待合室の彼女 その10
予想通り、10話どころじゃない長編になるのが決定!(泣)
短編好きな方々は、諦めてください(泣)
さて、今日から会社の正式なスタートだ。
とは言うものの、もう既に工場と研究所は稼働を始めており、工場では市販品の、研究所では試作品やモックアップの製作などが行われ始めている。
「さて、と。何とかサマにはなってきたな、本庄くん」
郷さんが茶化すけど、俺自身はサマになってきたどころじゃない。
今朝の正式発足式典では、俺に全てのスピーチに優先する最初のスピーチが任されてたんで大変だった。
文章考えるのに、徹夜したんだからな!
まあ、その割にゃ短くて、3分も続かなかったが。
短くて良かったと思われたのか、やけに盛大な拍手が来たのは受けたからだと思っておこう。
「だ、大丈夫ですかね?スーツ姿、サマになってます?変じゃないですか?」
「大丈夫です。自信持ちなさい、本庄さん、じゃなかったわね、本庄社長!」
ライムさん、励ましてくれるんだろうけど、俺はもう生きた心地がしない。
俺の部下たち1000名の生活と将来がかかった会社がスタートし、俺がその頂点となったんだ。
俺の背中に1000人の社員と、それに数倍する家族の生活もかかってる。
緊張しないほうがおかしい……
楠見さん、あんたらみたいに他人事みたいな気軽さでいられないんだって!
「ははは、本庄くんは生真面目だな。もっと気軽にやらないと、これから数十年は社長業をやるんだから」
楠見さん、気軽に……
数十年?
「え?数年で交替じゃなくて?もっと適格者はいるでしょう!俺なんて元底辺エンジニアのポッと出の社長より、経営手腕確かで頼れる人材が」
俺の狼狽えを聞き逃さず、
「おいおい、ここまでお膳立てしたんだぞ、本庄くんの性格や生真面目さ、責任感などを鑑みても、君が社長に適任だよ。ちなみに、ガルガンチュアで飲食してた事で、すこーしばかりマズイ事態にはなってるが」
マズイ事態?
ど、どういう事?
「も、もしかして、ナノマシンの一部が俺に合わないから、それが異常動作しちゃって遺伝子段階から変質しちゃってるとか?」
「あのな。どんなモンスター小説だよ。違う、そんな事じゃない……まあ、ガルガンチュアの船内に散布されているオリジナルのナノマシンなんで、君の身体的に変質と言えば変質してるんだが……長命なんだよ、これが」
長生きできるのかぁ、良かった。
え?
なんで、長生きできるのが厄介になるんだ?
「も、もしかして、もしかすると……長生きの期間が……」
楠見さんたちは万年単位で生きてるって言ってたな……
「そう、長生きのレベルが違う。少なくとも君個人は1000年位の寿命があると思ってくれ。社長業も、やろうと思えば数百年は続けられるが、そこまでやると生きる伝説になりかねんので、適当なところ、数十年で引退したほうが良いだろうな。お望みなら数千年の寿命も足せるが?」
「いやいやいや、要りませんって!俺は、ただの人類の一人にすぎません。そんな気の遠くなるような寿命を貰っても使いみちがないです」
「そうか……ちなみに、限定的な寿命しかないんで、君の場合は繁殖可能だからな」
うっかり聞き逃すところだった……
「え?俺、子供を作れるんですか?てっきり、長寿の代わりに繁殖能力は無くなったと思ってましたが」
「寿命が数百年伸びたところで子作りできないようじゃ、この宇宙のどれだけの種族が絶滅すると思ってるんだ?数万年どころか、無機生命体なんぞ数億年単位の寿命を持ってるが、子作りは可能だぞ……まあ、その活動はタンパク質生命体の俺達じゃ認識されるまでにはいかないが。生きるスピードが違いすぎてな」
頭がクラクラしてくるような情報が。
しかし、俺が子作り可能と分かったのは一安心。
俺自身、今まであまり結婚とかに興味はなかったが、社長業が落ち着いたら考えても良いかも……
「まあ、それはそれとして。では、張り切って社長業に勤しむとしますかね!」
宣言しちゃ不味かったかな?
ライムさん、俺の言葉を聞いて、次々と来客を通し始めた。
一組30分、それが昼食も食えずに就業時間いっぱいまで、ずーっと会談、面談、商談が続いた……
ちなみに俺の帰る自宅は……
「あ、もうアパートは引き払っておいた。とりあえず仮住まいとしてホテルを使ってくれ。今、社長宅は建設中だ」
と言われて鍵をもらう。
行って驚いた。
一流ホテルのスイートじゃないか。
前金で三ヶ月分、いただいてますって言われたときにゃ何の冗談だと思ったよ。
とりあえず、前のアパートにあった数少ない日用品、段ボール箱に数箱あったんで、トランクルームに預けてるよと言われ一安心。
これから数ヶ月、豪華だけど味気ない(食事は豪華だぞ、ちなみに)部屋で過ごす毎日を送る俺だった。
出社したらしたで、殺人的スケジュールで、あっちへ飛び、こっちへ視察、商談ついでに食事の毎日だけど……
秘書として有能なエッタさんとライムさんが補助してくれているので、俺は指示通りに動いて人と会い、商談を纏めて総務部に投げるだけ。
重役の方々も、それなりに忙しいとのこと。
俺クラスではないが、大企業と言われるところの部長や重役クラスとの会合や飲み会が毎日のようにあるらしい。
まあ、アルコールの強制分解はナノマシンがやってくれるんで、体を壊すようなことはないらしいが。