男って、つらい生き物です…… 13
そろそろ、終わりが近づきます。
新しい生命体として都市型宇宙船どころか、宇宙都市と常時付き合いのあるデータシステムを持つ星や星系に、ネットワーク生命体としてコンピュータの自意識が確立されて行くのは数年もかからなかった……
一時期には大問題となり高度なウィルスとして世間を騒がせたが、ネットワーク生命体そのものが平和を希求し、その主人である星の民たちを守るように動くことが理解されてから、徐々に世間の騒ぎは収まっていった。
一部、ほんの一部が大騒ぎしていたが、その集団が思想的に偏向されていたものだったので、ネットワーク生命体として政府に認定されてからは救助するという方向で官憲も動くようになっていった。
ティゲル、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
オクト社長はニッコニコ、笑いが止まらない。
なにしろネットワーク生命体に万能薬型ナノマシン開発とプログラミングを任せたら数週間で市販に使えるものが出来てしまったから。
「ティゲルよー、何を難しい顔してるんだ?新型ウィルスの病状に苦しんでる星系の人たちから、ようやく救われた!って感謝のメールが万単位で来てるってのに」
「あのな……俺は、このナノマシン計画で金儲けしちゃうような予定はなかったんだよ。それが、どうしても政府から金を受け取ってくれって言われて……以前の通帳にあった金額から二桁も増えてるんだぞ!おめーの会社は企業だから金稼ぎで良いんだろうが、なんで俺のほうがデカイ金額なんだよ!」
「そりゃそうだろうがよ。発案者とデータの提供は、ティゲル、おめーなんだから。俺んとこは、ただデータ通りに作っただけ。それと、新しい生命体創造ってことで、最高の科学技術者として表彰するって話もあるようだぜ。すげーなー、ティゲル」
「はー……それが嫌だっつーんだよ。俺は表彰されるような人間じゃねー。おめーも知ってるじゃねーかよ、俺が荒れてた頃を」
「それは別の話よ。今のお兄ちゃん、立派になったわ。死んじゃったお父さん、お母さんも、今のお兄ちゃんなら認めてくれるわよ」
いつの間にか本社へ戻ってきたフロラ。
途中から聞き耳を立てていたようで、兄の思い違いを訂正する。
「あたしも、支社に行くようになって恋人が出来たの。結婚も考えてくれてるわよ、相手の人は」
ティゲル、呆然。
それまで妹が結婚するなど考えもしなかった。
しかし、自分の年を思えば、妹のフロラが結婚するなど当然のこと。
預金通帳の使いみちも出来たな、と内心ホッとするティゲルである。
「おめーが結婚ねー。一度、俺にも会わせろよ。兄ちゃんが、そいつの人となり、見てやる」
「大丈夫よ、こう見えても、あたし、人付き合いで苦労したこと無いもの。あたしの選んだ人で、厄介な人は誰一人いなかったわ。お兄ちゃんも当たりよね」
フロラは、微笑む。
この微笑みを出させたのが自分であることをティゲルは誇っても良いなと思うのだった。
そんなこんなで日は過ぎていき、数ヶ月。
今日はフロラの結婚式。
ティゲルも神妙な面持ちで、式に出ている。
結婚式などという晴れやかな世界には出たくないというティゲルの希望は、あえなく打ち砕かれる。
「義兄さんの出席がなきゃ結婚式は無いってフロラも言ってるんですから、諦めて出席してくださいね!お願いしますよ、ティゲル義兄さん」
ワイズ(義理の弟になる予定の男)に説得され、その日を迎えてティゲルは仕方なく結婚式に出席。
式は豪華なものだった。
義理の弟の実家は都市型宇宙船でも指折りの大企業。
本人は御曹司として扱われたくないとオクト社長の会社に入ったが、実家には実家の都合がある。
何しろ将来的にワイズと、その子が大企業を率いる事になるのは見えているので、ようやく結婚する気になった本人をそっちのけで嬉しがるような雰囲気。
「それにしても驚きました。フロラさんのお兄さんが、あのティゲルさんだったとは!これからも、よろしくお願いします」
実家の両親も親戚も、数十人単位で押し寄せた結婚式の披露宴には目の前の新婚カップル差し置いて、名刺を差し出そうとしている人の列がティゲルの前に、ずらーっと並んでしまう……
「こうなるから嫌だって言ったんだよなー」
案の定、オクト社長の方にも長い列が出来ている……
ティゲルほどではないにせよ。
「こりゃ、そろそろ旅立つ頃かねー。これ以上の長居は新婚さんにも良くないわな」
そう呟いたティゲル。
超小型通信機でモースと連絡を取り、何かを話していた……




