漢は黙って…… 参
学校へ通う……と思ったら……
初登校の日が来た。
「太二、分かってるだろうが、お前の力は人間離れしてる。何の気なしに振るった力でも、お前クラスだと簡単に死ぬから充分に考えてから喧嘩しろよ」
「嫌だな父さん、身にしみて分かってるよ。お隣のドーベルマン、可哀想だったなぁ……」
引っ越しの当日、お隣で飼われている大型犬、ドーベルマン二頭が太二が無意識に出していた殺気に反応して突然に襲いかかってきた。
太二くんは軽く払ったつもりだったんだろうが、二頭揃って吹っ飛ばされ、その後、犬小屋から出てくる気配がない。
お隣のご主人は、あの二頭は躾が出来なくて困ってたんです……などと逆に感謝されてしまったが、太二くんは自分と周囲の力量の違いを認識せざるを得ない結果だった。
見た目には筋肉モリモリの体型ではないため、余計に見た目と実力のギャップが凄い太二くん、朝食を食べ終えて学校へ。
初登校は先方より少し遅い目で、などと言われていたため、始業時間を少し過ぎてから校内へ。
教師に誘われて、太二くんは教室へ入る。
「えー、みんなに転校生を紹介する。楠見太二君だ。ほら、楠見くん、自己紹介したまえ」
教師に言われ、太二くんは黒板へ自分の名前を太書きで書く。
「……っと。楠見 太二と言います。小学校3年の頃から父さんについて、とてつもない田舎で暮らしてました。常識が分からないことも多いので、皆さん、どうかご指導お願いします!」
……ド田舎で暮らしてた田舎者という先入観を持っていた担任教師、太二くんのハキハキして世渡りの上手さを感じる挨拶に、違和感を感じる。
「太二くんの席は、あそこに空いてる席があるんで、そこに。少し聞きたいんだが、君の会話の上手さのようなものは、お父さんから習ったのかい?」
問われた太二くん、
「あ、はい。父さんは無口なほうでしたが、ティーチングマシンが基本教育は全て教えてくれましたので。ただし、今の社会常識は社会生活の中で学べと、父さんが学校へ通わせてくれたんです」
「ティーチングマシン?斬新な教育方針だったんだね、君の家庭は」
「あ、はい。斬新と言うか、鬼と言うか、あれは人間じゃなかったと言うか……」
太二くんの瞳から光が消えて、闇が溢れ出しそうになる。
あわてた担任、
「あ、すまん。辛い思い出だったようだね。落ち着いて、皆のレベルに付いてこれるように頑張ってくれたまえ」
その後は普通の授業風景……になるかと思いきや。
「楠見くん、か。永語は私が教えるレベルどころじゃないな。きみ、普通に外国人と会話が出来るレベルじゃないか?」
「あ、はい。永語読語井語布津語に駐獄語は方言まで入れて5種類、一応、人工言語も会話は可能となってます」
教師のため息が教室に響き渡る……
かと思えば……
「く、楠見くん!今の時間は複素数という概念を教えてるんであって……」
「はい?ですから、虚数空間の実在証明と、それを基本とする空間エネルギーの予測値を……」
「いやいや!それは中学じゃない!高校どころか、大学院で教授レベルの人たちが議論するレベルだろう!無茶苦茶だな、君の身につけた教育レベルは……」
また、別の時間。
「えーと……楠見くんは、これからは私の補助をしてもらおう。まあ、運動能力は私の数倍あるんだろ?」
「あ、はい。指立て伏せが数100回できるくらいですが」
「はぁ……そうですか。君、中学へ来る意味がないんじゃないか?」
「いえ、先生。父さんが、学校は友人を作る場だと言ってました。僕は、そのつもりで来てます」
「あ……まあ、そうなんだろうな」
放課後、校長以下教師全員と教育委員会の会議により、太二くんは飛び級で、次の日から中学三年の教育を受けることとなる。
あまりに太二くんの能力が高すぎて、中学では教えきれないと結論付けられた。
中学三年なら大丈夫かと言うと、それでも飛び抜けすぎているとは思うが。
一ヶ月後、試しに大学の入試試験問題を太二くんに解かせてみたが、あっさりと満点を叩き出す。
「父さん、僕、もう学校へ行かなくても良いって言われたよ。大学も卒業資格ってのを貰えるらしいんだ」
あまりに突出しすぎた能力を持つ太二くんを受けいれるだけのレベルにある学校は、どこにもありませんと教育関係の官庁がお手上げ状況を宣言するのは、その数日後。
父親が、どうしても学校へ通わせたいと役所へ文句を言ったら、その返事として官庁から大臣名入りで詫び状が来た……