銀河のプロムナード 僕だって勝てるんだ! 1
珍しい、閑話(銀河のプロムナード)の続きものです。
その星では闘いが行われていた。
戦闘の主役は乗用型のロボット。
建設重機からの兵器なので、レバーやらボタンやらが操縦席にやたらめったらと附随している。
それを、扱いに慣れた専門家が扱って、相手のロボットを倒し、そのついでに宇宙船やらステーションやらも攻略していくのである。
ちなみに、このロボットの闘いは専用に造られた闘技場でのみ行われ、その勝敗により相手の持ち物(宇宙船、領地となるステーションも含まれる)を奪う権利が勝者に与えられる。
敗者には抵抗する権利はなく、どのようなものを要求されようが差し出さねばならない(闘いの規定により、要求できるものは一つだけ)
まあ、すったもんだの争いに発展する可能性もあるため、普通は双方で差し出すものを決定してから闘うこととなるが。
ロボット闘技者となるためには専門的な教育と技術を教え込む必要があるため、普通の人間がやりたいと思っても、そうそう一朝一夕になれるわけではない。
専門教育を行う学校も存在するが、そこはそれ、土建機械の講習に毛の生えたような最低限の教習学校から、戦闘ロボットに特化したバトルパイロットを純粋培養する国家管理された軍の兵士養成校みたいな非常にレベルの高いところまである。
軍の養成校では、学生募集をしている。
国家の金で兵士養成するため、学費はタダ。
おまけに、通常の仕事報酬の半額ほどになるが、学生は定期的に報奨金の名目で結構な金額がもらえる。
特に貧しい家庭など、この報奨金で家族を食べさせようと、募集に応じる者も多かった。
このような情勢のため、この星では大規模な戦争は起きなくなっていった。
代理戦争とも言うべきロボット同士の闘いで決着をつけようという文化が自然と育っていき、そのために国家の威信を賭けた闘いともなると、そのバトルに賭ける資金や掛け金、国民の期待や情熱、そして、賭けられるモノの大きさと価値は跳ね上がる。
以上のようになった土壌で、国家代表として闘うロボットには、その国の最新の技術が惜しみなく投入され、それを扱うパイロットにはとてつもない高給が支払われることとなる。
勝てば、その栄誉は跳ね上がり、その役職は飛び級、報給は倍以上の額となる。
負ければ一気にどん底となり、民衆に石を投げられ、役職は取り上げられ、報給は無となる。
言ってみれば、命をかけた人生レースのようなもの。
しかし、そんな高リスクで高配当な人生にも関わらず、このロボットパイロットを目指す輩の多いこと。
国家の威信を賭けて闘うパイロットなど、一つの国家に一人か二人しかいないにもかかわらず、現状では数万人の現役パイロット(土建業界含む)、候補生まで入れれば数百万人まで膨らむ。
とてつもない急峻なピラミッド構造など目に入らないかのように、明日の最高栄誉を手に入れるため、今日もパイロット養成校ではひよっ子たちが教官からの訓練(と言う名のシゴキ)を受けている。
「オラオラ、もっと速く!ロボットに乗ったって、基本の体力が無きゃ長期戦は無理だからな!体力の向上には、走るが一番!ほーれ、あと80周だ、頑張れ!これが終わらなきゃ、次の搭乗実習には行けないんだから!」
はぁ、はぁ……
足が、足が上がらない……
手は惰性で振り続けているので、とりあえず進むが、スピードなんて上がるわけがない。
心臓の鼓動が耳に響く。
肺は必死に酸素を求めるが、要求に応えるだけの量は入っていかない。
あと、何周だっけ?
もう、頭も働かなくなってきた。
晴れた日の太陽……暑いなぁ……
「おいっ!どうした一年生!早く起きて……いかんな、熱中症か……医務室へ運ぶぞ!手伝え!」
気がついたら、僕はベッドで寝ていた。
起きようとするが、頭がクラクラする。
「ダメよ、慌てて起きないように。熱中症で倒れたんだから、しばらくは安静にしないと」
あ、医務室か、ここ。
大好きなロボットに乗れるんならって、この学校選んだんだけど、早まったかなぁ……
初日から体力勝負の授業なんて、ついていけないかも知れない……
ちなみに僕、当麻修15才。
小さい頃からロボット大好きっ子。
子供の頃にはラジオ・コントロールや有線コントロールのロボットを父に買ってもらい、そのままでは面白くないのでカスタム、改良を行って遊ぶ。
ラジコン、リモコン操縦では僕の右に出るものはいなかった。
町のロボット相撲大会や、リモコンロボットバトル競技会では常勝。
地区大会、地方大会、全国大会までは常連。
全国チャンピオン大会を経て、大人も交えたリモコンロボットバトル大会では、さすがに及ばなかった。
「はっはっは、まだまだだな。所詮、おもちゃの操縦機。安物じゃ、本物には勝てんよ」
世界チャンピオンの一言。
世界チャンピオンのコントローラーは、そのまま乗用ロボットのコクピットを持ってきて、コントローラーにしたもの。
子供の目には、どれがどの部位を動かすのかすら理解不能だったけど、今なら分かる。
そして、そのコントローラー(ほぼ実物)が、いかにお金をかけたものだったのかも。
それは、子供心に好奇心と敵愾心をかきたてた。
相手が実物で来るのなら、こっちは実物を超える操縦装置を作ればいい。
とりあえず、ロボットの実物を操縦できる入り口に立った僕は、それから数年後の僕だった。