銀河パトロール レンジャー部隊J99 その九 最終話
ちょいと長過ぎたかな?
とは思いましたが終了です。
ここは、異世界……というか、多元宇宙理論で言われる、もう一つの宇宙。
多元宇宙理論では、無数にあると言われる「もしも、あのとき、ああだったら」が違ったがゆえに世界が分かれたという、この宇宙と隣接する宇宙。
この異宇宙には、原則としてガルガンチュアは存在しない。
しかし、今現在、異宇宙にガルガンチュアは存在する。
「ミスタークスミ、ここが我々の宇宙です。あなた方の宇宙とは良く似ているが、少しだけ違う宇宙だと言えるでしょう。住む生命体も同じような種族だし銀河の形も同じようなもの……一つだけ違うとすれば、あなたがたの宇宙には存在するガルガンチュア。この存在が、こちらの宇宙には無いのでしょうね。神話のモデルとしても我々の探査船が調査した無数の星系でも、このような超のつく宇宙船や、それを操る存在は記されておりません」
元・帝国軍情報局長であった青年は、そう断言する。
おせっかいにも自分の銀河や種族とはなんの関係もない銀河、銀河団、超銀河団、それどころか宇宙を異にする銀河に至るまでトラブル解決をしてやろうという存在など今まで聞いたことも見たこともない。
向こうの宇宙にいた時、迎えに来ると言うから病室で待っていたら、来たのは直径500mの球形船。
でっかいなと思っていたら、それに乗って到着したのは、とてもじゃないが表現することさえ難しいだろうと言う形状の宇宙船。
惑星規模の直径1万km超えの主となる球形宇宙船に、直径5000kmから6000kmクラスの衛星規模クラスの巨大船が三隻も、これも巨大な円筒で繋がっている。
最初は自分の目がおかしいのかと思った。
ずいぶん遠くにあるはずの宇宙船が、それでも巨大に見えるのは目の錯覚だろうと思った……
そうではないと知ったのは、距離が数十万kmにまで近づいた時。
今乗っている、直径500m船が、無数にある搭載艇の一つに過ぎないと言われて、そんなバカなと反論したら、メインスクリーンを見ろと。
これは加工された映像かと聞くと、リアルタイムで船外カメラの映像を映し出しているだけだと、こともなげ。
で、現在の状況。
元の異宇宙に戻ってきたので、この巨大宇宙船に対して攻撃陣を敷いているバカたちに忠告するのが、真っ先にやったこと。
「私は元帝国軍の情報部局長だ。将軍たち、特に指揮艦に座しているだろう帝国皇帝に申し上げる!この船、ガルガンチュアは平和目的で向こうの宇宙から来たが、この船を鹵獲するとか攻撃するとかの行動は控えていただきたい!この船とマスターであるクスミ氏は、この宇宙を平和に、安全にするという意図で来てくれたのだ。この銀河が抱えている問題、トラブルを解決できる力を備えている存在に対し、不敬極まる攻撃陣は、今すぐ解いてくれ!」
それに対して数10分後に返信がある。
「こちら、皇帝座乗艦である艦隊指揮艦ロマである。巨大艦に我々の元士官が乗っていると思われるが、それなら、そちらの実力を見せてほしい。この銀河は実力主義なのだ」
あちゃー、やっちまったという顔を見せる青年。
クスミのほうを見て、うなずくのを確認すると、
「指揮艦ロマに告げる。そちらの艦隊から離れている大きな浮遊岩石のデブリが見えるか?一分後、こちらの主砲により、あれに見える巨大デブリを破壊する。それで実力の一つだと確認してくれ。ちなみに、こちらの主砲は一つだけじゃない。船の数だけ主砲があるので……そういうことだと思ってくれ」
一分後、ガルガンチュアの中のガレリアより、主砲が発射される。
プロミネンス砲があたった瞬間、その巨大デブリは消え失せてしまった。
あれがこちらに向けられていた場合……
そう思っただけで、皇帝以下、全ての帝国軍の攻撃意思が消える。
数時間後、ガルガンチュア船内にて、帝国皇帝とクスミの会談が開かれる。
ガルガンチュア規模の宇宙船を着陸させるような宇宙港など存在しないのと、早急にトラブル解決に動かないと間に合わないとクスミが判断したからだ。
「超巨大船ガルガンチュアのマスター、クスミ殿。私は、この銀河帝国の皇帝、フェム三世だ。こちらの宇宙に来たのは、この宇宙が抱えるトラブルを解消してくれる目的であると。本当なら、ぜひとも我らの銀河を救ってほしい」
皇帝は精一杯の威厳で申し立てる。
プロミネンス砲の威力が目に焼き付いているため、ガルガンチュアが本気になったら、この銀河そのものがガルガンチュアにより消滅させられても不思議ではないと身にしみているからだ。
「本当ですよ、皇帝陛下。とは言うものの、詳細が分からないと解決方法まで時間がかかりますので。できれば、この会談でトラブル解決の大元を決めてしまいたいんですが」
ということで、ここからは本音の会談となる。
将官以上には、この問題は周知の事実だったため、資料を持ってきている者が居たのが助かった。
「ふむ……マスター、これは銀河の部分衝突ですね。向こうの銀河とこちらの銀河、およそ双方の三割ほどが影響を被ることになるようです」
「うわ!三割か。酷いな、それは。皇帝陛下、早速ですが、この天変地異とも言える銀河衝突を回避する計画を提示します。なーに、こちらは過去に一度、これに似た状況のトラブルを回避していますんで」
これには皇帝も驚愕!
「ク、クスミ殿!似た現象を解決済み?!銀河の衝突など回避できるのかね?!」
それに答える、当然だろう、という表情のクスミ。
「はい、その時には、衝突は15%ほどでしたので割合にしては小さいものでしたが。ただし、予知能力者も使いましたので解決は早かったんですけどね。今回は予知能力者がいませんから、そちらの最高のコンピュータ達と、こちらのメインコンピュータを接続して衝突する可能性の高い星系を、そのまま衝突軌道から移します」
軽く言っているが、皇帝には衝突軌道から移すという意味が理解できない。
「言葉のとおりです。星系ごと特殊なフィールドで包み込んで、銀河内を移動させるんですよ」
さあ、そこからが、てんやわんやの大騒動!
今回は過去の銀河衝突回避計画と違い、銀河の巫女姫、強力な予知能力者は存在しないので、帝国の高性能計算機たちとガルガンチュアの計算能力が頼りとなる。
「宇宙船の工厰では直径500m艦の量産を行って欲しいのです。設計データはお渡ししますので、その船に別データでお渡しする特殊フィールドバリア発生装置を据え付けてもらいたい。この組み合わせの宇宙船を量産しないと、とてもじゃないが数百年しか余裕のない銀河衝突現象から星系を救うなど、夢のまた夢となりますよ!」
帝国だけでは、とてもじゃないが間に合わないので、衝突する相手の銀河にも搭載艇を送り、向こうでも同じように球形船と特殊フィールド発生装置を量産させ、向こうの銀河でも退避計画を実行させるようにする。
最初の十年間は何も計画が進まなかったが、次の十年で1%の退避計画が実行される。
実績ができれば後は簡単。
球形船の集団を避難予定星系に送り、特殊フィールドで包み込んで、避難するポイントへ移動。
そこでフィールドを切って、星系の動きが安定するまで調整し、安定したら完了、次の星系へ。
これを繰り返すだけだが、なにしろ向こうもこっちも銀河に属する星系の三割にも届く範囲をカバーしなければならない。
向こうにも銀河統合軍があったのが幸いして、こちらの銀河帝国軍と同じ効率で作業は進んでいった。
作業中にも、じわりじわりと両銀河は衝突コースへ進んでいく。
「なあ、クスミ殿。この計画、成功すると思うか?それでなくとも、計画が遅れ気味なんだが?」
そう、何事であっても反対派は存在する。
特に、このような特殊……宇宙全体では、ありふれた現象ではあるんだが……状況の場合、衝突コースに入っていたとしても、その衝突確率は低いものとなりがち。
ただし、銀河全体で見た場合、その瞬間には衝突しなくとも、相手の星系と重力で引き合うほどの距離に近づいた場合には、将来どうなるかの予測が難しい(以前のケースの場合、予知能力で、その後の予測も立てやすかったが今回は予知能力が使えないため、非常に判断が難しい事態になっている)ので、当事者として衝突確率が低いというのなら、このままのポイントに残りたいと思うのは当然の意見。
それを、安全と安心を最大限に考慮して星系ごと移動するという、向こうとこっちの銀河統合政府と銀河帝国政府に逆らう意見は出てきて当然となり、その説得と相談に時間がかかるのだ。
「ああ、クスミ殿が、せっかく渡してくれた超科学装備なんだが、これが最大限に使用できないというのが哀しいと言うか、情けないと言うか……最初は、我も、これで銀河の生命体たちは全て救えると思ったんだがなぁ……大規模救援に反対するものが出るなど想像外のことだ、それも救われる当事者の方からなんて!」
皇帝は愚痴る。
愚痴りたくもなるだろう、せっかく万難を排して救援部隊を当該星系に送ったら、
「俺達は、見知らぬ銀河ポイントになど移送されたくありません。お帰りください」
などと言われて計画が止まってしまうなど誰が想像しただろうか?
いや、あのね。
銀河中心にある巨大計算機群と、ガルガンチュアって超科学の宇宙船で計算したら、この星系が非常に高い確率で衝突するって結果が出たのよ。
だから、移送計画に賛成して!
移送中には時間経過が停止してるから、厄介なことは起きないんですよ。
など、移送部隊の責任者は必死に説得しようとするが……
「どうせ衝突ったって数百年後の話でしょ?じゃあ、後百年くらい話し合う時間をくださいな。それで民衆をまとめますわ」
などと言われる始末。
こんなことが、あっちでもこっちでも起き始めている。
この反対派をなだめすかし、移送計画に賛成して目的ポイントへ移送し、そして時間をかけて星系の軌道を安定させる……ただでさえ厄介な、時間のかかる巨大計画なのに、星系住民の説得などという事項まで増えてしまい、向こうの銀河も、こちらの銀河も大弱り。
「なあ、クスミ殿。いっそ、ガルガンチュア本体で、反対派の星系を力づくで移送できないものだろうか?」
と、皇帝から聞かれた時、
「それは、簡単にできます……しかし、それをやったが最後、反対派がテロ事件や星系脱出しての居残りなどの手に出ないという可能性が排除できなくなりますよ。ガルガンチュアは巨大すぎるんで、こいつを動かした場合、その手から逃げようするものを拾いきれないんです」
クスミは、そう答えたという。
ただし、と付け加えて、
「最終手段として、星系住民全てを最初にパラライザーやスタンナーで気絶させてから移送するって荒業が出来るとは思います……後が怖いので、俺は使おうと思いませんが」
それを聞いた皇帝。
自分がやられた場合を想像して、寒気がしたと言う。
パラライザーやスタンナーなど通常の警察組織が使う暴徒鎮圧用の非殺傷武器。
それが、ガルガンチュアで使用する場合には、星系全てがエリアとなる……
「そうか……神の如き力とは、それを使うにも慎重に慎重を重ねなければならぬということか……我ら、銀河に住む小さな生命体ごときには想像もできないレベルの力だな。うむ、分かった。我々は我々の、できる限りの力で、この計画を推し進めよう。全力でやって、それでも達成できない場合のみガルガンチュアに頼るとしようではないか!」
皇帝の顔色はもとに戻り、晴れ晴れとしていた。
か弱い生命体の全エネルギーをもって神の計画とも言える、この大計画を推進させるのだ。
成功するかしないか、そんなことは神のみぞ知る。
銀河衝突の始まる数十年と少し前に、ようやく避難計画は完了した。
両方の銀河で避難計画を検討し、相手が移送した星系にぶつかる予定だった星系は残し、こちらで移送した星系にぶつかる予定だった向こうの星系も残すという省エネ計画に切り替えてからは、かなり順調に避難計画が進んだというのもあるだろうが、最終的には、向こうとこちらで大々的に展開した避難計画の立案者たるガルガンチュアの画像とスペックの公開事業が大きな反響を得たことだろう。
こんな大計画、立案するのも計算するのも、半端な生命体ごときじゃ無理なんだ!
これを見ろ!
銀河どころか、銀河団、超銀河団、そして、こちらとは違う多元宇宙をも超えてやってきた、もはや神と呼ぶにふさわしい超巨大宇宙船と、そのクルー達。
彼らが、この避難計画の立案者で、向こうの宇宙では実際に銀河衝突から救っているという実績があるのだ!
という大々的なキャンペーンが展開され、ガルガンチュアの画像と、クスミ以下のクルーたちの画像も公開される。
一種、外宇宙から来た神の使いのように扱われ、多数の星系では、その画像は神と同一視されることとなる。
「やめてほしいんだがなぁ……背中が痒くなるんだよ、そういうのは」
クスミは、やんわりと言ったが、皇帝も、向こうの統合政府主席も考えは一緒。
「我慢してください。あなたとガルガンチュアを御旗や神輿にしないと計画が進まないんですから」
と言われて、クスミは何も発言できない。
全てが終わり、他の宇宙から、こちらの宇宙へ帰ってきたのが1000年後。
さすがに長過ぎたか……
こちらの世界での宇宙海賊組織は、どうなったとクスミが郷(副司令)にテレパシーで確認すると……
〈長い間のトラブル解消作業、お疲れ様でした。海賊の跳梁は、ガルガンチュアが多元宇宙へ消えてからすぐに停止し、今では銀河パトロールの下部組織に組み込まれてます。主に輸送関係の仕事を担当してもらってますね。大小、各種の船があるんで輸送する貨物の種類に合わせて使いやすくて良いです。球形艦は仕様が統一されてる分、星系ごとの貨物まで統一しなきゃならないんで大変ですよ〉
まあ、なんにしても良かった良かったと一安心のクスミ。
郷と相談して、全ての引き継ぎをJ99隊に任せることとする。
「え?ご先祖が活躍したからって今の隊長の私は20代目ですよ?確かにRENZは受け継いでますが、ご先祖と違って私には天才的な軍事能力などありません。今のJ99隊は現場とは程遠い、事務処理専門部隊ですよ?」
と、ご指名受けた当人は意外な事態に空いた口が塞がらない。
「まあ、大丈夫。これから数十年後には多元宇宙の別世界からの訪問者たちも多数やってくることになってるんで、よろしく!この銀河は異世界貿易の中心地となるだろう!」
「え?異世界?なんですか、それ。はあ、このチップに詳しいことは全て入れてあるんで読めと……分かりました!拝命します!」
と、今回も丸投げでガルガンチュアはお隣の銀河へ。
ちなみに、今回の問題だった異世界(多元宇宙)へ行った方法って?
説明しよう。
宇宙の綻び(宇宙空間構造の破れ目)が、今回は多元宇宙の隣接世界と結びついていた。
一定の角度とエネルギーがあれば、その境界はいとも簡単に越えられることが向こうの宇宙で発見され、最初は向こうの宇宙からの訪問者達(侵略目的)のみの使用しかできなかった。
ガルガンチュアが案内役によって越えてきた境界で、どちらも同条件で境界が越えられると判明したため、これ以降は向こうとこちらの物資や技術交流が盛んとなったと言う。
「ちなみに師匠?なんで今回は宇宙の破れ目を放っておくんですか?以前には管理者に報告して修復してもらいましたよね?」
「あのね、郷さん。宇宙の破れ目とはいうものの、今回のは非常に安定した、言わば多元宇宙への通路のようなものなんだ。相手に害意がないと分かったなら交流したほうが良いに決まってるでしょうが」
今日も宇宙は平和だ。
この宇宙も、そして、この宇宙と隣接した多元宇宙も……




