男って、つらい生き物です…… 11
もう少し続きます。
ティゲルは、また近所を彷徨うように散歩する。
ちなみに、オクト社長の会社はと言うと……
「はいはい、オクト精密デバイス設計です!え?新式エンジンは、いつ公開されるかって?もうすぐです、もうすぐ。今、関係官庁や軍と予定調整してますので……あ、はいはい。発表後でないと価格や内容は、お答えしかねます……え?そう言われてもですねー。あ、はいはい。いつとは申せませんが半年後とかじゃないので。はい、どうも、はい」
あいも変わらず最新デバイスの発表予定と関係官庁や軍との調整で忙しそうだ。
本社が未だに薄汚れた自宅を兼ねた事務所形式なので、この会社が、今や都市宇宙船国家と、それに関係する星系すべてを巻き込む台風の目と化していることを忘れそうになる。
ティゲルは、そんなことも忘れているのかどうかも知らぬげに、あっちこっちの店を冷やかしては買い、冷やかしては買いを繰り返す。
大袋に数袋分も買うと、またひょいひょいと歩いて店に戻り、おじちゃんとおばちゃんに菓子袋を渡し、自室へ。
「うーん……一応、この都市宇宙船は滅菌処理が徹底されているんで、昼休みに定食屋へ入った時にやってたギャラクシーネットニュース最新報道の、猛毒とは行かないけれど高齢や持病持ちには危険と思われる病原菌が蔓延したらしい星からの旅行者やビジネスマンに注意を!とか言うやつは、どうにかしなきゃいかんよなー……あの御方から貰ったデータチップに何かあったっけ……」
データチップをビューワーに差し込み、中を見てみる。
何しろ膨大なデータが入っているので、ちょっとやそっとじゃ中を把握できない。
「ん?このビューワー、検索機能もついてるのか。試しに……治療薬と。おー、検索してるなー……1件ヒット?1件だけかよ。なになに……ぶっ!こ、こりゃ大変だーっ!」
ティゲルは、あわてて裏へ走る。
「お、オクト、オクトー!てーへんだ、てーへん!」
「やだなー、底辺だったのは数ヶ月前までのことだろ。今や我社は飛ぶ鳥を落とす勢いで」
「そんな底辺のことなんて言ってるわけじゃねー!大変なんだって!半月前に見せたデータチップなんだけどな……ちょっと水くれ……」
あわてて走ってきて喋り散らすもんだから、ティゲルは水を飲む。
「んぐんぐ……ぷっはー!いつも美味いねー、循環水は。おっと、こんな話するんじゃねーんだよ!これ、ここ見てくれ!」
携帯型ビューワーの表示画面を指差すティゲル。
「なんだよ、データチップのビューワーに標準装備されてる検索機能じゃねーか。なになに……ナノマシンの医療的利用に供せる万能薬化?何だこれ?……はいぃ?!ナノマシンを万能薬として使うための設計図とプログラム方法まで書いてあるぞ!おい、ティゲル!こりゃ、何だ?以前に、さる御方から貰ったとか言ってたよな。あの時には話半分で聞いてたんだが……もしかして、あの話、全部が本当の事か?」
「俺が、このことで嘘ついて何の得があるってんだよ!まあ、信じちゃもらえんとは思ってたが、そこまで疑われるのは……俺の昔の悪さが引っかかってるのは自分でも分かってるんで何も言わねーが、あの話は全部、本当のことだ。ちなみに、このナノマシン万能薬も実際に俺に使われてる……宇宙マムシに噛まれて三途の川を渡ってる途中で引き返すことになったのも、この万能薬だよ。宇宙マムシって知ってるか?噛まれて一分以内に専用血清を射たないと、あっという間にあの世行きって猛毒を持つ生物だ。俺とモース二人で、宇宙マムシ酒に使うために捕獲してたんだが、ちょっと気を抜いたらガブッ!手袋してたんだが、そんなもので牙が止まるわけがない。血清は持ってきてたんだが、その前にモースが噛まれて治療に使い切っててな……」
「それで死ぬ一歩手前にあったとき、その御仁と会ったんだな。で、データチップも、その御仁から貰ったと」
「そうよ、その通り!手の施しようがないと思われてた俺が、一日後には飛び跳ねられるくらいだったから、その効き目は保証するぜ。実は、ここだけの話だがな……俺が大金稼いだ小惑星も、その御方から貰ったもんだ」
「はぁ?!おいおい、データチップくらいなら分かるし、ナノマシンの薬ってのも未来技術だが理解は可能。しかしなぁ……小惑星くれるって、そりゃ神様だぞ、おい」
「神様なんて不確かなもんじゃねーよ。生きて、この宇宙を飛び回ってる御方だ。まあ、滅多に出会うこたーねーよ、その船は、あまりにでかくて銀河内に入ることが殆ど無いってんだから」
「なんだぁ?あまりにでっかくて銀河内に入らない?なんだそれ?お月様くらいあるてーのか?」
「いやいや、そんなもんじゃねーよ。聞いて驚け、本体は俺らの星と同じか、それより少し大きな惑星サイズ。それに接続されるお月様サイズの衛星クラス船が三隻。もう、想像も難しいような超巨大宇宙船だ」
「あ?おい、そうすると、この都市型宇宙船よりデカイって話じゃねーか。そんなものが銀河の外に?乗っているのは神様か、その類だろうが」
「まあな、神様なんてあやふやな存在じゃないことは保証する。この星がある銀河、そのまた大きな銀河団、それより大きな超銀河団すら越えられる船だから、それに乗ってる人たちも半分神様みてーなもんだ。ちなみにな、こりゃ内緒だが……俺の今使ってる宇宙艇、これも、その御方に貰ったもんだ。直径100mの球形船。おめーに教えたフィールドエンジンを備えて、跳躍航法も使える万能工作船だ」
隠すことも、もう無いだろうとばかりに喋りまくるティゲル。
オクト社長の目は皿のように真ん丸に見開かれている。
信じられない話が次々と飛び出してくるが、もう信じないわけにはいかない。
「宇宙船までくれる存在……太古の伝説に言われる「仙人」ってやつかな?もう、その御方が神様だろうが仙人だろうが、それとももっと別の何かだろうが構わねーな。その存在が、この銀河で何をやらかそうってんだ?与えるだけ与えて、それまでってわけにゃいかんだろ?」
「その御方はな、侵略だとか戦いだとか、そんな小せーこたー考えないんだよ。今まで、2万年以上に渡って、あっちこっちの銀河や星雲を訪問して、戦争を終わらせ、宇宙規模災害を収束させてみたり、災害後の星や銀河をまるごと救ったり……善意の塊っていうのかね、そういうの。まあ、その御方の言うには、自分の手の届く範囲、見える範囲でトラブル解決してたら、自然とこうなったと言ってらしたがな……」
「はぁ?自然と、こうなった?なんだそりゃー。俺にゃー、何だか不思議な空想物語としか思えねーよ」
事実しか語っていないのに信じてもらえないティゲル。
今度こそ、ふかーくため息をつく……




