待合室の彼女 その23 (最終話)
やっと書けた、最終話。
ここから、楠見たちは世論を使い、社会の進化を早める。
会社がスポンサーをしているアニメやドラマの社会設定を、一つの星全体が一つの政府となるようにストーリーも変えていく。
また、対談番組等を通じ、災害救助の面からも統一政府の誕生が一番良いと世論を誘導する。
ここで(株)本庄機器開発販売から、今現在、災害救助機器の一つとしてごく当たり前に使用されている球状飛行艇の、驚くべき秘密が公開される。
「今日は、お集まりいただき、誠にありがとうございます。今日の緊急発表は、現在、災害救助用に使われいてます球状飛行艇についてです。実は、この飛行艇、隠し機能がありまして……飛行艇としてだけではなく、宇宙船として使えると発表させていただきます」
十数年前の発表時よりスタイルから、そのように予想はされていたが、発表は、その上を行くものだった。
「実は、テスト用に使っています直径50mの飛行艇も、そのまま宇宙船として使えます。今現在、主力となっている直径300mの飛行艇については、開かずの倉庫エリアだった箇所には搭載艇が収まっています。今この時、この発表時よりロックが外れ、搭載艇は使用可能となります。もちろん、搭載艇の方も宇宙空間で使用可能です」
まさに爆弾発表だった。
救助艇として使うだけだった飛行艇が宇宙船になるということは……
「よって、今の救助艇として使われている球状飛行艇および、輸送用として現在開発中の直径500m級の飛行艇に関して、これら全てが宇宙船として使用可能となります。発射場も滑走路も不要な大型宇宙船が、今からでも実用として使えるという事です」
取材に来ていたメディア関係者も、空いた口が塞がらない。
「詳細を記しましたパンフレットを配りますので、この宇宙船で何が出来るのか考えてください。そして、この宇宙船を各国がてんでバラバラに使用するのと、統一政府の管理のもとに正しく使用するのと、どちらが良いのか?それも考えてください」
発表会は終了した。
当然、メディアは社長にインタビューしようと群がる。
ただし、本庄社長は一言、
「我社は未来の可能性を提示しました。後は皆さんが考え、世界を一つの政府で管理、統治していくのが正しいのか?今までのバラバラな国々の管理に任せるのか?選ぶのは、あなた方です。ただし、星の世界へ行きたいのなら、統一政府が基本ですが……」
これだけ言って、その場を去る。
騒然となるメディア。
一部では、傲慢すぎるという意見もあるが、世界政府の実現には欠かせないだろうという正論も。
国際連盟の会議場は、それこそ侃々諤々の大騒ぎ。
「わしのところみたいな超大国が世界政府の長を生み出さねば、どこがやるのじゃ?」
との意見持つ大国達を、少国家群が抑える。
「あんたらの言う事ばかり聞いておったら、うちらは貧しいまんまじゃろうがい!」
多少、方言が入っているが要はそういう利害の話。
議論は万に迫るほどやったが、どうしても結論が出せない。
これではダメだと国際連盟議長自ら、この混乱を招いた張本人にして超未来技術の持ち主とも噂される(株)本庄機器開発販売の本社社長室へ乗り込むこととなる。
「本庄社長、何かアドバイスが欲しいのだ。今の国際連盟の状況は大国グループと小国グループに分かれて互いの利権を少しでも少なくするように議論し合うだけ。あなたの言う世界政府実現のために何が足りないのかね?」
議長の言葉を聞いて、本庄社長は溜息をついた。
「ここまで導いてきても、まだ我が国が我が国が、などと世迷い事を言っているのですか……まったく!洗脳社会から抜け出せたと思ったら各国の利権争いで世界政府実現が遠のくとは……では議長。良いことを教えましょうか……あなた方が思っているような宇宙じゃありませんよ、この銀河は」
「は?いきなり何を言い出すんですか?本庄社長」
「いいですか、あなたがたの思う宇宙ってのは、この宇宙、この銀河と言い換えても良いですが、この銀河には我々のような知的生命体はごく少数で、互いの距離が離れすぎているために文明の交流も戦争も何も起きない……そうですよね?」
「あ、ああ、それが科学常識だろ?それが何か?それが分かると世界政府実現に役立つのかね?」
「ふぅ……良いことを教えてあげましょう。この銀河、生命体で満ち溢れてます。この星だけに生命体、知的生物が発生しているなんて馬鹿げた幻想は今日たった今から捨てなさい!ここから数百光年離れた星系には超光速で跳ぶ宇宙船を多数持ち、銀河の縁へも輸送船を跳ばしている文明と知的生命体が居るんですよ。その彼らの文明と、もし明日にでも出会ったら、どうします?遅れた多数国家政府の前時代的宇宙文明ってことで植民対象になるかも知れないし貿易相手としては不十分と判断されるかも?ここに、この銀河の主だった大勢力を10ほど挙げた精細レポートがあります。その中には侵略大好きって文明も……あるかも知れませんよ?」
ニヤリと黒い笑顔を見せる本庄社長。
議長は半信半疑でレポートを見ていく……
「何だこれは?!本庄社長、あなたは他の宇宙文明から派遣されたスパイか?!」
いいや、と首を振る本庄社長。
「こんな愚かな文明と生命体にスパイも何も要りませんよ。私は、もっともっと上の存在から力を与えられた人間です。少しだけ私の正体と、私に力を与えた存在について話しましょうか……私は、この星で生まれ育ち、洗脳された状態で底辺エンジニアとして死にそうになりながら働いてました……その日常に違和感を憶えたのが、とある日です。それから私は巨大な宇宙船に連れ込まれ、洗脳状態を脱し、それにも増して、超越技術とも言える球状宇宙船その他の知識を学びました……言っておきますが私が出会った存在が神のような存在であったからなので、他の生命体がこの星に来ていたら私など逆洗脳でこの星を乗っ取るためのスパイとなってたでしょうね」
「そ、その存在とは?」
「宇宙船ガルガンチュアと、そのクルー。そして、そのマスターという存在の、ミスタークスミ。あ、彼らに助けられたのは私だけじゃありません、世界で同時多発的に独裁国家に革命運動が起きたでしょ?あれもガルガンチュアが裏で糸引いてました。さーて、このまま、いつまでも多数国家で宇宙文明にならずに、どっかの侵略を受けるのか?それとも、早急に世界政府の体制を整えて宇宙文明の仲間入りをするのか?選択肢は、どれか一つなんですよ、議長さん」
議長は、レポートを手土産に青い顔で帰っていったという。
それからの国際連盟は積極的に世界政府樹立へと動きを変え、侃々諤々の議会を少しづつ黙らせ納得させ、世界政府がどうしても必要だという世論を作り出す。
そして……
「ふぁーあ!ようやく、今日の午後一番で、この星にも世界政府樹立か。ちなみに世界政府の科学省初代長官を拝命したらしいじゃないか。やったな、本庄くん」
楠見が待ちに待った統一政府、その重要ポストに本庄社長の名前が上がるのは当然のように思えるが。
「いや、待って下さいよ。俺は何度も断ったんですって!だけど就任要請のメールや電話や、果ては議長や初代統率官自らがここに来るもんですから……断りきれなかったんですよ」
不満顔の本庄社長である。
楠見は、そんな本庄社長に向かい、こんな言葉をかける。
「それじゃ、不満だろうが初代科学省長官、本庄博士にプレゼントがある。受け取ってくれ……というか、よろしく頼む」
楠見の言葉の意味が理解できない本庄社長。
「え?プレゼント?よろしく頼むって、いったい何をプレゼントしてくれると?」
「ほら、入って来たまえ、ライム」
「え?!ライムさんは、ここにいますよ?!」
楠見の言葉を受けてドアを開けて入ってきたのは……
「ラ、ライムさんが二人?!どういう事ですか?!」
その答えは私から、と、秘書姿のライムが。
「本庄さん、私は、あなたを救い、洗脳解除を手伝い、会社では社長秘書として助けてきました。そんな中で私はあなたに恋心を抱いてしまったようです。しかし、私自身はガルガンチュアから引き離されることを良しとしません……ですから我が種族の常として、こう言う場合、分身を生み出すのです。今、あなたの眼の前に居るのは、あなたに恋したライムです。幸せにしてあげてくださいね……あ、子作りも可能ですからね、言い忘れましたが(笑)」
「あ……そう、なんですか……俺がライムさんと一緒になれるんですね……いただきます!一生かけて幸せにします!俺のライムを!」
ウェディングドレス姿のライムは、本庄社長の腕の中へ飛び込んでいった。
数時間後……
「楠見さんはじめ、ガルガンチュアクルーの皆さん、どうもありがとうございました。これで、この星も立派に宇宙文明として育っていけると思います。つきましては……ですね。ガルガンチュアが、この星系を去る前に一つだけお願いが……」
「何だ?最後のお願いなら何でも聞いてやるよ。専用宇宙船でも欲しいかい?搭載艇母艦は無理だろうが、直径500mクラスなら……」
「いえいえ、そんなものじゃありません。俺とライムさん、いや、ライムが出会った駅の待合室へ転送してほしいんです。俺の運命は、あそこから変わったんで、あそこから再スタートと行きたいんです」
へー、と意外な顔の楠見。
「意外とロマンチストなんだな、本庄くんは。よし分かった、二人を、あの駅の待合室へ送ってやろう。しかし、送るだけしかできないぞ。もうガルガンチュアは出航準備完了だ。君らを送ったら、この銀河を離れる」
「星系を離れるのかと思ったら銀河ですか……ことごとく予想の上を行くなぁ……いいです、送って下さい」
言うが早いか二人は駅の待合室へ。
「ここじゃなきゃダメ。ここで言いたかった。ライムさん、いや、ライム。好きです、俺と一緒になって下さい」
「嬉しいです、本庄さん。いつも、死ぬまで一緒よ」
熱い口づけを……と行きたいところだが、
「ちょっと待って。本社に戻らなきゃ、そろそろ正式発表があるわよ、世界政府科学省長官就任の」
「おいおい、ライム。もう少しロマンってものをだなぁ……」
「ダメ!今の私は、あなたの社長秘書であり科学省長官の秘書であり、そして、もう一つ。ガルガンチュアの使者としてのつとめもあるんですから」
「とほほ……いつまで経っても、シシャからは逃れられないのかよぉー!」
がっしりと腕を組まれた本庄くん、先行きは……二人だけの秘密ってことで……
たまには、こんな甘々なラストも良いのではないかと思いまして(笑)
さて次だ!(笑)