宇宙台風 その9
次回、最終話です。
こちら、ガルガンチュア船内。
「さて、と。色々と裏工作して、宇宙台風の影響がすぐにも来ると思われる星系は住民ごと引っ越しさせたし……そろそろ、実力行使で強制的にコミュニケーション作戦、やってみるか」
楠見の言葉に反応する郷。
「え?師匠は、あんな宇宙台風なんて超自然現象みたいなものが生命体だと考えてるんですか?直径が10万光年弱の生命体……な、なんか目の前がクラクラしてきましたよ。どうやったら、そんな考えになれるのか、教えてほしいもんです」
郷、気持ちは分かる。
もう、超自然現象とか言われたほうが理解しやすい宇宙台風が、よもや生命体だなどとは、思う方も超自然現象に近い思考形態だろう。
「だってなぁ、郷さんや。宇宙台風の、今までのコースを考えてご覧。銀河と銀河の間を食い散らかすように抜けてるだろ?急激に方向変えてる地点もあるし、こりゃ思考力のない自然現象と考えるほうが不自然じゃないのかね?」
「いやでも、だってですねぇ……はぁ、仕方がない、認めますよ。宇宙台風が、ある程度の思考力を持つ生命体だって事は。でも、惑星とか太陽とか言うレベルを超える大きさのものに対して、どうやってコミュニケーションとろうって言うんです?近づくことも出来ないじゃないですか、危険すぎて」
「まあ、確かに。近づきすぎて、その勢力圏内に入ってしまったら、さすがのガルガンチュアと言えどもダメージは免れないだろうな……食われたりとか、破壊されることは絶対に無いだろうけど」
ガルガンチュアほどの宇宙船に対してもダメージを与えられるほどの宇宙台風。
そんなものに対し、いくら宇宙最強レベルとは言え、人間一人が何を、どうすれば良いのやら……
「フロンティア、ちょいと相談がある。ガルガンチュアを構成する船、4隻の全てのエネルギーを使ってシールドを展開したら、宇宙台風に突っ込めるか?」
楠見の言葉にガルガンチュアの総力戦となりそうな気配を感じて宇宙船同士での会議が始まる。
とは言え宇宙船同士は顔を見なくとも会議など簡単。
頭脳体も交えて、4隻と4人での仮想空間会議が始まった。
「マスター、一時間ほど下さい。ガルガンチュアの総力を結集すれば宇宙台風の喉元まで近づけるかと……では、会議に入ります」
ガレリアもトリスタンもフィーアも黙り込む。
これからはデータの問いと答えの応酬となる。
1時間半後、ようやく4名の宇宙船頭脳体が動き出す。
「意見がまとまりました。今のガルガンチュアの総エネルギーを使えば、あの宇宙台風の中に飛び込んで中心部を目指す事は可能です。しかし、宇宙台風の中が、どうなっているかが全くわからない状況で中へ飛び込むのは、いささか準備不足と言わざるを得ません」
「ガルガンチュアとしての総括だな、ありがとう。ところで、トリスタンは宇宙台風で何か情報を掴んでいないのか?特殊センサーで、ここしばらく宇宙台風を監視してたよな」
「はい、確かに。私が掴んでいるのは、この宇宙台風が特殊なものだという事実です」
「宇宙台風現象そのものが特殊だと思うんだが、それでもトリスタンが観測して特殊だと思うのは、どうしてだ?もしかして、中の様子が観察できたのか?」
「いえ、中の様子が観察できたわけじゃありません。逆に、中が見えないことで推察できることがあるのです」
「え?どういう意味だい、トリスタン。見えなきゃ意味がないだろう」
郷が聞く。
「私のセンサーは特殊なものです。通常では捉えきれないものまで感知することが可能ですが……あの宇宙台風の中は、見えないのではありません。中に何もないのですよ」
「ん?どういう事だ?宇宙台風は存在するが、その中はスカスカということか?」
「いえ、スカスカというよりも吸い込んだものを吸収しているのではないかと……つまり、質量のエネルギー化です。ブラックホール現象でも質量のエネルギー化は起こりますが、どうも、そういう形ではないようです」
「と言うと……文字通り「食っている」ということか?」
「そうですね。食っているという形容が正しいと思います。ブラックホールであれば、自重と回転速度により動かなくともエネルギーに事欠かないくらいの星間物質や惑星恒星衛星など大きな質量が確保できますが、宇宙台風は質量的には軽すぎるほどに軽いと思われます。具体的に言うと……多分、星系一個ほどの質量もないでしょう」
「ええっ!あれだけ銀河を食い破るほどに強力な宇宙台風が、スッカスカで軽いものなんですって?!何なの、それ?」
ライムが驚きの声を上げる。
「エッタ、お前なら理解できるかもな。あれは、お前の同類かも知れないぞ」
楠見に言われたエッタは、
「そう言われてみれば……精神生命体となって幼体から成体となってからは、この3次元宇宙でのエネルギー消費は少なくなりましたが、それまでは、どうにかして自分の存在を存続させつつ、成長のためのエネルギーも確保しなきゃいけなかった記憶がありますけど……でも、宇宙台風なんて物騒なものじゃなかったですよ、私の場合」
「これで判明したな、あの宇宙台風の正体。どうにかして宇宙台風の中心部まで行き、中心にいる存在とコミュニケーションをとる。そして、はた迷惑な今の状態から、成体となって超空間エネルギーで生きていけるように教育してやるのがトラブル解決の骨子。さあ、行くぞ!」
数時間後、宇宙台風は自然消滅した。
観測していた宇宙軍の一部隊は、緊急警報を出す。
「宇宙台風キャサリン(仮称)、消滅!繰り返す、宇宙台風、消滅!原因不明だが、宇宙台風は消滅した!」