小マゼラン雲編 その後の話
暖かくなって、肩が調子良くなりました。
しかし、花粉症でストーリーが進まん!(泣)
小マゼラン雲のトラブル解決、終了!
俺達は終戦宣言が成された後も、あまりに懇願されたため、次の目標へと旅立てずに居た。
あと、俺達全員が、この件ではフロンティアを出ていない。その理由は小マゼラン雲の大多数を占める生命体が、なんと「水素呼吸の生命体」だったからだ。
太陽系にも確かに原始的ではあるが水素呼吸生命体は存在したので、酸素呼吸生命体との相性の悪さは覚悟してたんだが、小惑星と勘違いされたフロンティアが運ばれた場所が最悪だった。
ほとんど、太陽系で言う木星のような星に降ろされて検査や調査をされていたのである。
これではロボットであるフロンティア(頭脳体)とプロフェッサー、フロンティア支配下の作業ロボットくらいしか船外へ出られない。
俺達、生命体組の3名が外に出ようとしたら船外作業用でも特殊なアタッチメントつけたパワードスーツのような物に入るしか無い。
で、皆で相談した結果、このままで行こうとなったわけだ。
幸い、向こうで勝手に勘違いしてくれたようで、フロンティアという名前が「生きている小惑星」のようなモノに落ち着いたらしい。
神様扱いは勘弁してほしいと思うが、フロンティアを取り囲む群衆に対しては、あまり幻滅させてはならないなと思うので、現実の公開は控えることにする。
今日も今日とて様々な個体が、それぞれの悩みを解決するための方法を知りたいがため、フロンティアの回りに集まっている。
「フロンティアよ、教えて欲しい。我が人生、我らが子供らの未来に幸福は来るのだろうか?」
こんなんばっかし。
まあでも、今まで戦争しか知らなかった人生と生活だったしね。
明るい未来が来ると言われても、本当かい?
となるのは仕方がないか。
「大丈夫だ。この小銀河の未来は、これから明るくなっていく。これからは、お互いに戦うのではなく、お互いに助けあう事を一番に考えて生きれば、君たちも、そして君たちの子どもたちも、幸せになる。そして、いつの日にか、お隣の銀河系とも友情の手を伸ばす日が来るだろう」
「おお!幸福は約束されたのか!すばらしい。お隣の銀河系とも、いつか友情の手を握り合いたいものだが、教えて欲しい、銀河系とは理想郷なのか?」
うーん……
理想郷とは程遠いとは思うんだが……
「いや、理想郷ではない。理想郷ではないが、この小銀河よりも多種・多様な生命体と文明が、今では互いに助けあって宇宙を理想郷のような場所にしようと頑張っている。君たちの文明が銀河系の良き隣人として挨拶できるようになるだろうことを期待している」
まあ、このような、今までの戦争一色の政治や思考形態を少しづつ変えていければいいなとの判断で、お悩み解決相談フロンティア神社を仮設しているようなものだ。
それにしても、いっこうに減る気配すら無いな、この人だかり……
終戦から半年(船内時間、地球時間です)後、ようやくフロンティアが旅立つ時が来た。
小マゼラン雲文明の科学力は自己銀河内での跳躍移動は実現しているが、通常の上昇や降下、惑星上での飛行については、いわゆる「ロケット」式のものが基準となっている。
フロンティアの場合、フィールド推進なので加減速にGを感じることはないが、どうしても近くに宇宙船がいると強力な磁場で相手の操縦に干渉してしまう事になる。
なので、申し訳ないが見送りや護衛のたぐいは一切止めてくれと星系政府にお願いしてから、ズズズ……
と巨大なる船体を浮上させる。
水素とメタンの大気なので、あまりフィールド推進エンジンの出力は上げられない。
影響を最小限にするためにバリアフィールドは展開しているが、あちこちで放電している。
ちょいと冷汗ものである。
ようやく大気圏を抜け、宇宙空間に出る。
星系政府に向けて、最後の挨拶を送る。
「小マゼラン雲に平和が訪れて良かった。君たちのさらなる発展を期待している!」
「ありがとう!巨大にして強大なる叡智の神。あなたに少しでも追いつけるよう、我々も精進します!」
ってことで俺達は次の目的地、大マゼラン雲へ行く。
ここで主人公たちが知らない、小マゼラン雲の、その後について……
「奇跡のような巨大なる神が告げられた!我々のこれからの目標は遥かなる銀河系に行き、その友情あふるる生命体たちとの良き隣人となることだ!」
オオオッー!
と、メタンの大気が波打つような声が上がる。
フロンティアが去った後、神の国と仮称される銀河系への憧れは、もう、行動目標となるまでに盛り上がってしまった。
こうなると、生命体の種類が統一されてるような小マゼラン雲の歩みは速い。
一世紀も経たぬうちにエネルギー欠乏問題は解決され、目標は銀河系への友好の使者を送るという次元へと変わった。
彼らの寿命は、20世紀の人類並。
水素などという燃えやすい気体を呼吸しているため、彼らは力強く、素早いが、寿命が短いのが欠点となる。
それだけに、銀河を超える旅となる宇宙船を造るのは可能だが、往復では乗組員の寿命が足りなくなる。
そのため、世代宇宙船か、あるいはコールドスリープ技術の確立が必要となるのであった。
数10年後、ようやくコールドスリープ技術が民生用にも応用できるレベルとなり、銀河を渡る使節船が作り出され、就航の時を待つだけとなった。
「ようやく、この時が来た!皆、我々の思いを神々のいる銀河系へと届けて欲しい。君たちが、我々の希望である。頑張って欲しい!」
と、小マゼラン雲あげての進宙式が催されて、彼らの科学の粋を詰め込んだ銀河間宇宙船が10万光年という果てしない距離を踏破することになる。
後の話になるが、この宇宙船、あちこちに試験船ならではの欠陥を抱えていて、とてもじゃないが銀河系までたどり着くことすら奇跡と思えた、と航海日誌は語っている。
今までにない超長距離の跳躍を成し遂げたのは良かったが、その後に超長距離跳躍理論そのものに抜けが見つかり、その欠点を修理・修正するのに3ヶ月(試験船だけあって全ての部分品には4つまでの予備が存在し、宇宙船の半分は整備工廠のような作りになっていたのが幸いした)かかったり、コールドスリープ技術にも少々の問題があり、一年以上の冷凍睡眠は不可能な事が判明し、乗組員が交代で起きるシフトが短い間隔になったりして予定よりも長い年月がかかって銀河系に到着した。
詳しく言うと銀河系の端っこに到着したのだが、そこからは急展開の話となる。
その頃には銀河系中に通信や貨物・人、その他の様々なネットワークが張り巡らされており、ずいぶん前から小マゼラン雲からの宇宙船は確認されていた。
銀河系評議会では、この宇宙船のことも話題として取り上げられ、
救助すべきか?
それとも銀河系に自力で到着するのを待つか?
と、議題に上がった。
「仮にも小マゼラン雲からの宇宙船である。彼らのプライドというものもあるだろうから今は見守ろう。しかし、今すぐにでも救助に行ける体勢だけは取っておこう」
との議長声明により、銀河系では毎日、
「あ、さて。今日の小マゼラン雲使節船情報です。今日は久々に長距離跳躍を行った使節船は、銀河系まで残り8000光年を切りました。彼らの素晴らしい冒険心に拍手を送りましょう!もしかすると彼らも「伝説の宇宙船フロンティア」と出会っているかも知れませんね」
などとメディアニュースともなっていたのであった。
銀河系に、とにもかくにも自力で到着した使節一行は宇宙船から地表へ出たすぐに銀河系の各種メディアに取り囲まれる事となる。
あまりの驚きに立ち尽くしていると使節一行の警備担当者が、ようやくのこと取り巻きを規制し、銀河系評議会の一行とファーストコンタクトさせる。
銀河系では全く未確認の生命体とファースト・コンタクトする場合には必ずテレパシーで呼びかけるように制定されているため、テレパスが歓迎・交渉団の一員に必ず入っている。
〈ようこそ銀河系へ。大変な旅だったでしょう。あなた方が水素呼吸生命体だという事は理解しておりますので、こちらに特別環境室を設置しております。宇宙服を脱いで、こちらでおくつろぎください。我々の歓迎・交渉団との会話も、すぐにトランスレータ辞書が出来上がると思いますので、ご安心下さい〉
受信は可能だがテレパシー送信が苦手な生命体だとすぐに理解され、水素・メタンの混合大気の詰まった特別環境室へ通された小マゼラン雲使節一行。
テレパシーで、適当に会話をして下さい、こちらでトランスレーターの辞書作成を早急に行いますから、と通知され、宇宙服を脱いでくつろぎながら日常会話を続ける。
2時間もしないうち、辞書の作成が終了し、トランスレーターが動作し始める。
「あなた方、銀河系の生命体に会いたかった。会って、我々の窮地を救ってくれた巨大小惑星を派遣してくれたお礼を言いたかったのです」
使節団の代表(船長は別にいる)が語る。
「おお!それでは、やはり、あなた方の銀河にもフロンティアは行っているのですね。で、やっているのは、想像通りのトラブル解決。フロンティアの船長とは、お会いになられましたか?」
銀河系代表の話に、
おや?
と、首を傾げる使節団代表。
「どうも、お話に齟齬があるようですが。巨大小惑星フロンティアは、それ自体、生物ではないのですか?」
「あははは、それは、きっとフロンティア乗員が仕組んだジョークでしょうが」
どれだけ巨大でもフロンティアは宇宙船。
その中には銀河系を代表する(?)生命体が3名、宇宙船の頭脳体含めてロボット2体の5人のクルーによって構成されていること。
銀河系内はフロンティアと、その船長である地球人により、あらゆるトラブルや災害に対し、すぐに介入して早急な解決策を産み出してあっちこっちを平和へと導いていたこと。
宇宙船そのものは銀河系でも造り出すことが出来ない驚異の宇宙船であること。
更に銀河系の今現在の平和と繁栄があるのは、ひとえにフロンティアのおかげだと言ってもいい、と話す銀河系代表団。
「と言うことは、我々はトラブルを抱えていたがために逆にフロンティアの恩恵にあずかれた、ということでしょうか?」
あまりの真実に質問しか無い小マゼラン雲使節団。
「いえ、大なり小なり、どの組織も問題を抱えているものです。今回は、あまりに問題が大きすぎたがために、あの伝説のトラブルバスターが手を出したにすぎません。それよりも、あなた方との友好と貿易に我々は大いに期待するものです。もう少ししたら銀河系評議会へご案内しますので、それまでこちらで、おくつろぎ下さい。あ、宇宙服は脱いだままで結構です。どのような生命体でも通常の環境で評議会には出席できるようになっております」
数時間後、使節団のいる部屋へ、ベルトのようなものが届けられる。
銀河系代表団の説明によると、
「これは数10年前に開発された個人用の転送端末です。宇宙船のような大きなものですとジャンプサークルが必要となりますが個人の生命体に関してはかなり自由に銀河系内を移動することが可能となりました。このベルトを装着して下さい、よろしいですか?これで自動的に個人認証されましたので、座標を入力します。あ、今回は特別に入力済みになっておりますので、ご安心を。これで次の瞬間には。はい、ここが銀河系評議会、特別環境室です。では銀河系評議会の面々と忌憚なくお話し下さい」
あまりの技術の粋に、あきれ果てたような表情の小マゼラン雲使節団。
しかし彼らが驚くのは、これからだった。
3ヶ月に及んだ交渉と会議、そして貿易協定の締結と相互防衛・救助組織の設立と、その技術格差における解消を目指すための援助組織の立ち上げが決定された。
それから、わずか50年足らず……
小マゼラン雲から、巨大貨物船、巨大貨客船、超巨大観光船が発進していく。
目指すは星系の端に設置されたジャンプサークル。
巨大である。
惑星の直径と同じくらいの巨大な構築物は、その性能もずば抜けている。
巨大船ばかり100隻を超える宇宙船を軽く飲み込んで、出口は小マゼラン雲と銀河系の中間地点である。
銀河系の技術発展と、小マゼラン雲の技術を合せてみたら、思いもかけない発想が生まれ、それが銀河系と小マゼラン雲をつなぐジャンプサークルとなって結実したのである。
銀河間の長大なる無の闇は、ここに征服されて、今では通常輸送では三ヶ月ほどで銀河系と小マゼラン雲が結ばれている。
これが緊急事態や宇宙災害になると、話は別である。超緊急輸送体勢になると、コストやエネルギー消費を無視して、特別なジャンプサークル運用をする。
その場合、銀河系内では輸送時間は1時間以内、小マゼラン雲と銀河系でも最大3日で全ての星系に緊急輸送可能となるのだ。
めったに使われることはないが、今までに3度、この超緊急輸送体制になったことがあった。
そのうち2回はスーパーノバ現象による該当星系内と付近星系の生命体緊急避難。
1回は宇宙震により激甚災害を受けた小マゼラン雲内の救助と援助に対して実行された。
銀河系内では宇宙救助隊の活躍は様々なメディアで放送され、お馴染みとなっていたが、小マゼラン雲内での救助・援助活動は初めての事だったため、小銀河内では驚きと絶賛の声で迎えることとなった。
なにしろ滅多に見ることがない銀河系の様々な生命体、特に機械生命体と球状生命体に対し驚きの声が上がる。
そして、不定形生命体に対して救助活動での自由自在な活躍に、また驚く。
挙句の果てに地球人。
地元メディアのMCが実は巨大小惑星宇宙船に乗っていたのは地球人の船長だとすっぱ抜いたものだから災害現場は、さながら神の降臨し給うた現場の雰囲気に。
あっという間に生命体を救える限り救出し、その後の復旧すら、またたく間に作業終了し終えた宇宙救助隊は地元からの絶大なる賛美の声に送られながら、粛々と撤収作業を行っていく。
ここに、銀河系の隣人として小マゼラン雲の地位と信頼、友好は確立された。
ちなみにフロンティアの着地していた場所は聖地として認定され、小マゼラン雲内だけではなく銀河系からも多数の参拝者や観光客が来るようになったのであった。
「はっくしょん!」
「おや?マスター、風邪ですか?宇宙風邪は、こじらせると厄介ですよ」
「いや、これは違うな。誰かが俺のことを噂してるんだと思うぞ」
「おや、ご主人様の噂なんて、悪い話ではありませんよ、きっと。多分ですが神様扱いされてるだけだろうと思いますけれど?」
「そんなもの、悪い噂よりもひどいわ。あー、早く次の目標星に着かないかなー」
「我が主、それが原因だと気がついてないのでしょうかね?」
今日も宇宙は平和である。




