男って、つらい生き物です…… 10
これで、クライスト氏の話は終わり(笑)
またティゲル中心に戻ります。
ここは、ティゲルの部屋。
もう夜も更けて深夜だというのに、未だティゲルとクライストの酒盛りは終わらない。
「ねー、聞いてくださいよ、ティゲルさん。こんな馬鹿なことってあると思います?なんと、我が精鋭の弟子13人のうち、12人までが私の死亡時に現場から逃亡してたんですよ、これが。残りの一人は私が官憲に捕まるように細工してくれと頼み込んだ最精鋭の弟子一人……そいつも、最後まで私に付き合いますって言ってたのに、小心者だったんでしょうなぁ、私の死刑が決まったら自殺しちゃったんですよぉ!こうなるから、こうなるって分かってたから、あたしゃ、宗教なんて手段で平和を求めるのには反対だったんだ!あー、馬鹿なことやっちまったよなー」
「え?それじゃなにかい。あんた、死んでるんじゃないのか?幽霊?いや、でも、俺の目の前で酒盛りしてるし……もしかして、生き返った?」
「イエース!その通りでーす!あ、これ、洒落ですからね(笑)」
「死刑にされて生き返ったのかい?まあ、しぶといねー。ちなみに俺も生き返った一人だよ……俺の場合、神様なんて都合の良いものじゃない、生きてる御方だったけどな」
「おお!ティゲルさん、あんたも復活組でしたか!いやー、仲間と出会えたのは祝福、祝福。飲みましょ、ほらほら」
「クラちゃん、あんた笑い上戸だったんかい。もしくは、それまでが暗すぎる、辛すぎる生活だったんかな?まあ飲め。で?生き返ってからは星の世界へ?」
「はい、復活後は弟子たちに挨拶してから、そのまま任務は宇宙規模へと。あっちの星雲、こっちの銀河と流れ流れて、ついには銀河団も超銀河団も超えて、こんな都市宇宙船までが任務範囲となりまして。でもねぇ、このごろ任務が楽になってるんですよぉ、これでも。行く先々で任務につくと、これが平和なんですなぁ、なんでか知らんけど。ま、そのおかげで短期で次の銀河や星へ飛ばされたりしてますが」
「ちょ、ちょっと待ってくれや、クラちゃん。あんた、自分専用の宇宙船も無いって言ってなかったか?そんなポンポンと、銀河なんか超えられないぞ?」
「それがね……上位者だけが使える裏技があるんですよ、これが……自分としてはもうお役御免になりたい原因の一つなんですがね……この肉体を捨てるんです」
「はー?おいおい、それって死ぬってことじゃねーかよ!なんで簡単に死ねるんだよ、命は一つ、あなたも一人、なんて歌もあるだろうに」
「ははは、そう言ってくれる人は初めてだなぁ……あー、この都市宇宙船に来て良かった。ここも平和だから次の任務先に呼ばれるのは時間の問題だろうなぁ……」
「任務は確定かよ……上司が厳しいと部下は大変だよなー。それに比べて俺は幸せだったということか……ありがとさんでした、南無楠見大権現様……」
「おっ?!楠見?ああ、あなたは、上位者たちの会話に頻繁に出てくる生命体、クスミなんとかという人に助けられたんですね。じゃあ、クスミなんとか氏にもう一度会ったら、伝えといてください。私、クライストがとても感謝していると。あの人のおかげで私も助かってるんですよ」
「はっはっは、それじゃ、もう一度乾杯だ!あんたの上司に、そして、俺を救ってくれた楠見さんに!」
それは、夜を徹して盛り上がっていたという。
次の朝。
「ごちそうになりました、ありがとうございました。この家、あなたに神の祝福が……って、ティゲルさんはもう祝福を受けてるんでしたっけ(笑)」
「いやいや、こっちも楽しかったよ。またどっかで会えたら飲もうぜ、クラちゃん。達者で……ってのは変だな。死に転移の移動方法らしいから」
「そういうことです。まあ、記憶を消去されることはないんで、つらい記憶も楽しい記憶も持っていけるんですけど。それじゃ、ティゲルさんも、ご家族も、お達者で。これで、おさらばです」
そう言って、クラちゃんことクライスト氏はティゲルたちに背を向け、どこかへ歩き去っていく……
その姿が見えなくなる寸前、ふっと消え去るように、その姿が見えなくなり、スポットライトのような光が集中していく。
都市宇宙船だから採光も散光も管理されているはずなのに周囲は暗くなり、消えたと思ったクライスト氏は空中へ上っていくところだった。
ティゲル以外、なにか崇高な物事を見たように手を合わせていた。
「へっ、洒落たことやるじゃねーかよ、クラちゃん。おーい、次の現場でも頑張りなよー!」
フロラたちにギロリと睨まれて、あわてて家の中へと入っていくティゲルだった……