男って、つらい生き物です…… 9
ティゲル、ある人物と出会います(笑)
ティゲルが、また暇にあかせてぶらついていると……
とある男に出会う。
「よー、珍しいね。こんな路地裏って言うようなところで外人さんかい」
ティゲルに声をかけられた、どう見ても異星から来たと思われる中年のように見える男は、疲れたような声で答える。
「ああ、この都市宇宙船の地元の方でしたか。こっちの世界へ来たばかりで、右も左も分からなくなっていたのです。助かりました」
ちょいと変な訛りはあるが、どうせろくでもない店のデータチップでも買って、この星の言語を憶えたのだろうとティゲルは察する。
「あんた、どこからどう見ても、この都市宇宙船、それどころか、故郷の星でも見かけない人種だね。一体、どこの星のお方だい?」
「お、これは失礼しました。では……お控えなすっておくんなさいまし」
いきなり、業界用語が出てきたので驚くティゲル。
「あ、ああ、分かったよ。お客人、お控えさせていただきやす」
ティゲルの返しが、よほど嬉しかったのだろう、次々と中年男は名乗りをする。
「早速のお控え、ありがとさんにございやす。手前、地球は中東地域、ガリラヤにて生まれしもの。ヨルダン川で産湯を使い、姓はナザレ、名はクライスト。人呼んで、ジーザス・クライストと発します。今後共、よろしゅうお頼申します」
「おお、久々に聞いたぜ、そのタンカ。じゃあ、こっちもだ。お控えなすって!さっそくのお控え、ありがとさんにございます。手前、**星域は%%星系の##ってな星から発しやした都市型宇宙船に生まれやした。都市型宇宙船と言っても、いささか広うござんす。中核部より離れた田園都市部に生まれ落ち、近くの寺院の循環水で産湯を使い、姓はカルラ、名はティガーフォルス、人呼んで、山師のティゲルと発します!ってなもんだ。どうだい?」
「おお、素晴らしい!私の憶えた言葉では、ここまで長い言い回しは使わないと聞いていましたから、それが聞けただけでも感動します。ありがとうございます、ティゲルさん」
互いを褒め合い、照れ合う二人。
「ところで、クライストさん。こんなところで何やってたんだ?」
「それがですねぇ……聞くも涙、語るも涙の物語なんです……聞いてくださいますか?ティゲルさん」
「おう、聞いてやるから話してみな。話によっちゃ、俺が手伝えるかも知れねーからよ」
「では……あれは、今からもう、2万年以上も前のこと……ここではない星、地球に生まれ落ちた私は、上位者……その頃の若い私は「父」と呼んでいましたが、違うんですね。宇宙や星を管理する、我々より上位にいる次元の存在です……の命令により、その地に平和で争いのない地を作るようにと活動を始めました」
「ほうほう、面白くなりそうな話だな。それで?あんたが平和で争いのない地を作るために選んだ方策は?」
「それがですね……テクノロジーは低すぎて宇宙どころか空すら飛べないレベル。遠くへ行こうにも、機械類は全くもって言いようのないほどに使えないものばかりで、馬車か歩くだけ……銀河を股にかけていた記憶を持つ私がですね、そんな原始文明で何ができると思います?何もできませんでしたよ。ちなみに私、大工の息子として生まれたんですが、その大工仕事ってのも日干しレンガを積み上げて建築物を作るってレベルでしたね。ほんっと、絶望しましてね、その星に。若い頃には笑顔もあったんですが、成人する頃には笑顔なんか忘れてましたよ」
「ほー、えれー苦労したんだなー、お前さん。でも、その上位者?からの命令は実行しなきゃいけないんだろ?どうやったんだい?」
「それがねぇ……いっちばんやりたくなかった宗教なんです。それしか私にできることは残されていませんでした。ああ、迫害されたなぁ……あ、やめて!ムチでぶたないで!殴らないで!お金を盗らないで!なんて、日常茶飯事でしたよ。でもね、私にはすこーしばかり力がありましてね。他人の精神に働きかけるテレパシーというやつと、自分の体重の数倍くらいの重さのものを持ち上げるくらいの観念動力、サイコキネシスと言うやつですか。それを使って、貧民街に弟子たちと繰り出しては、衛生状態を改善して病人やら怪我人の環境を改善して治癒力を高めてやったりしたもんです」
「ほーほー、貧しき者らに施しを!富めるものから貧しきものへ、ってな」
「そうです、支配階級の人たちは、貧民街があっても近づくことすらしませんからね。虫の息だった者を集中治療とサイコキネシス心臓マッサージで救ったこともあります。死者が蘇ったとか言われて、また信者が増えたのは良かったんですが、案の定、支配階級に目をつけられましてね……私、何も悪いことしてないのに、官憲に捕まっちまったんですよ」
「そいつぁーてーへんだったなー。まあ、一息入れな。飲めるんだろ?」
「あ、できれば安物でも良いので葡萄酒を。前の世界でも弟子たちと一緒に安宿や貧民街で安い葡萄酒を飲み明かしたもんですよ……あ、おっとっとっと!じゃ、一杯……んぐ、んぐ、ぷっはー!苦いけど、美味いですね。合成ビール?へぇ、アルコールは入ってないけど、味はアルコール入りと同じ?はぁ、やっぱし文明社会は良いよなぁ……ぐしぐし」
「男が泣くもんじゃねーよ。泣いてたまるか!俺が泣いたら空も泣く、なんてな。ここじゃーなんだから、俺んちで飲み直そうや!な、クライストさん、クラちゃんよ!」
「クラちゃん、良いですね、それ。今まで、そんな呼び方してくれる人はいませんでしたから新鮮です。行きましょう、徹夜で飲み明かしましょう!ティゲルさん!」




