銀河のプロムナード 巫女姫のため息 その2
日常が、ほんのすこし狂いだします(笑)
今日も巫女姫マリーは悩んでいる。
「世の中は平和だけど、私はちっとも平和と平穏じゃない。あいも変わらず緩やかな軟禁状態……まあ、私が普通に町中に出ちゃったら大変な事態になると分かってるから、そうそう外へ出るのも自粛してるのもあるんだどさ。はぁ……たまに外出くらいしたいよねぇ。このままじゃ、どっかの星の神話じゃないけど岩屋の中に引きこもって出てこない女神様だよねぇ……あーっ!なんで私は、あの時にガルガンチュアに乗らなかったかなぁ……」
いつもの愚痴だと自分でも理解はしてる。
しかし、こればかりは、どうしようもない。
自分が選ばなかったポイントからの仮定の未来は予知もできないし、そもそも時間線が伸びているかどうかも分からない。
だらだらと愚痴がこぼれる中、ふいにインスピレーションが来たと感じた。
「何?このアイデア……これを実現させたら、もしかしたら……」
巫女姫は、天啓と称した画期的なアイデアを部下たちに説明する。
しかし、そのアイデアは星系どころか銀河全体を巻き込んだ。
「巫女姫様のクローンを大量に作るだと?!そんなことして大丈夫なのか?」
「巫女姫様ご自身のアイデアなんで、不敬なのかどうかは不問としてもな。まずは、あの未来予知能力そのものが、クローンを作成した場合に受け継がれるのかどうか?という基本的な事から考えねば」
「いや、基本的に遺伝子は同一だが、精神は違ってくるはずだ。ということは、脳の構造は同じでも中の回路が違うと思えるんで、万に一つも同じ能力が発現するとは思えんのだが……」
「いやいや、博士。完璧なクローンなら基本的に脳の構造は同じはず……ということは、今の巫女姫様の脳領域マップを作って、それを転写してやれば同じ人間が作れるんじゃないのかね?」
「脳が精神の容れ物なんて実証も実験もされとらんぞ。仮に脳領域マップの完全版が手に入ったとしても、それをコピーしたところで同じ精神構造となるなんて保証は、どこにも無いんじゃよ、大臣」
侃々諤々の論議が始まったが、いつまで経っても結論は出ない。
未来予知の能力など、巫女姫以外に所持する者が皆無だからだ。
あまりに貴重で希少なサンプルとして、巫女姫のクローン計画は慎重にスタートすることとなった。
「では、姫様。サンプルの遺伝子を採取させていただきます」
実際には、血液や唾液、汗などが巫女姫の体から採取されることとなる。
「計画は順調かしら?予知能力者が銀河全体でたった一人ってのが、この事態のそもそもの原因でしょ?それなら、予知能力者を増やせば、この過剰警備も解消されるんじゃないかと思ったのよ」
「はい、クローン製造のための研究設備も拡充され、姫様のサンプル待ちという状況です。とは言うものの、姫様のお力そのものが貴重で希少な為、クローンが同じ力を持つとは言い切れませんが……」
「それは保証できないでしょうね。そのために未来予知することもできないわ、これは私自身の未来予知と同じことなんだから……」
これより、巫女姫量産計画がスタートすることとなる……この計画による銀河の未来が、ほんの少し変わったのは事実なんだが……




