待合室の彼女 その14
さまざまな裏の動きを解説(笑)
ここは(株)本庄機器開発販売の本社、社長室……の更に奥にある、極秘会議室。
そこでは他社が知りたがっている新製品情報など低レベルの機密情報などではない、本当の意味での極秘会議が開かれていた。
「あのですね……今の文明程度のこの星に、一体なんつー超科学製品を持ち込んでくれたんですか!あれを飛行機だと説明したって誰一人として納得していなかったんですよ、発表会で」
本庄くん、熱弁。
それもそのはず、新製品発表会では彼、本庄くんが開発でも最高責任者だと発表されてしまったから。
製品の説明と百分の一のスケールで作られた新製品、球形飛行機の展示飛行発表会が、本庄社長の指示のもとに開催されたからでもある。
「あれ、大変だったんですからね!球形の飛行機なんて代物、今までに開発どころか妄想すらされたことがないんで取材陣や同業者、商社などへの説明が大変でしたよ。おまけに飛行機だから航空機として必要な書類とかも膨大だったんですから。付随する各種の防災・救助装置や器具のほうが簡単でしたよ。まあ、説明始めた途端、会場が大騒ぎになった製品もありましたけどね……個人用防御フィールド発生装置とか、とてつもない電力を発生させる超小型ジェネレータとか……楠見さん、一応、この星の科学技術で説明が可能な機器や装置ばかりでしたが、あの球状飛行機はギリギリでしょう。理論からして普通じゃないですよ」
本庄くんの熱弁にも関わらず、楠見たちの方は、あっけらかんとしたもの。
「まあ、ギリギリではあるがアイデアとして実現可能なもの、という事で出せるものは全て出したんだよ、今回。大体、この国と他の国じゃ、使ってる災害救助や防災器具が違うってのは、どういうことだ?ある程度の技術発展をすれば、災害に対する要求が高まるのは当然、それを全世界で共有化するのが普通だろうが。それが何だ?この星。最先端の国とそうじゃない国で、火災や災害に使用する機材や装置すらバラバラってのは、あまりに酷すぎる!今回、この会社の名前を使って、全世界に共通な、いや、将来的には、この銀河で共通に使えるようになるだろう防災器具と装置を発表させてもらった。良いことじゃないか?」
「あ、あのですねぇ……これで、どれほどのインパクトを業界に……いや、業界だけじゃない、一般社会に、どれだけの衝撃が走ったと思ってるんですか!例えば、この超小型ジェネレータですが早速、電気自動車や航空機のエンジンに使えないかとの電話やメールがひっきりなしに総務や営業に届くって悲鳴が上がってますよ。個人用防御フィールドなんて、どこもかしこも喉から手が出る代物で巨大商社からは数百万個単位で商談が来てるくらいですよ……私含めて重役連中も、あっちこっちからの巨大な商談を断るのに必死なんですから」
ちなみに、とライムが報告。
「今現在、各商社や製作所が全世界規模で人員を揃えて、我社の近辺に営業所や支店を建てているとのこと。電話やメールじゃ埒が明かないっていうコトらしいですね」
「ああ、それで市内が建設ラッシュなのか。両隣、お向かいさん、裏の土地にも、でっかいビルや工場が建設中って看板、立ってるもんな」
郷が市内を散策してた時に見つけた建設中看板は、至るところにあった。
本庄機器開発販売が広い土地を確保したのは、まだまだ田舎で土地が余っていたからだ。
それが、瞬時にして田んぼも畑もビルや工場に変わり、のどかな田舎の風景が数ヵ月後には大都会と変わらぬ風景を呈するようになる。
まあ、田舎だから商店が少なかったところに一気に建物と人口が集中したので、今の所、市内で一番大きかったホームセンターが、なんとか客の需要を捌いている……
数ヵ月後には巨大なショッピングセンターが建つ計画が進行中(その中に(株)本庄機器開発販売の個人向けテスト販売ブースが設けられる予定だと噂されている。どんな商品が並ぶのか、今から業界ならずとも興味津々だろうが)
本庄社長の気分が険悪化しそうだと気づいたエッタが、議題を変えようと、
「こほん。では、議題を変えまして……次は、どのような新製品を出しますか?私としては、個人用の教育機械などいかが?と思うのですが」
本庄社長、いの一番に発言。
「いや、待ってくれ。あれは、いくら何でも出しちゃダメだろ。知能指数が150超える一般社員が、今、うちの会社にどれだけいると思ってるんですか?全社員の3割超えですよ、正直なところ。社内教育ってことで制限してて、これだけの数値なんですから、製品化して市場に出したら、天才と秀才ばかりの社会になってしまいますよ」
「おや?本庄社長は、社員の知的レベルが高まるのには反対ですか?」
プロフェッサーが疑問を口にする。
「いや、絶対反対ってわけじゃないんです。しかし、教育機械は下手に使うと、まさに社会革命を全力で後押しするデバイスになりかねませんよ。私は、もっと時間をかけつつ、ゆっくりと社会常識や労働時間の考え方、あなた達の言う「洗脳社会」からの脱却を図りたいんです。一気にやってしまったら、社会どころか全世界の経済が根底から崩壊しかねませんよ」
「それは理解できる、本庄くん。しかし、俺達は数十年とかの単位で、この社会を変えていくためにこの星に乗り込んだわけじゃない。もっともっと速く、予定では数年で全世界規模の社会改革を実現させる予定なんだけどね」
楠見の本音が暴露され、驚く本庄。
「本気ですか?本気のようですね。まあ、ガルガンチュアの力と、クルー全員の力があれば多少は強引でも出来るでしょうが。考えてみりゃ、この新製品ラッシュでも業界の常識は崩壊しちゃってるわけですからね。ちなみに、少なからず中小の同業他社が倒産しそうなんで、こちらから合併という形で工場や社員は救ってあります。ドアノブに使われてた模造ダイヤだと思ってたものが、実は本物のダイヤだと知った時の驚きは凄かったですよ。4つばかり売りに出したら、その金で同業他社の救済完了しましたけどね……後、10個以上残ってる巨大ダイヤ、どうすれば……」
「好きにしてくれて良いよ、金や銀のインゴット造ってた時の余り物なんで。たかが炭素の塊なのになぁ……どの星でも高価な宝石扱いって、納得行かないよねぇ……」
楠見の言葉に突っ込みそうになる自分を、ぐっとこらえる本庄だった。
「そうですか、では、何かの場合の緊急換金物とすることにします。まあ、今は会社を立ちあげて一年と少しなんで、まだ金回りが良くないですが、これからは莫大な利益が上がってくると確定されてますからね、当分は使いみちもないかと思いますよ」
ここでプロフェッサーから意見が。
「ところで、ニュースによると、今現在、特効薬もない風土病の一種と思われるものが流行し始めているとか。世間ではスーパーペイン(激痛が突如起きる)病と言われていますが、当社では、どのように?」
「どのように……と言われても。ご承知のように、ガルガンチュアクルーと私がいる状況の我社に、もしもスーパーペイン病の患者がいたとしても、我々の持ってるナノマシンが病原体を駆逐しますよね。特に対策とか、要ります?」
病原菌には無敵の会社だと本庄社長。
「それはそうなんだろうが。ちょいとプランがあるんで……」
楠見の考えたプランは、単純なもの。
営業職を、国内は当然、海外へも一定期間、一定数を送る。
話題となっている企業からの営業なので、当然、あっちこっちから引き合いが来る。
その営業職の社員には予め、たっぷりと(食事に含ませた)ナノマシンを摂取させたり、スーツケースに小さな小箱を10個ばかり持たせたり。
「該当する空港や首都に到着したら、その小箱を開けるだけ。何も入ってないと思うだろうが、とりあえず開けるんだ。それ以外は普通に営業として各国で商談してこい!」
一ヵ月もしないうち、厄介だと思われたスーパーペイン病は徐々に患者数を減らしていった。
原因となった国でも、徐々に患者が治っていくので不思議に思いながらも、病気への勝利宣言なるものを出す。
半年後、全員が帰国した後で社長からの慰労会が行われ、不思議に思いながらも営業社員たちは慰労会を楽しむ。
「説明しても理解してもらえないからなぁ……ナノマシンなんて超技術、つくづく、見えなくてよかったと思うよ、俺は」
本庄社長の呟きを聞き取るものがいなかったのは幸いだろう。




