宇宙台風 その6
テイラーの過去編、終了(笑)
どうしても聞きたいことがあると、催し物が終わってから自室へ帰るテイラー教祖を引き止め、カワギシは質問する。
「テイラー教祖様。あなたが、この汎銀河教の中心人物だということは、この団体にいるもの全てが承知しております。そこで、どうしても聞いておきたい事がありまして」
不思議な顔でカワギシを見つめるテイラー。
「え、カワギシ君が?君は、この教団の最古参グループの一人だよね。ボクのことなら全て承知してるはずなのに、何が聞きたい?」
「テイラー教祖、いえ、テイラー様が、いずれ宗教というものにも飽きてしまわれるのではないかという事です。ご存知のように宗教団体というものは、一人の教祖に全ての教団員が信仰と情熱、そして神への愛を捧げています。あなたが、この汎銀河教に飽きてしまったら、この教団は、その時点で崩壊しますよ」
カワギシは日頃の思いを全てぶちまける。
そう、カワギシが恐れているのはテイラーが現在、宗教的情熱を持って運営と発展を目指している汎銀河教という巨大宗教団体の崩壊である。
「大丈夫だよ、カワギシ君。まだまだ、この宗教団体はボクにとって必要不可欠なもの。まあ、ボクの子供や子孫にとっても不可欠なものになるかも知れないが……なんせ、この宗教団体で、あの宇宙台風キャサリン(仮称)に立ち向かおうってんだからさ」
あっ!
と思うカワギシ。
こいつ、本気だったんだ……
ずいぶん昔、汎銀河教という宗教団体が、まだまだ小さなものであり国家どころか地方自治体すら認識外だった頃の話を思い出したカワギシだった……
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「なぁ、カワギシ君よ。この汎銀河教、未来にはどうなると思う?」
その頃は宇宙軍を辞して一年も経っていなかったため、未だに入信希望者よりも元の宇宙軍関係者からの面会希望(つまりは、もう一度、軍へ戻って下さい!の懇願団体)を取り次ぐのが大変だったカワギシにテイラー教祖が語った。
「テイラー教祖、いや、テイラー様……これを口癖にしないと宗教団体としてマズイからな……まだまだ、汎銀河教は大きくなるとは思うけど四大宗教を超えるのは無理じゃないか?と私は思う、正直な所。だって、この汎銀河教、テイラー様のカリスマで保っているようなものだから」
「いーや、違うよ、カワギシ君。この汎銀河教、この宇宙、この銀河でも有数の強力な教団にしてみせるさ。ボクにはね、銀河統合宙軍の司令長官だった時に見た一枚の宇宙図が未だに忘れられないんだよ……あの全てを飲み込むような宇宙規模、いや、銀河規模の災害、宇宙台風のことだ」
カワギシは、この時初めてテイラーから、銀河の数十分の一という、とんでもない規模の宇宙災害が存在すること、そして、この銀河宇宙に向かって、その宇宙台風現象が向かってきつつあることを知らされる。
「恐ろしい話ですな、それは。で?この銀河が宇宙台風に巻き込まれるのは、どれだけの年数が経ったらですか?」
「それがだねぇ……たった数万年だよ」
「は?」
「だから、最短で4万年以下、最長でも10万年はかからない。そんな、ちょっとした未来に宇宙台風が襲ってくるんだってば!」
カワギシは、その時は人外の物を見る目でテイラーを見つめていた。
こ、この男、本気か?
本気で、数万年先の銀河規模災害を防ごうとしているのか?
「テイラー様のお考えは、理解しようとしても普通の人間たる私には理解不能だと思います。決定事項だとは言え何処の誰が数万年先の大規模銀河災害を本気で心配して今から対策を練ろうと思うものですか?!普通なら、そんなことは未来の子孫へデータとして書き残すか、それとも石碑とかに彫るべきものでしょうが」
普通ならカワギシの考えることのほうが常識である。
しかしテイラーは違った。
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この会話から10年以上経つが、テイラーの予言通り汎銀河教団は、この銀河でも有数の巨大で強大な力を持つ宗教団体へと成長した。
通常、一つの星で発生した宗教団体が、文化や種族、生命形態すら違う別の星系で受け入れられることが滅多に無い。
それが、言葉は悪いが病原体のウィルスが突然変異して宇宙中に蔓延でもするかのように、汎銀河教の教えを説くエバンジェリストと入信希望者は今でも膨大な星系にまたがって増え続けている。
カワギシは自分の目が曇っていたことに気づく、今更ながら。
「テイラー様、あなたは神ならぬ身で、神の如き愛と宇宙の如き心で、この銀河全ての生きとし生ける者たちを救おうと、未だにあがき続けているのですね!このカワギシ、今更ながら気づきました!愚かなるこの身、恥じております!」
テイラーは当然のごとく、こう語る。
「数万年を見る目があるか?という問題だよ、カワギシ君。普通の者は見ることも考えることも不可能さ」
そう言うテイラーだが、その目に映るのは、今の景色か?
それとも、宇宙台風の襲い来るだろう未来の景色か?
凡人なるカワギシに、それを判断する事は不可能だった……




