特殊能力、開発します。 11 最終話
いつもの通り、最終話です。
さて、次の話は……
僕は気を引き締めて、物騒な方たちの集まってる部屋へ。
ドアを開けると、イヤーな感情の波が僕に向かって襲いかかってくるように感じる。
まあ、これでも、この人たちにしては感情や思考を抑えてる方なんだろうな(強力なテレパスなら、すぐに殺意を感じ取れるだろうに。これで精神制御をしてるとは思えないよ。肉体的にはプロフェッショナルのテロリストやスパイ、暗殺集団なんだろうが、精神的には幼稚もいいとこで。まあ、こんなだから洗脳されちゃうんだろうけどね)
「えー、ここにいる方々は、とある事情で他のスカウトやリクルーターの方々と分離させていただきました。まあ、ご自分の心に聞けば、理由はすぐに分かると思うんですが」
僕は、まず隔離(だよね、この状態)しました宣言と、その理由をほのめかす。
「えー……私は、**会の者ですが。様々な国や主義主張の団体と組織の方々が一緒になってる理由が分からないんですが。ちなみに、うちは右翼系ですが、あそこにいる組織の方々は、うちとは水と油の左翼系団体の方々ですし」
一山いくらにもならない右翼系とは名ばかりの暴力集団さん、あなたの脳筋頭脳じゃ理由も推察できないでしょうね。
席が隣同士だったら、殺し合いが始まってたかも知れないなぁ(笑)
「はい、一部の方には理解不能かも知れませんね……じゃあ、実力行使と行きましょうか……」
僕は、集中力を高めてテレパシーを最大強度で、物騒な組織や団体の代表者たちに送り込む。
途端に、そのまま気を失って崩れ落ちる者、抵抗しようとして気力と精神力の無駄遣いをする者(一瞬後、こちらも気絶する)、銃やら短刀を懐から出そうとして、そのまま固まってしまう者たちもいる。
一番危険な、爆発物を体内に飲んでいる者。
こいつには、慎重にも慎重を重ねるように、僕がこの場へ出る数日前に作った簡易パラライザー銃(モデルガンを原型にして、中身を入れ替えた簡単なもの)で身体の自由を奪わせてもらう。
公共施設を借りているので、こんなところで爆弾騒ぎなんか起こせないからね。
僕の目の前で全員が椅子から崩れ落ちたところを確認して、僕は警備員さんたちへ入室許可を出す。
施設の外では警察が団体で待ってるから、そちらへ全員、引き渡すように言って、僕は別の部屋へ。
正規のスカウトやリクルーターの方たちには、待たせたお詫びをし、もう安全ですと伝える。
「何だったんですか?最初の人数から3割ばかり減ってますが。そちらが本命だったとか?」
スカウトの代表者みたいな人が聞いてくる。
「いえいえ、そうじゃなくてですね。実は、スカウトやリクルーターに混じって、スパイ組織やテロリスト集団、暗殺を主とする邪教集団などがいまして。その方たちを今しがた、無力化してから警察へ引き渡したって話です。皆様の安全を考慮して、こういう事後報告にならざるを得なかったことを陳謝します」
完全に納得はしていなかった様子だけど、体内に爆発物まで飲み込んでる人もいましたのでと言うと、冷や汗と共に納得してもらえたようで。
「で、最初にお断りしておきますが、僕は特定の会社、企業団体、政府機関、軍には所属しません。その理由も、お話します」
ぐるっと見回しても、質問者はいないようで。
「はい、では理由をお話します」
僕は、ようやく席に着くと、用意されていた水分を採る。
毒物も何も入ってないのは確認済みの水で喉と口を潤すと、
「まずは、僕がマルチ能力者であることが主な理由です。それも、テレパスS、サイコキネシスAの上、おまけに超知能まで付け加えて、三要素のエキスパート……これは、前代未聞の話だと聞いています。誰が上司となろうと、僕を使いこなすのは無理でしょうね」
あっけに取られたような顔。
そりゃそうだ、今まではテレパシーとサイコキネシスの二つだけって聞いてたんでしょうから三つも超常能力を持つもの自体、僕が初めての存在じゃないかな。
「そして、これが肝心なんですが僕が一つの組織に所属したとすると、その組織が否応なく目立ちすぎてしまうこと。ですから僕は国や組織、団体、会社などに縛られることのない、自分のみで善悪や意思を決定できる機構と言うか組織を作ろうと決めました。なので今後、僕の作り上げる組織や機構に興味ある方以外、お帰りください」
さて、宣言しちゃったからには、やり遂げないと。
数年後……
東堂グループという巨大コングロマリット(複合企業)になってしまった総帥、東堂 卓。
今日も今日とて大忙しの毎日。
「司令部!大陸北部の火事は、なんとか鎮火したぞ。他の地区は、どうなってる?」
「総帥、他の地域も地区も順調です。総帥……いつも言ってますように総帥が現場にいたんじゃ本部と本社が身動き取れませんよ!至急、お戻りください」
「ははは、まあ、俺がいなくとも優秀な秘書軍団と総務部隊がいるじゃないか。俺は完全鎮火を確認してから戻るよ」
あいも変わらず巨大企業体の総帥が板につかない東堂くんである。
彼の創設した会社は最初、災害救助資材の新規開発から始まった。
資材から資材を運ぶ運送へ(世間が、あっと驚く球形宇宙船が、その運送手段。その速さと積載量、機動性は車の比ではない)
次は人材。
災害救助というものに特化して、戦争や地域紛争にも災害救助部分だけで参加するという徹底ぶり。
地域紛争も戦争も人間がやめれば終わりだから勝手にやりたいだけやって頂戴な……
というクールな見方をする企業。
その機材と宇宙船、そしてあまりに鮮やかな災害救出と復旧作業に企業ごと取り込もうという国家や勢力は、いくらでもいた。
しかし東堂総帥をはじめとする企業体質は揺るぎなくヘッドハンティングしようにも条件が合わなすぎて撃沈していく。
そのうち惑星規模の洪水や山火事、大地震など激甚災害が頻発すると国家を超えて東堂グループに声がかかることとなる。
「我々は、この星の裏側だろうと、あの衛星だろうと数分もあればたどり着ける。それを阻んでいるのは国家の壁。いっそ国という枷を外してもらえないだろうか?」
東堂総帥の救えるものも救えない発言に大国エゴもあって反発したが結局は東堂グループを地球の始末者、救済者として認定するということで救助依頼があれば即、出発できるという事が可能となる。
そのうち国家という枷が本当の意味でなくなり惑星統一政府ができるのも時間の問題となるだろう。
ちなみに東堂総帥、テレパシーもサイコキネシスも普段使っているため更にパワーアップしていた(超知能も含めて)
社員の噂では、
「東堂総帥が水ようかんや饅頭を食べてる時は要注意だ。何か事件が起きそうな予感がするんだとさ」
などと言われているとかいないとか。
ちなみに、そのころ、ガルガンチュアは、もう別銀河への旅に出ている。
「郷、今回は少し趣向を変えてみたのかな?少年に脳領域開発、大丈夫だったのか?」
「ええ、師匠。まあ元々から弱いテレパシー持ってましたんで、ちょうど良いタイミングで改良型の教育機械を試せましたよ。あの東堂くん、最初に精神と脳領域の測定をやったんですが……師匠、彼に仕込んでましたよね」
「う、鋭いな、郷。その通り、睡眠中にデータチップの内容だけ刷り込ませてもらった。基本も理論も何もわからない状況でデータだけを彼の脳に焼き付けたってことなんだがね」
「まあ、その甲斐あって改良版教育機械の方も順調に進みましたが。一つ聞きたいんですが脳領域開発が最後、100%まで決して行かないのには理由があるんですか?90%くらいまで行くと少し容量を残した状態で脳領域開発完了となるんですよ」
楠見は自分で自分の最終脳領域の開発を許可してしまったが、それは禁忌を犯すことにも繋がりかねない危険なもの。
「郷、人間には謎が少しだけ必要なんだ。それを無くしてしまうと独善の罠に陥る恐れがある」
「意味不明の回答をしますね師匠。まあいいや、いつか脳領域の秘密を話してもらうとしましょう。じゃあ、ガレリア。もう不要となった、空き部屋を事務所に仮装した貨物室、元に戻しておいてくれないか。あれは助かったけれど転送装置って、あんなスムースに動作したっけ?」
「郷さん、それは私の発明品です」
にゅ、と顔を出したのはフィーア。
「私が船内転送機を改良して転送時のショックを1%以下まで低減させるアブソーバーを開発しました。ちょうど良かったんでガレリア姉さんに使ってもらったんです」
「そうだ、私はフィーアの実験につきあっただけ。このアブソーバーにより今まで船内転送機は船外の距離では使えなかったが、それが十倍以上の距離で安定して使えることとなった。通常転送機にも装備できるとのことなんで惑星上陸作業に搭載艇を飛ばすことなく秘密裏の行き来に使えるようになるぞ」
いつもの如く、お気楽に銀河を救い、また旅立つ。
ガルガンチュアの行く手には、まだ知られざるトラブルと生命体、文明が待つ。




