待合室の彼女 その3
そろそろ、ちょっとした危機状態に(笑)
数年ぶりに、よく寝たなぁと思えるほどに寝た。
頭もスッキリ、心地良いベッドの中での目覚め……
え?
はぁっ?!
か、会社へ行かなきゃ!
「だ、誰かぁ!俺をここから出してくれぇ!仕事が残ってるんだ!会社に行かなきゃ!」
パニック起こして部屋から出ようとする俺を止める……
え?
「あんた、誰?」
俺の眼の前に、どう見ても成人女性とは思えない、女子中学か高校生位の年齢の女子が、いわゆるメイド服着て立ってる。
「あれ?忘れたの?ライムですけど」
「いやいやいや、俺の思い違いじゃないなら、ライムさんってのは、こうスラッと背が高くて、それでいて肉感的でピッチリ目の服を艶やかに着こなしてて……声も違うんですけど?本当にライムさん?妹さんとかじゃなくて?」
別の意味でのパニックになってる俺の目の前でライムと名乗る少女は……
「あ、そうだった。もうガルガンチュアに戻ったんだからと変身解いて通常の少女に戻ったんだっけ……じゃあ、あなた、本庄さん向けの姿に……」
そう言うと少女の姿をしていた「何か」がドロっと溶けるように流れ落ち、数秒後に俺の知ってるライムさん、彼女の姿になる……
「ふふふ、その恐怖の目、久しぶりね。ガルガンチュアにいると、キャプテンを始めとして不定形生命体に親近感感じる人たちばかりなんで、この視線と感情は新鮮なのよ」
ライムさんの声、俺が知ってる彼女の声だ。
「ライムさん。あんた、何者?人間じゃないのは確かだね。不定形生命体?ドロドロの姿が基本形?あ、それで腕を掴まれた時に冷たかったのか……死者とか言ってたけれど、全然別の生命体だったんだな」
「そう、私は不定形生命体という種族。擬態と言うより、どんな生命体にもなれるのよね。基本的に血液なんてものはないので、どんな姿になっても体温が低いってことで気づかれたりするんだけど」
恐怖は薄れていく。
どんな形態をとるかなど関係ない、俺は彼女、ライムさんに一目惚れしたようだ……
「そうだ、忘れてた!会社、会社へ行かないと!ノルマもあるし昨日からの仕事の残りも山のようにあるんだ!俺の部屋へ送ってくれないか!なあ、頼むよ!」
一気に喋る俺の表情を見つめながら以前にも増して、ながぁーい溜息を一つする、ライムさん。
「本庄さん、あなたは当分の間、ガルガンチュアから動けません。自分で気づいてないのでしょうが、あなたは社畜状態、それも底辺とまで言っていいブラック企業もいいところの会社にて洗脳されてしまった状態にあります。会社への辞表は、こちらで出しておきました。会社として退職金すら出したくないって方針らしいですが、あまりに酷いので、こちらも裁判に出る状況になります……あ、安心してください、本庄さんは何もしなくて良いですから。洗脳状態を解除するには日数がかかりますので、その間はガルガンチュアでリハビリするような形になりますね」
それを聞いた途端、俺の身体から力が抜ける。
今まで張り詰めていた何かが切れてしまった……
「本庄さん?本庄さん?!キャプテン、郷さん、プロフェッサー、エッタさん!こちら本庄さんの部屋です!緊急です!」
ライムさん、何を言ってるんだろうかと思いながら俺の意識は黒く塗りつぶされていった……




