディを拒否するでしょうね」
「フロンティア、お前、えらく人間的になってきたな。そんなアナログ思考を許容できたっけ?」
「いえ、マスター。アナログ思考ではありません。あなたという存在と、数万年に渡って付き合い続けてきた結果です。マスターという存在は、何にも代えがたい。これは私だけでなく、ガルガンチュア構成の4隻全てが認めるでしょう。恐らくですが、シリコン生命体すら、マスターに代わってガルガンチュアを運用できうるとは思えません。あなたという存在は、真の意味でガルガンチュアに欠かせないものとなっています」
「そんなものかねぇ……俺がトラブル解決に失敗して不幸にも亡くなった場合、例えば郷が次のマスターになると思ったんだがな」
「いや、郷では主の代わりにはなり得ないと私も思うぞ」
え?
今のはガレリアか。
「例えば、主砲の使用禁止命令にしてもだ。主の思う主砲の禁止と、郷の思う主砲の禁止では、恐らくだが深いところで違いがあるだろう。私は、長いガルガンチュアの運用には、その奥深い違いが先々に明確な命令の違いとなるように思われる」
「ガレリアとの付き合いも長いからな。銀河団を渡る直前か、ガルガンチュアになったのは。まあ、郷と俺の思考が根深いところで違うってのは理解できるな。俺は本当に怒りが突き上げてこない限り、力づくで物事を解決しようとは思わないが、郷は少し違う」
「えー?師匠が力づくの解決に消極的?そう言われれば、そんな気もするけれど……でも、結構な回数、力づくで解決してますよね」
「いや、郷よ。このガルガンチュアの実力を真に理解すれば、全てのトラブルを力づくで解決するなど朝飯前のことだと分かるだろう。主は本当の意味でガルガンチュアを構成する全ての宇宙船を理解している。通常はマスター権限を持つものだけが許される情報開示を、主だけが許されている。郷も様々な情報を持っているのだろうが、その情報は、まだまだ主と比べると浅いものだ。銀河団探査船を四隻合体させて、さらに超銀河団すら渡航する力を持つ宇宙船などというものが、どう考えても一つの星の神とやらより大きな力を持つと思わないか?」
郷は、その意味を少しだけ理解し、冷や汗を流す。
「ガレリア、それは下手をすると、この宇宙船ガルガンチュアが神にも悪魔にもなり得るという……」
「最悪の結果で言うと、そうだ。主は、ガルガンチュアとなった現在も、この極秘情報だけは誰にも明かしていない。これを明かすということは、この宇宙を破壊するかも知れない可能性に希求するからな」
「ガレリア、そこまで。それ以上は言うな。マスター権限として、情報開示のリミットまでは良いが、それ以上の極秘事項の存在は話すことも禁ずる。これはだな、マスター権限を持つものだけが見ることも所持することも、そして、その恐ろしさを克服することも、自分だけでやらなければいけない。郷、マスター権限というものは、それほど重いんだよ。郷が持つマスター権限は、郷専用の搭載艇母艦のみ。これも重いぞ、実はな。興味があれば、搭載艇母艦のマスターコンピュータに聞けば良い。その情報の重さに耐えられるのなら、いつかガルガンチュアのマスター権限を譲る可能性もあるかも知れんよ」
「分かりました、師匠。一度、搭載艇母艦のマスターコンピュータに聞いてみます……俺に、その資格があるかどうか、か……」
段々と近づく無人の銀河。
郷には、それにも増して、慣れているはずのガルガンチュアに、絶対の秘密情報が隠されているという事実があるのに気づいた自分が、気づかぬうちに冷や汗を流していることにいまさら気づく。
「ガルガンチュアは、惑星と一緒か。どこまで探っても届かぬ秘密が隠されているというのは、ロマンでもあるが……恐ろしくもあるな」




