銀河パトロール レンジャー部隊J99 その八
寒さが緩んできたので、続きを再開。
今日も今日とて、J99部隊は宇宙海賊、いや、その大元、帝国軍を名乗る巨大組織の尻尾を掴むという大仕事に携わっている。
しかし、毎日のように宇宙海賊の出現を受けて出動し、これを撃退、あるいは撃滅するのではあるが、宇宙海賊組織以上の情報を得られない。
そんな日々が続くと、さすがに飽きてくる。
いや、仕事として飽きるわけではないが(毎回、制圧はしているが、いつこっちが負けても不思議ではない死闘)情報を得られない戦いに、ある程度の飽きが来るのは仕方がない。
「隊長、どうします?これで50件目ですが、こいつらも下っ端で、自分たちより上の組織のことは知らされていないようですが」
「うーむ……敵さんも、こちらが力を付けたということは認識しているようで、侵略行為の手先としての宇宙海賊は例の帝国軍の司令は受けていないようだ。しかし、完全に海賊と帝国軍の関係は切れてはいないと思われるんで、これまでと同じように、俺達は宇宙海賊を退治したり、稀に現れる帝国軍関係者を尋問したりするしかない」
隊長は副司令と直接語り合えるRENZ持ちであるため、副司令から、帝国軍とは、恐らくだが多元宇宙の別世界にある銀河からの侵略組織だろうという連絡を受けている。
「ただ、これが真実かどうか……それを確信とするには、帝国軍の関係者が、こっちに来てくれないと情報が曖昧でしかない。むぅ……どうしようか……」
独り言でしか言えない秘密事項であるため、隊長といえどもブリッジではなく隊長専用の部屋で呟く。
その時には、意外と早めにやってきた。
「副長、今回の宇宙海賊船団は今までとは違った構成らしいな。珍しく、一個艦隊のような構成で輸送船団を襲ったそうじゃないか」
「はい、さすがに我が戦力では殲滅とはいかず、3割ほど戦力を削っただけで撤退していきました。ちなみに、死者をできるだけ出さないように攻撃していたのですが、大破した敵艦は自爆してしまい、捕虜も数名しか得られませんでした。怪我人、重傷者も軽傷者も病院船に叩き込んであるんで、尋問は可能です。まあ、我々では役者不足なので、隊長でなきゃ無理でしょうが」
これを聞いた隊長、過去の失敗を思い出して、副司令へ連絡を取る。
〈副司令、帝国軍の関係者と思われる捕虜を確保しました。ただし、私が尋問しても、以前と同じく精神崩壊に陥る可能性が高いため、できれば副司令あるいは総司令が尋問していただくほうが良いかと思うのですが。可能でしょうか?〉
〈ふむ……ちょっと待ってくれ。今、総司令に確認をとってみる……大丈夫だ、総司令が対応するとのことで、君は現場で当事者と対面だけしてくれ。総司令は、とある事情で現在地を離れられないんで、君を通して当事者たちを尋問することになる〉
〈私が現場にいることが重要なのでしたら、そうします。では、こちらの準備ができたら、再度連絡します〉
隊長は、その足で負傷して入院している捕虜たちのトップを訪問する。
くれぐれも、以前のように尋問しないでくれと副司令には言われているため、病室へ訪問するだけ。
当たり障りのない話だけしていると……
《よくやってくれた、隊長。これからは、俺が対応する。君は、ここにいてくれ。さすがの俺も、現場にいない時に精神だけで捕虜の尋問は無理だからな。中継基地の役目をしてほしい》
副司令とは全く違った強さと特色を持つテレパシーだ。
隊長は、その場で捕虜と向かい合い、その目と耳、口を総司令に提供する形となる。
「君が、この銀河での、海賊たちの総まとめ役をしていた人物かな?私は、銀河パトロール組織の総司令を務めるクスミと言う。今から、質問を行いたいが大丈夫かね?」
隊長の言葉とは全く違った言葉が出てきたことに驚く病室の主。
「あー、質問に答える前に、こちらからの質問に答えてくれないか?性格が変わったみたいに言葉と表現方法すら変わったようなんだが……あんた、多重人格者か?」
隊長の人格は今現在、精神の奥へ引っ込んでいる。
答えるのは、銀河の彼方にいる総司令だ。
「違う。この肉体はJ99部隊の隊長だが、今、この肉体を制御しているのは、銀河パトロール組織の総司令の精神だ。俺の肉体は遠くにあるんでね、この隊長の許可をもらって、中継基地のように使わせてもらっている。この肉体に負担はかけていない。だからこそ、君と話がしたくて、俺がここまで出てきているわけだ。あ、尋問じゃないから安心したまえ。以前に尋問して精神崩壊に至った少佐は残念だった」
「今回は、それを避けて尋問じゃなくて質問にしてくれるということか。いいだろう、俺が言えることは答えようじゃないか。質問に答えるだけなら、精神崩壊のトラップに引っかかることはないだろう」
「ありがとう、こちらも気をつけよう。まずは、君の所属だ。帝国軍の所属だと思うが、それで間違いないかね?」
「意外だな、初対面なのに、そこまで知っているとは。ちなみに私は、元・情報部の人間だ。向こうにいる時に、こちらに切れすぎるほどに頭の切れる人物がいると推測していたが、あんたがそうだったか」
「光栄だね、敵とはいえ、情報部のトップを務めたほどの人物に、そこまで言われるとは。次の質問だ、君の言う「帝国」とは、こことは別の宇宙……恐らくは、ここと隣接する多元宇宙の一つの世界だと思うんだが、違うだろうか?」
ショックを受けた、敵の元将校。
「鋭いなんてものじゃないな、その推理力と洞察力。当たりだよ、大当たり。我々、帝国軍は、ここと似ているが別の宇宙にある銀河から来ている。驚きだね、ここまで少ない情報で、ここまで真実にたどり着くとは」
「光栄だね、その言葉。そうすると、その侵略意図が問題となるんだが……君らの銀河宇宙にトラブルが発生し、それを避けるため、つまりは、君らの宇宙から、この銀河に避難しようということで、攻撃を仕掛けているということだろうが、違うか?」
「これは……まいったな。我々の銀河でも、軍部の上の方しか知らない軍事機密に当たるんだが。そこまで知られているようでは、秘密にしている意味がないな。お察しの通り、我々の銀河には問題が起きている。深刻な問題ではあるが、当面は大丈夫なんだ。しかし、数百年の後には、こちらの宇宙へ移住しないと我々は全滅してしまうだろう……」
「それが聞きたかった。そのトラブル、俺達なら解決できるかも知れないぞ」
「嘘だよ、解決できるわけがない。文明程度だって、近年、我々の世界と同じくらいになってはいるが、我々の宇宙へ行く方法すら知らないじゃないか」
「うん、それは認める。しかし、トラブル解決を行うのは、この銀河の文明に属するものじゃない。俺達は……」
「な・ん・だ・と!まあ、それで納得した。数百年で、ここまで文明が発展したのは、そのせいか。後は、我々の宇宙へ行く方法だけだな。一つ、約束してほしい。勝手な願いだが、我々を救ってくれ」
「トラブル解決が、俺達の仕事だと説明しただろ?俺達の仕事は、この宇宙に住む者達が安全に、安心して生きていけるように宇宙のトラブルを解決するってことだ。それは、宇宙が別の銀河でも同じだ。生命体が困っているのなら、どこでも行ってトラブル解決してやるだけだよ」
「そうか……もう、君らガルガンチュアクルーに依頼するって手段が最適なようだな。よし、我々の宇宙へ行く方法とポジションを教えよう。あと一つお願いが、私を連れて行ってほしい」
「了解した。そのポジションから、どれくらいの大きさのものが君らの宇宙へ行けるかな?ふむ、三個艦隊以上は楽々だと……ガルガンチュアは行けるかなぁ……まあ、現場へ行って確認するしかないか。分かった。君を迎えに来よう。そして、案内役として君に来てもらうとしよう」
「ありがたい!もう、我々に攻撃意思はないと確約しよう。故郷の銀河が救われるなら、こちらに侵略や移住する意味はない」
「わかった。この肉体から離れる前に、銀河パトロールに通達しておく。海賊行為をやめるなら、通常の宇宙航行をする船として扱うようにと」
《隊長、聞いていたな?もう、この銀河は平和になる。まあ、後は向こうの宇宙の問題だが、それは俺達が解決する》
〈総司令……あなた、本当にこの銀河の生命体じゃなかったんですね。噂はありましたが、事実だったとは……そうすると、副司令も?〉
《そう、総司令と副司令は、同じ宇宙船ガルガンチュアのクルーだ。俺達は、銀河どころか銀河団、その上の超銀河団すら超えてきた》
「目的は、宇宙を平和に、安全にすること……ははは、こんな馬鹿な話はないよな、なあ、別宇宙の帝国軍人さん。俺達の宇宙には、生きた神様がいるんだってさ。あらゆるトラブルを解決し、あらゆる生命体を救う存在なんて、まさに神様だよなぁ……はあ、なんか敵味方という言葉すらバカバカしくなってきたぞ」
「まあな、俺もそう思う。別宇宙のトラブルすら解決しようなんて存在、神話の世界すら超えていると思わんか?」
互いに見つめ合い、吹き出す。
大笑いが病院に響き、看護兵が飛んでくる。
厳重注意される二人だが、下げた頭の下で、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。




