消えた銀河の謎 その五
そもそもの原因と、その解決策の糸口です。
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その部屋を沈黙が支配している。
沈黙に耐えきれないのか、ため息と共に一人の人物が話し始める。
「リアル宇宙の現状を詳細に説明していただき、心より感謝する。しかし、我々が未来へ逃避した理由をご理解いただきたい。虐殺と略奪、そして、生まれた星すら容赦なく破壊する侵略者たちの侵攻を阻止することも出来ず、銀河の周辺部を犠牲にしながらも未来へ逃げることしか出来なかった当時の我々は、悲惨な光景を遺伝子にまで深く刻みすぎたのだ。確かに、今現在、リアル宇宙に戻るべきだと考える者たちもいる。いるが、それは、まだまだごく一部の者たちなのだ。我々は、恐ろしいのだよ……数万年前に受けた先祖の衝撃的光景を忘れられない我々は、引きこもった部屋から出られないのだと白状する……」
楠見は万年単位というあまりに長い逃避、引きこもりの原因が分かり一安心と共に根の深さも理解する。
「理解は出来ましたが、この銀河の特殊性故のことだったとは……あなた方は種族全てがテレパスだったんですね。それも、ずいぶんと強力な」
「そうだ、その通り。だから、あなたのような超強力なテレパスだと、我々にとっては蛾の集団が巨大な炎に惹かれるように吸い付けられるのだ。まあ、あなたの精神が邪悪なものではないので我々が精神的に染まることもないのが幸いなことではある」
はぁ……
楠見は頭を抱える。
こんな大規模な逃避、種族どころか銀河単位で引きこもりという、そもそもの原因が、その当時の先祖たちが受けたトラウマが、残留思念(一種、幽霊のような形だと考えると分かりやすい)として種族全体に染み付いた、というか、残留思念に取り憑かれてしまった犠牲者と言うか……
まあ、そんな思念に取り憑かれたまま数万年という長い時間、未来という逃避ポイントで暮らしてたわけだ。
「どうします?今現在、宇宙は平和になってますよ。ちょっとした勇気を出せば、ここから出て、お隣の銀河に住む方たちとも友人になれるはずです。確かに数万年前には侵略者でしたが今では友好的になり、帝国制から共和制を経て今は緩い連邦制を敷いていますので、あなた達が申し出るなら相手からの謝罪も可能です。しかし……まだ、ここから出る踏ん切りがつきませんか?」
うーむむむ……
し、しかしなぁ……
本音を言えば、そろそろ引きこもり状態から脱却したい。
しかし、それを実行するには、あまりに心に植え付けられてしまったイメージが強すぎ、この「ぼっち」状態が心地よくもあり、今一、踏ん切りがつかない。
「うーん……困った状況になりましたよね。そうだ、提案があるんですが、いかがでしょう?」
「提案?強制的にリアル宇宙に戻されるのなら、それは我々の意思を無視するということだが?」
「いえいえ、そこまでの強硬策ではありません。あくまで今のところアイデアだけなんで、私のベースとなっているガルガンチュアへ戻って、他の者たちと相談することになります。上手く行くかどうか、実現可能かどうかも分からない次元ですが、どうです?自分たちが知らないうちにリアル宇宙へ戻っていたとしたら?」
「まあ、ショックを受ける者たちもいるだろうが、その時には時間転送装置の故障と説明すれば良いだろう。その故障が長く続くと説明すれば、リアル宇宙に留まり続けても不思議ではないだろうが……そんなことが可能かね?」
「あくまで、今の段階ではアイデアなんですけど。まあ、星系一個と、いくら小さいとは言え銀河一個丸々とは、比べ物になりませんが、星系までなら銀河間どころか超銀河団を移動させた実績もあるんでね」
「何だと?一つの星系ごと、超銀河団を渡ったというのか?とても信じられんが……まあ、信じるとしよう。それで、解決策とやら、いつ頃になれば実施できるのかね?」
「うーん……こればかりは……未だ、やったことのないレベルですので。ただ、実行不可能ではないと言っておきましょう。今回は、ここでリアル宇宙へ帰りますが、そう遠い未来のことじゃないとは思いますよ」
「すまんな、我々の意思と言うか、祖先の引きこもりの意思が強すぎる。我々では、自由意志でここを引き払うことも決定できんのだ」
期待を込めた眼差しで、俺達を見てくる。
まあ、なんとかしてやらなきゃぁな。
という事で、リアル宇宙へ戻ってきた俺達は、全てのクルーを集めて技術上の問題点を考えている。
様々な問題点と解決策が示されていく……




