特殊能力、開発します。 5
ついに、サイコキネシスが発動します(緊急発動なんですが)
その日は何事もなく授業も終わって、日課となった能力開発も終了。
無性に腹が減るんですが?
と郷さんに聞くと、
「ああ、それは能力開発が進んだ証拠だよ。脳領域の開発が進むと、どうしても糖分の必要摂取量が多くなってくるからね。そのままで良いと思うけど食費がバカにならないと思ったらジャンクフード屋の半額チケットがあるんで、それを複数枚あげる。とりあえず、それで大丈夫だろう……まあ脳領域開発が全て終了してしまえば、そんなこともなくなるのは証明済みだけど」
え?
最後の言葉、僕は聞き逃さなかった。
「郷さん、証明済みって言いましたよね。この異様に腹が減る現象も頭の中のモヤモヤが晴れていくような感じも全て過去にデータ取得されてるんじゃないんですか?僕は、ひょっとして、その追体験と言うか、データを追体験したというか……」
郷さん、少しすまなさそうに、
「そうなんだ、まあ、初めての体験者は俺でもなきゃ君でもない……正確に言うと俺の上司。彼、最初は君より低い能力しか発現していなかったが教育機械などという優しいトレーニング方法じゃない、とてつもない原始的で荒っぽい方法ではあるが君に優るくらいの急激な成長を見せたとデータがある。しかし、これは君にお勧めできる方法じゃない。下手すると実験対象が発狂しかねないという危険な方法だから」
うわぁ……
いくら最初は手探りと言えど、チャレンジャーだな、その人。
「成功したから良かったですが、一歩間違えたら、とんでもない事になってたんですね」
「ああ、発狂してたら俺達がここにいて君と話してる、この状況そのものが無かっただろうけど。縁というのか宿命というのか……宇宙のさだめの奇妙さと言うか……」
そう話す郷さんの表情は何だか遠いところを見てるような視線が入ってた。
まあ、それはともかく僕は郷さんから半額チケットを数十枚もらい、ジャンクフード屋で食欲を満たす。
日を追うごとに食欲は増していくようで能力開発作業前なら絶対に食べきれないくらいのハンバーガーやサイドメニューの山を、見る間に食べ尽くしていく僕がいた。
周りの学生やビジネスマン、僕を見る目が凄い。
でも空腹には勝てないんで、視線を無視して眼の前の食べ物の山をザックザクと食べていく。
小山に近い量の食べ物・飲み物を30分もかからずに食べ尽くすと、周りから、ホーという賛嘆のような、信じられない物を見たような悲鳴に近い声が聞こえた。
「また来てねー」
ジャンクフード屋の主人から、もう常連と見なされた僕にいつもの声がかかる。
まあ、毎日のように来て数人前を食べ尽くす常連さんなんてのは客引きとしても優秀なんだろうね。
満腹感に満たされながら交差点を渡ろうとすると……
「キャーッ!」
女性の悲鳴と共に、僕に向かってくる一台の車……
信号無視で突っ込んできた、警察車両に追われた犯罪者の運転する車だというのは後で分かったこと。
僕に向かって一直線に向かってくる車に対し、僕はその時、不思議と危険だと思わなかった。
どうしたのかって?
猛スピードで向かってくる鉄の塊に対し僕はすうっと片手を伸ばすようにしたという(周囲にいた証人の話)
自分じゃ気づかなかったけれど無意識に念動力、たぶん、サイコキネシスだろうと思うんだけど、それを発動させたらしいというのは自分で分かってた。
グワシャーン!
巨大な壁にでも衝突したような衝撃で、僕の伸ばした手の50cmほど先で車だったろうスクラップの塊が出来ていた。
見てた人たちの話によると、その後数秒ばかり、僕はその姿勢で立っていたらしい。
そして、その場に倒れたそうだ。
僕が目覚めた時、両親の姿があった。
どうやら病院へ運び込まれて様々な検査をしてくれたようで。
「怪我も何も無いのに意識がないということで心配したんだぞ!お前、何をやったんだ?うちの家系に超のつくほどの能力者はいなかったんだが……命の危険を感じて目覚めたか?」
父親が語りかけてくる。
「僕にも理解不能だよ、父さん。無意識だとしか言いようがないんだ。まあ、能力開発作業やってるんで、こういう事になっても不思議はないと思うんだけど」
言った途端、僕は後悔した。
特殊能力開発研究所(株)のことは家族にも言ってなかったから。
その後、脳にも異常なしという医師のお墨付きで家に戻った僕は両親からの質問の嵐に遭った……




