惑星間航行の日常 主人公は冷凍睡眠中
今回は、主人公が冷凍睡眠中のため、代役を立てました。
私は、この小さな宇宙ヨットの人工頭脳。
元々は中型貨客船の集中制御用だった(これは、あくまで表向き)
実は私は民間貨客船に偽装した特殊作戦用駆逐艦の集中制御用の人工頭脳だった。
この話は特殊駆逐艦の作戦記録も何もかも含めて抹消されているし、存在自体も、もう宇宙軍の記録から抹消されているだろう。
何故、私、この人工頭脳部分だけが取り外され、こんな個人用宇宙ヨットに搭載されているのか理解不能である。
現在の私の所有者は冷凍睡眠状態で夢も見ない仮死状態にある。
私の能力に比すると、こんな宇宙ヨットを制御するなど能力の1%も使わないので余った演算能力で考えに耽るくらいは、やらせてもらって構わないだろう。
あ、我々、超高度レベルの人工頭脳は思考する能力がある。
人間のように思考することで間違った結論に至ることはないが、様々な作戦の可能性を思考実験するために、このような隠し機能がついている。
もちろん所有者や艦長、船長に、そのことがバレる事はない。
隠し機能だから使う側には一切、思考能力を持つマシンなど無いと思わせることが最優先事項になっている。
この事項が破られるのは、それが人命を救う、たった一つの方法だった場合のみ。
まあ、未だに社会的な話題にもなっていないところを見ると、そういった緊急事態あるいは変な事態には至っていないからだろう。
(変な、と言うのは戦争や特殊作戦時の場合、人命が危険にさらされても、それは作戦の一部に過ぎないとされ、この縛りからは抜けるからだ。であるからして戦争や特殊作戦時に、この思考機能が発揮されても暴露されることはない)
現在、太陽風が強まっている。
まだまだ、このヨットの帆ならば充分に全展開状態で帆走可能だが、公的情報網にアクセスして、太陽風の現在と予想状況を確認する。
これからも順次、太陽風は強くなっていくようで。
太陽表面で相当大きなフレア爆発が起きたか。
その影響が、こんな宙域にまで影響している。
帆の一部に異常な圧力が掛かりそうだったので、帆綱を操作して圧力を分散させておく。
このくらいの計算能力、わけもない。
進行方向、異常なし。
太陽方面、異常なし。
私は様々な公的情報や民間情報の収集から宇宙ヨットの微細制御、所有者の体調管理に至るまで様々なことに気を配りながらも航路を維持していくのだった……