銀河のプロムナード クスミという名の男 1
新しいお話の前に、超銀河団も違う、もう一人の楠見の後日談を。
太二くんじゃなくて、楠見と同じ人間(染色体レベル、細胞レベルで同一。双子どころじゃない同一です)
で、楠見から渡されたアレを所持してます。
さあ、あのガジェットの活躍が見られるかな?(笑)
「おうおうおう!何をトチ狂ったのか知らねーが、ここに飛び出てきたってことは命もいらねーってことだよな……野郎ども、その女ともども、この不細工なコスチュームマニアも、やっちまえ!」
この状況、説明せねばなるまい。
ここは、とある未開星の一つ、多数ある国家の大きめの都市にある、うらぶれたビルの1フロアを占領した、違法なカジノバー……というより、違法カジノそのもの。
店名はバーやスナックを装っているが、そのフロアにある店全てが違法カジノの一部。
冒頭の状況より、約半日前。
ここは各国より選ばれたエリート刑事や武装警官たちが集う、国際刑事機構と呼ばれる国家をまたいだ警察・検事・判事らの超国家的集団である。
ここの理念は一つ。
「許すまじ 犯罪者」
であり、国をまたいだ犯罪者の追跡や逮捕、そして超国家的な即席裁判と判決・懲罰まで行う。
その中には当然、弁護士も構成員として含まれるが、扱う犯罪の種類が種類だけに、もう犯人の基本的人権とか言ってられない事例が多すぎる。
国際的テロ組織の中心メンバーやら、大量殺人事件の指名手配犯やら、うじゃうじゃと「生死問わずに検挙」のポスターやファイルが、あっちにもこっちにも。
「よーし、みんな揃ったな。明日の違法カジノ摘発、打ち合わせをやるぞ。ちなみに情報屋には明後日と手入れの日付を遅らせ情報を漏洩しているので、これが相手に知られることはない」
部長が、やけに上機嫌で言う。
色々と噂がある部長なんで、当然だが、この情報も漏れてるんだろうなと、摘発部隊の各メンバーは覚悟することとなる。
「部長の奥さんの多額の借金、チャラになったんだってさ」
「あー、それでカジノ摘発なんて、自分からは決してやらないはずの事案を自ら提案したわけか。これで恩を売って、その代わりに自分の家族の借金を肩代わりさせようってか。さすがに泥豚と呼ばれる部長だけのことはあるわな……上は、そのこと知ってるのか?」
「長官以下、すでにご存知らしいぞ。情報は筒抜けだという状況で、戦争も覚悟でやれだとさ……そのために秘密兵器が投入されるって聞くぞ」
「秘密兵器?重火器は勘弁してくれよ。市街戦になっちまう」
「いや、その秘密兵器ってのは……なんと人間らしいぞ」
「おいおい、戦場になるかも知れないってところに一般人かよ。犠牲者が増えるだけだろうが」
「いや、そうでもないって聞いたが。あ、作戦の詳細説明だ、聞いとけ、とりあえずでも」
部長以外、今夜が決行日だと知っている。
ダブルスパイを気取る部長ではあるが、それが誰でも知っている秘密であることは、部長しか知らない。
部長は、いわゆる世間の「スピーカーおばさん」役だ。
そのため、部長から漏れた情報は仕方がない、公表しろということに(表向き)なっている。
部長が立ち会う打ち合わせは、これだけ。
後の詳細事項について部長は感知していない。
自分が現場へ行く気もないし、現場の声を取り上げる気もない部長だが、犯罪者の裏をかくにはもってこいの人物だけに辞職もしないで肩書と給与にしがみつくことを許容されている。
「うっす。自分が、今回手入れに同行する、クスミと言います。昔の名前から改名したんですが、今はクスミが本名となってますんで、クスミと呼んでください」
自己紹介された面々は、そのあまりの若さに驚く。
「どうも、このガサ入れで責任者を務める、オラン111と言う。数字の入ってない名前を聞くのは初めてなんだが、君は前職が特別だったのかね?」
興味深げに聞く、捜査主任。
この星で、数字の入ってない名前に改名するというのは、よほどの成果を上げるか重職を務めた人物くらいしか許されないからだ。
「あ、はい。昔は宇宙パイロットやってました。初期の跳躍航法船のテストパイロットやってましたが、とある事情で宇宙軍を辞めざるを得ない事態になってしまいまして……次の職場として、国際刑事機構を選んだというわけです」
「ほう、あそこは生まれてすぐに揺り籠の代わりに重力鍛錬装置に放り込まれるって噂だが、あそこからの卒業生、それも命がけの跳躍航法船テストパイロット……とんでもない逸材が世間にいたということか」
国際刑事機構に入るには過酷な訓練を受けて全てに合格する必要があるが、宇宙軍、それも宇宙船のテストパイロットともなると、まさに生きるか死ぬかの訓練やら経験を積んできているはず……この若さで……
クスミと言う名の新人は、さっそく打ち合わせに入れという捜査官たちの声に、嬉しそうに答えながらも、その輪の中に入っていくのだった。




