待合室の彼女 その22
終盤!
次で終わります……長かったぁ!
そこかしこの独裁国家(社会主義共和国という名称でも実質的に独裁国家というのは多数あった)から、それなりの人口(底辺の労働力となっている人口なので、あまり大したニュースにはならなかったが)が突然に消えてしまい、一時は騒然となったが、次第に噂となり、その噂も立ち消えた……
そんなこんなで、地上は大多数が社会情勢に改変があり、労働条件やら休暇の日数やらが大幅に改善され、独裁国家ではまだまだ先と思われ……たが?!
とある日を起点に、あっちでもこっちでも革命の火の手が上がり、労働者と知識階級どちらも手を取り合ったデモやら革命戦争やらが巻きおこる。
最初は、官憲や軍隊にかかれば簡単に鎮圧されるかと思われた革命は、思わぬところで燃え上がることとなる。
それは、国内の革命行動を実際に軍が鎮圧しようと行動した時に起きる。
国内の各メディアは独裁国家故に国家側に加担し、革命を愚かな行動だと断じたが、その革命グループのデモ行進を武力で潰そうと、軍が装甲車を持ち出した時に、それはメディアにより中継されることとなる。
「我々はぁ!もう、国家の言いなりに働くだけのアリやハチではなーい!自分たちで考え、自分たちで働き、自分たちで稼ぐのだ!稼いだ金をごっそり盗んでいくだけの国家など、もう要らない!」
と叫ぶ革命組織代表。
これに対し、軍が装甲車を数台、持ち出す。
何も武器を持たない民衆に対し、軍は装甲車部隊に蹂躙の命令を出す。
ドパパパパパパ!
機銃掃射の音が響き、次いで装甲車本体も動き出す。
ガァー!
生身の人間がいるのに、装甲車はスピードを増しながら群衆に突っ込む!
群衆は逃げ惑……わない。
機銃掃射を受け、装甲車という鉄の塊が突っ込んできても、民衆の中に怪我人も死人もいない。
「ど、どういう事だ?!何かの膜のようなものに当たって、銃弾も装甲車も、それ以上は危害を与えられないだと?!」
焦る軍幹部と独裁者側の政治家達。
民衆は、武器は持たないが防御は絶対的なものがあり、そのデモ行進は独裁者の居る城館まで達することとなる。
民衆の怒りを初めて目にする独裁者と、その取り巻き達。
マズイことに、その一部始終をメディアが現場中継放送していた。
圧倒的な武力で民衆を圧倒するような絵を想像していたのだろうが、現場中継で独裁者側が押されている事が目に入る。
今さら現場での中継をブチ切るわけには行かないため、現場のアナウンサーは政府側報道に切り替えようとするが、そんなものでは現場との乖離が強くなるだけ。
気の強い者は、もう政府を見限り、労働者側に立った報道を行うものまで現れてしまい、現場は大混乱となる。
後日、労働者側との会談を予定するつもりだった独裁者側も、このような状況になってはリアルタイムの会談とならざるを得ない。
「私が*****国社会主義評議会議長にして総統の地位にあるルゴーンだ。私が今まで導いた国家方針は間違っていなどいないと断言する!」
この後に及んで、そんなことを言ってのける独裁者。
革命グループ指導者は、もう騙されないぞとばかり、
「総統、いや、元総統。あなたの犯罪は表に出てしまった。もう観念しろ。国際警察にも手配されている身で何を今更、自分を肯定などしようとしているのか!」
総統自身は知らなかったが、一時間前に中枢会議と13人委員会に深く関わった極悪犯罪人として、この独裁者と、その一族が国際指名手配になっていた。
国際警察組織の一団は、逮捕状まで用意して、国境を越える一歩手前で待っている。
「今日、今この時より、この国は独裁国家ではなくなる。重犯罪者を国家の指導者として据えるわけには行かないから、今より、この国は体制も体外閉鎖も止める!開かれた国家となり、国名すら変えることとなるだろう!」
武器も持たない民衆が軍と独裁者を相手取り、それを打ち負かすという前代未聞の大革命が、あっちこっちの国で起きる。
独裁者などという者たちは、どこかで繋がっているもので、一国が倒れると次々と犯罪が暴かれて芋蔓式に元独裁者が逮捕されていくようになる。
メディアは、それを、いつしか「民衆の目覚めた日」と呼ぶようになった。
「はぁ……ついに同時革命まで起こしちゃったよ、この人たち。まあ、仕方がないとは言え、これで世界情勢に大した影響がないのは凄いよなぁ……革命の資金がウチから出てるなんてのは、死んでも守らなきゃいかん秘密になっちまったが」
本庄社長が、つい愚痴るのは、いつものことだった。
「さて、これで社会情勢として労働偏重の洗脳社会を開放するお膳立ては整ったわけだ。これからは、本庄くんの出番だぞ」
楠見は軽く言っているが、
「後は俺じゃなくたって簡単ですよ。一番の壁をぶち壊した人が何を言ってるんですかね。山も壁も無くなって舗装された道を走るだけなら、誰だって簡単ですって」
この時ばかりは、横にいたライムとエッタも深く頷いたという……
それから数年後、世界が洗脳状態から完全に解き放たれたという解放宣言が、ついに国際連盟議長の手で成された。
「さて、後は世界統一政府の樹立か……今までの苦労を思えば割と簡単かな?」
呑気に、そんな事を言う楠見だった。




