待合室の彼女 その19
はい、20話超え、決定(笑)
ここは、辛くも暗殺を免れた本庄社長及びガルガンチュアクルーのいる、秘密会議室。
「敷地内へ入られたのは、予想通りだったとは言え厳しかったな。セキュリティの抜け道は潰したはずなんだが、どこかに抜けがあったか、それとも侵入者達が、それ用の道具を使ったか……尋問してるのはエッタなんで、もうすぐ報告が入るはずなんだが」
そう楠見が言うやいなや、
「ご主人様、例の者たちが白状しました。やはり独特の洗脳術と幼い頃からの刷り込みで、こちらを完全に悪の手先と思っていたようです。全くの逆なんだと理解させるのに骨を折りましたが、侵入者全てが洗脳解除された今、あちらの組織の概要が分かりました」
やること素早いね、と本庄社長。
「エッタさん、ご苦労さまでした。ところで、洗脳状態から解除されただけで本当に全情報を聞き出せたんですか?契約で縛られてて、一時は毒を飲もうとしたらしいじゃないですか、暗殺部隊の隊長格が」
「ええ、それも洗脳が本能に近いところまで行ってたからです。仕事は命をかけてでもやり遂げろ、失敗したら自分の命を持って償え、仕事時は部下の命など気にするな、なんてのが潜在意識に近いところまで刷り込まれて本当に解除が時間かかりました……半日ほど」
エッタの返事に楠見。
「それでも半日で解除可能とはね。教育機械じゃ、ここまで素早くやると精神に深刻なダメージ負うからな、さすがエッタ、元精神生命体というところか。で?雇い主と、その組織の詳細情報は?かなり上位の方だよな、暗殺部隊なんてのは」
「はい、ご主人様。一応、詳細を纏めたものが、こちらに」
エッタが取り出したのは、かなり分厚い報告書。
ばさっと会議デスクの上に置くと、自動的に内部をスキャンして各自の端末にコピーした文章ファイルが表示される。
これは、まだ研究所内と社長室周辺でしか採用されていないオートセクレタリ装置だ。
会議の準備や後始末など、参加者に負担をかけないための装備だが、用い方によると何とも剣呑な雰囲気に。
「これは……本部は、こことは5000km以上離れた小島にあると。組織の中枢は、その小島にあり、そこから支部や末端組織に指令を出している者たちがいる、とね。ふーん……7名の中枢会議と、実行部隊への指令を与える13名の委員会なるものがあって、そいつが組織の中心、と……」
郷の呟きが、周囲にも。
まあ、指摘するまでもない些末なことなので、誰も当人に声をかけない。
黙っている方が、郷の判断が進むから。
しばらくして、楠見が発言する。
「ここまで速く、詳細に組織のことがバレているとは、あちらは予想もしていないだろう。こちらから攻めるなら今だな。本庄くん、身辺護衛は引き続き特殊警備課一班がやるんで、俺達はエッタ、郷、俺とプロフェッサー、後は特殊警備課二班で、敵対組織を壊滅させる。ま、数日もかからんだろう……長くて半日かな?待っててくれ」
「待ってください、楠見さん。ライムさんは今回、同行しないんですか?」
「ライムまで外れると、君付きの秘書がいなくなってしまうからね。いつもいっしょに居る秘書がいないと日常の仕事が大変だぞ?それに、君自身もライムが傍にいて欲しいんだろ?」
「い、嫌だなぁ、楠見さん。そりゃ、第一秘書たるライムさんは、いてもらったほうが何かと仕事がはかどりますし……」
「ま、そんなとこだ。それじゃ、エッタ。特殊警備課二班、集合させてくれ」
「え?ご主人様、今から乗り込むと?」
「思い立ったが吉日ってな。郷、久々にお前にも活躍してもらうぞ。転送で、まずはガルガンチュアに戻るんで、その時に例の万年筆型注射器を用意しとけよ」
「待ってましたよ、師匠。久々にシャクドウマンの出番だ!……って、師匠は?何も用意なしですか?」
「いや、用意はしようと思ったんだが……俺が本格的に怒ると、この星を分解しかねない。俺は今回、軍師側に回るとする」
ドラゴンどころか、その上の破壊神の登場をイメージしそうになって、あわてて妄想から抜け出す郷。
「ぶるるる、とんでもないな、やられる方が可哀想に思えてくるぞ、こりゃ……」
数10分後、闇組織への強襲部隊が揃う。
「気をつけーぃ!休め!俺達は、これから昨晩の暗殺部隊を寄越した組織の中枢部へ奇襲をかける。まあ、俺達も行くんで、お前たちは安心して眼の前の敵を倒せば良い。もしかしたらもしかして、俺が出張るようなことにでもなれば……分かっているだろうが、その時には相手の殲滅になる。情けをかけたいのであれば俺の出番は無いほうが良いぞ」
楠見の説明を真面目に聞きつつも、口元から笑いが出る特殊警備課二班一同。
半分冗談ではあるが、それでも半分は真実だと分かるので、笑いも控えめだ。
「では、一旦、別の場所へ行く。それから急襲する地点まで跳ぶこととなる。お前たちが未経験の技術ではあるが不安も何もない事は保証しよう。では、ガルガンチュアへ」
楠見が言うが早いか、合計14名はガルガンチュアの巨大倉庫エリアへ。
そこから郷だけ別れて、郷専用の肉体改造ガジェットを取りに行く。
30分後、郷が戻り、部隊は今度、惑星上の別地点へと送られる。
「さて、こちらは夜になったばかりか……特別警備課二班は、ここから正攻法で急襲してくれ。俺達は裏へ回って中枢をダイレクトに攻撃する」
「了解です、楠見教官。なるべくなら、教官の活躍が見られないようにさっさと片付けますよ。教官はバケモ、いえ、人外の力をお持ちですから、教官が出た時点で勝敗は決したようなもんでしょうが……言うまでもなく今の時点でも向こうの敗北は必至ですな」
「ふふふ、言うようになったじゃないか、このヒヨコ達が。そうだな、俺の出番が何も無いようなら社長に言って特別ボーナスを出してもらうぞ……俺は軍師役で後方支援に回るとする……ちなみに後方支援が前線に出るようなら……分かってるな、特訓のオマケ付きになるぞ」
冷や汗が出るのを抑えられない特殊警備課二班の10名。
ゴクンとつばを飲み込み、それでも訓練の賜物、サッと散る。
「さて、俺達は裏口からだ。期待してるぞ、シャクドウマンの郷君!」
楠見から激励されるのは、いつぶりだろうと思う郷だった。




