待合室の彼女 その17
さあ、バトルの準備だ!(笑)
ここは、あいも変わらぬ(株)本庄機器開発販売の極秘会議室。
今日も今日とて、社会改革のための計画会議が開かれている。
「アニメやら特撮ドラマやら、ようやく反響が出てきたというところかな。とりあえず、番組内でリアルタイム視聴者アンケートやってみた結果、どうだった?」
楠見の質問に答えるライム。
「それが、結構な割合で就業時間の短縮に関心があるという結果が出ました。デジタルの恩恵ですがリアルで10万人を超える回答があり、その半分弱、およそ48%ほどが番組内で描かれる労働時間に良いとの判断を下しているようですね」
「ご主人様、それを補足すると、とても良い・自分の属している会社も労働時間を短縮すべきだ、という全面賛成が25%、良いと思うがすぐの導入は無理だろう・良いと思うし実現してほしいが現状では難しい、という消極的賛成が23%、それとは反対の、こんなものは社会のためにならん・労働は尊いもので残業や休日出勤は当たり前、という積極的反対が30%、その他も入れて消極的反対が22%という内訳でした。まだまだ、洗脳状態の人が多いようですね。まあ、会社の重役以上だと反対するしか無いとは思いますが……これだけやっても、まだまだ反対勢力が勝っているというのは気が重いです」
エッタが内容を補足するが、それを聞いて本庄社長は気が重くなった。
「これだけやって、これだけ予算つぎ込んでも、この結果ですか……どうなってるんですかね、この世界。洗脳状態どっぷりだった自分が言える台詞じゃないのは分かってますが、どこかで誰かが糸を引いてるような気がしますよ、ここまで酷いと」
「ふむ……本庄くんの意見にも一理あるかもな。ライムは秘書業に徹してもらって、エッタには情報収集に動いてもらうとしよう。何かの団体や、結社のようなものが社会や企業の運営方針に関わっているのかも知れない。個人が関わっているとは思えないが、下手すると国家単位で指令を出してる部署があるのかも……」
「師匠、怖いこと言わないでくださいよ。働けぇー、もっと働けぇーって耳元で誰かが囁いてるのと同じようなもんでしょうが。しかし、俺も師匠の意見に賛成したくなってきますよ、ここまで洗脳解除作戦を展開してるのに、まだ半数以上が洗脳解除に抵抗してるってのが信じられない!彼ら、自分で自分の精神と肉体をボロボロにしてるのが分かってるんですかね?」
郷にも他人事じゃないので(自分の身に置き換えると、身につまされる)憤慨しているようだ。
「メディア展開は続けるとして、情報収集に力を注ぐべきかも。これは根が深いのかも知れない。本庄くんも気をつけていてくれ、俺の推測が本当だとすると、そろそろ、本庄社長を狙う奴が出てくるかも知れない……」
「嫌だなぁ、怖いこと言わないでくださいよ、楠見さん。国家の陰謀で洗脳社会になってるって言うんですか?国家の方針に逆らうやつは闇から闇に葬り去るって?ちょっと、警備の人数とレベルを上げますかね、危険地域扱いで最高度の警備状態に」
本庄社長の発言に、ライムが答える。
「そうですね、表面的には通常警備にしておき、社内のセキュリティ度を最高度にするという形にすればよいかと。敵対組織があるとして、スパイや暗殺者が送り込まれてくるという最悪状況を想定すれば、社内で処理することも可能となります」
おいおい、社内処理って物騒だなとは思いつつ、
「ライムさん、それが良いかと。社外へ迷惑と害意を撒き散らすわけにはいかないですから。敵を迎え入れて、それから追い詰めるってことですね。警備の中でも唯一の、特殊警備課へ発動を依頼してください」
本庄社長の言った特殊警備課とは、通常の営業や工場・研究所勤務とは違う職務を担う者たちのこと。
通常は、各メディアに対して情報を小出しにしていくような仕事をしているが、社長の一言で裏任務が始まる。
それは、社内や社外で、会社や社長・重役は言うに及ばず、社員個人に対して明らかに敵意を持つ組織や個人をターゲットにする積極的防犯と制圧を目的とする。
その課は、またの名を「本庄忍軍」と呼ばれ、そのまたの名を知るものは絶対の安心に包まれるか、または絶対の恐怖に陥ると言われていた。
それが、本格的に動く。
ライムの一言で動き出した特殊警備課の20人は、社内警備に残るものと、情報収集係としてエッタに協力するものに分かれる。
その動きから一週間もしないうちに、それは起こった……




